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第六〇話 年の功

ちょい短めです

 ジャレル達と共に大聖堂に戻ると、うちの兎が虎に捕まっていた。


「ぎゃわいいいいい! この娘貰っても良い?」


「お、おたすけ~」


「メ、メルメルー! アダムさん、メルメルが虎のお姉さんに襲われています!」


 メルメルをしっかりと両手で抱えたその女性は、細身の長身でショートカット姿が似合う、一見してキャリアウーマンの様な印象を受ける女性だった。


 デレデレとした顔で、メルメルに頬ずりをしていなければだが。


「先輩なにやってんです!」


 やはり、ジャレルのお仲間さんだったか。


 私は誘拐犯の頭部に生える虎の耳を見る。


 ミレよりも小さな耳だが、それは彼女が獣人である事を如実に示していた。


「兎種にゃ! お仲間にゃ! ミレにも抱き着かせて!」


 新たな参戦者がそう言って、既に何か諦めたような顔のメルメルに向かって行こうとするが、服の襟を後ろからジャレルに掴まれる事で、その動きは阻害された。


 両方共、猫の狩猟本能がだだ漏れていないか?


 見た目だけで言えばナタリアに近い雰囲気を持つ虎の人は、完全に変質者の目でメルメルを玩び続けている。


 ジャレルと共に丁重に引き剥がさせてもらった。中々力あるなこの虎の人。


「お恥ずかしいところを見せてしまいましたね。私は『レン・ガラ』と申します。好きな物は可愛い獣人の女の子です」


 現在進行形で恥を晒し続けている気もするのだが、レン氏はそれで良いのだろうか。


 少なくとも頭を抱えているジャレル君は見なかった事にする。


 これでレストニア都市連邦からやって来た三人とは顔を合わせた訳だが、最後の一人、ジャレルが言っていた『老師』とやらが見当たらない


「レン先輩。老師はどちらに……?」


「……やばっ」


「何やってんですか! 置いて来ましたね!? 老師ー!」


 ジャレル。君って奴はなんて可哀想な奴なんだ。


「メルメル。ナタリア達は一緒じゃないのか?」


「わたし、おはなつみにきた〜。かえりに〜

おそわれた〜……。とおくから〜はしってきた〜。こわ〜」


 解放され、即座に私に後ろに隠れたメルメルをライラが慰めていると、何やら背負ったジャレルが戻ってきた。


 彼に背中にすっかり隠れてしまっているが、あれが彼の言う老師なのだろうか。


 私のその疑問は、彼が丁重に自分が背負っていたものを地面に置いたことで氷解した。


「ごめんねジャレル。ワシ、足が遅くってね。短いもんだからね」


 そこに居たのは、二足歩行の年老いた亀だった。


 身長は僅かに一二〇センチ程だろう。


 指の数が少ないその手に形から察するに、海亀でなく陸亀と推察出来るが、その風体は私が今まで会った事のある数少ない獣人と比較してもかなり獣寄りだった。


「どうもね。初めましてだね。ワシはこの子達の代表をやらせてもらっている『トレト・トト』という名前の亀ジジイだよ」


 ボンヤリとした立ち振る舞いと話し方で、目の前の年老いた亀、トレト老人は自分の無骨な指を合わせながら挨拶を行った。


「君がアダム君ね。大きいね」


 やけに大雑把な感想をいただいた私は自分も挨拶を返した。


「ちょっと〜、らちされそうに〜なったんですけど〜」


 私に背後に隠れたまま、メルメルが恨み節をトレトに投げ掛ける。


「ごめんね。レンは腕は立つし、勉強も出来る護衛だけどね。時々考え無しね。レン、きちんと謝りなさいね」


 代表を置き去りにしてメルメルに突撃する女性を護衛にするのはどう何だろう。


 レン氏はメルメルに目線を合わせて謝罪を行うが、やはり目が怖いし息も荒い。


 こわっ。


 こうして私はレストニア都市連邦の会議参加者と会う事が出来た。


 何というか、キャラが濃い面子だ。


「メルメルー! 何処にいるのー!」


 そうこうしていると、ナタリア達が中々戻って来ないメルメルを心配してか此方に探しに来た。


 結局、ミネリアとレストニアの連合支部の人間が一堂に解する事になったので、私達は場所を移して時間を取る事になった。


 因みに、ジャレル君が、探しに来たナタリア達を含めて私達全員に地に頭が付かんばかりに謝罪したのは言うまでもない。


 レンも改めて謝罪したのだが、ジャレル君は本当に可哀想だ。


 今回も、なんだかんだでいつも使わせて頂いている談話室に落ち着かせて貰った。


 必然、サーレインやゼラ達も同席する流れとなった。


「君が今代の水の巫女姫ね。初めましてね。そしてイーヴァ、お久しぶりね」


 トレト老人はイーヴァさんと面識があるらしい。彼女も懐かしげに顔を綻ばせた。


「トレト・トトお爺ちゃんね。初めまして、私はゼラ」


「ああ、これは、確かに不思議な感覚ね。よろしくねゼラ」


 そう言って握手を交わす二人だったが、二人は妙に気が合う様だった。


「言いづらいからトッシーって呼んで良い?」


 おい。


「良いね。渾名で呼ばれるのなんて何年振りかね」


 良いんだ。


「にゃあ。ミレも、トト爺ちゃんの事そんな風に呼べないのに」


「俺達が呼んだら駄目だろ」

 

「構わないね。何百年も生きていると、みんなワシに気を遣ってきて寂しいからね。ジャレルもそんなにワシを気にしないで良いね」


 いきなりとんでもない発言が飛び出してきた。流石のゼラも驚愕している。


「トッシーながいき〜」


 メルメルが即座に乗ったのを皮切りに、サーレインまでもトッシー呼びを行う。


 やがてそれは一部を除いた人間によるトッシーコールとなって談話室を満たした。


「いやあ、若い頃を思い出すね」


 トッシー恐るべし。



 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] トッシーは、どこの湖で発見されるのか(笑)
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