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第五十二話 複雑

いつも誤字報告ありがとうございます!


この場を借りて感謝いたします!

 夜が明けて次の日の昼過ぎ、私はリヨコと共にある人物と面会する事になっていた。


 その人物とは、この大聖堂に四人しかいない、実質的な最上位に位置する『導師』と呼ばれる役職に就いている人物で、名前を『レシナール・トロストロ』と言った。


 この面会は元々行われる事が予定されていたもので、その日の内にお目通りが適わなかったのは、昨日私達が無事に到着したことを知った大聖堂側が日程を調整した結果だ。


 しかしそれでも、導師全員ではなくレシナール導師ただ一人との面会となったのは、向こうの都合もあるとの話だった。


 会えないのか会いたくないのか、まだ判断を下すには早すぎるが、今のところ邪推してしまう材料が多い。


 今回の面会は、顔合わせという側面が強いのでこちらから参加するのは私とリヨコだけだ。


 本来はナタリアやライラもいた方が良いのだが、向こうが一人である事を建前にして、こちらの戦力を考え人数を合わせる形で減らさせてもらった。


 向こうも大人数に対して一人で会いたくは無かったのか、特に問題もなくその話は纏まった。


 案内された部屋の前には衛兵と思わしき人物が二人、扉の両脇を守っていた。


 彼らの視線に曝されながら、私達は入室する。


 私が入るには少し窮屈さを感じる程度の扉をくぐると、そこには禿頭に鍔の無い小さな帽子を乗せた、私のイメージする聖職者という存在からそう遠くない人物が柔和な笑みを浮かべて佇んでいた。


 歳の頃、六〇程だろうか。目立つほどの具合では無いがやや恰幅が良く、背もそれほど高くは無い人物だったが、その立ち姿は背筋がぴんと張っていて緊張感が有り、佇まいにその役職の高さに対する説得力があった。


「お初にお目にかかります。私がこのアトラナン大聖堂で導師の位を預からせて頂いておりますレシナール・トロストロと申します。この度は導師方全員でのご挨拶が適わず申し訳ございません」


 両手を臍の前で組んだ状態で軽い一礼を行いながら、レシナール導師は挨拶を行った。


 彼の言葉通り、この部屋には彼以外の人間は見当たらなかった。護衛すらいない。


 部屋の外には変わらず衛兵が詰めているのだろうが、彼らは部屋の中までは入って来ていなかった。


「――この度は、お忙しい中お時間を設けて頂きまして大変ありがとうございます。――今回の会議に参加させていただきますリヨコ・ブロンスと申します」


リヨコが深々と頭を下げながら挨拶を返す。


「レシナール導師。お会いできて光栄でございます。同じく会議に参加させていただきますアダムと申します。見ての通り異形の身なれば、この様な具足姿でお目通りさせて頂く非礼をどうかお許しください」


 私の言葉にレシナール導師ははっきりと笑みを浮かべ、興味深そうに私の姿を眺めた。


「構いません。存じております。それにしても、アダム様はゼラ様とは随分と、その、違われますね」


 本当に大変申し訳ございません。


 今回面会するのがレシナール導師だという事をゼラ達に話したところ、あいつはこの人を指して『良い禿』呼ばわりだったからな。普段の態度が伺い知れる。


 挨拶の後、私達は着席を勧められる。当然下座に座るわけだが、この部屋はサーレインと会話した談話室よりも調度品は数段上だった。私は特に不安もなく革張りのソファーに腰掛けることが出来た。


「我々の予想よりもお早いお着きだった為、こうした形でお会いする事になってしまいましたが、参加者全員が揃った段階でもう一度全員でお顔合わせを予定しておりますので、ご了承ください」


 ちょっと釘を刺されたが、それでもこうして会っていただけるだけ、他の導師よりもこちらに歩み寄ってくれているのが分かる。


 道中の話や、初めて訪れたパーマネトラに関する感想を交えながら会話を行う。


「物をあまり知らぬ身ですが、このパーマネトラ程、他の都市から人の往来が多い場所を私は知りません。王都ですら、これ程の『観光客』はいないでしょう」


「ええ、大変ありがたいことに近隣の国からも、ここパーマネトラを訪れようと人々が集まってきております。これもみな、霊峰におわすグラガナン=ガシャ様と、王都から国土を守っていらっしゃるシャール=シャラシャリーア様達の御威光の賜物です」


 明らかに、含みを持たせた発言を行ってきた。


 これは、嫌味と言うよりも、可能な限りこちらに情報を渡そうとしているのかも知れない。


「――近隣とは、今回の会議に出席なさる国々という事でよろしいでしょうか」


「はい。特に最近は今まで観光客が少なかったカルハザール共和国からも遥々お越しになる方が増えております。以前にいらっしゃった使節団の方々が、私どもの評判を広めてくれたものと存じております」


 リヨコを確認する。小さく頷く辺り、その使節団は特に非公式という訳ではないようだ。


「――パーマネトラは国境を有する王国最東端の都市。治めていらっしゃるプラージェフ辺境伯は今回の会議に参加されないのでしょうか」


「辺境伯からは残念ながら今回の参加を見送る旨を頂いております。私としても、是非ご参加いただきたかったのですが、北の抑えとして直轄地から離れられないようです。ご子息を名代として送って頂く話も出たのですが、何分まだ幼いとの事で」


 魔物が存在し、その対抗策として国を跨いだ組織としての連合が存在する。


 私もその一員なわけだが、寧ろその連合が存在することで、国同士の張り合いというものがどうしても発生してしまっているようだ。


 大陸中央に存在する本部は特定の国家に所属していないかなり特殊な存在だが、それぞれの国に置かれた支部は違う。支部が得た情報というのは本部以外にも、当然所属する国にも伝わる。


 そして連合本部が各国支部から集まった情報を基にそれをまた各支部へと戻すと、その情報から遠く離れた他の国の内情まである程度読み取ることが可能になってしまう。


 人に比べるなという方が無理がある。


 私にだって勿論気持ちは理解出来るからだ。


 誰かよりも上、誰かよりも下という情報は薬にも毒にもなる。


 一致団結して魔物に対抗しなければならない前提を他の国の手前忘れたりはしないが、対抗心という物は決して消えない種火の様に国家間に燻り続けていた。


「――今回の会議では廃龍ズヌバへの対抗策を話し合う訳ですが、大聖堂としてはなにか腹案がございますか?」


「それは、こちらもお伺いしたいところでございました。ミネリア王国支部の皆様はどの様にお考えでしょう」


 これはこちらが悪い。


 それを聞くならまずこちらから手の内を明かすべきだった。


 この発言は同じ会議に出席する相手に対して、こちらの立場の方が上であるという無自覚な感覚を有した発言だった。


 実際の所、こちらの方が上であることに間違いは無いのかも知れないが、パーマネトラ側は明らかに自分達が軽んじられている事に憤りを感じている。


 名目上政治に関わらずとも、誰もが認めるこの国のトップであるシャール=シャラシャリーアに対しての憤りとも言える。


 パーマネトラが受ける恩恵の大半はすぐ隣の霊峰にいるというグラガナン=ガシャの力によるものだ。


 この都市からしてみれば、王都と同じく龍の庇護の下、或いは経済的に王都よりも繁栄を遂げている都市であるという矜持がある。


 それにも関わらず、今のリヨコの様に無意識的に王都や連合から『一都市』として、下に見られている事にその矜持を刺激され続けているのだろう。


 今回の会議をパーマネトラで開催することを王都側が認めたのも、そういった事情を察してのガス抜きの側面があるのかも知れない。


「――大変申し訳ございませんでした。礼を失してしまった事、深くお詫び申し上げます」


 だが、リヨコは日本人マインドを継承してきたブロンス家の令嬢だ。直ぐに自分の不明を詫びる事が出来る。


 対するレシナール導師も、直ぐに自分の発言に対して非礼を詫びた。互いに頭を下げあう。


 そもそも、純粋に悪感情による発言ではない事は分かっていた。本当に悪意があるなら、こちらの対応など咎めない。無視して躱して終わりだ。


 その後、こちらで用意した書類を提出し、簡単なプレゼンを行った。


 こちらの目的としては、私達、ミネリア支部が使う分も含めた遺物の確保を国家間に要求する事と、不可能ならば現在の戦力の維持だ。


 だが、勇者であるゼラがいる事で最低限のそれすら難しいかもしれない。


「なるほど、これは大変に申し訳ない事をしてしまっておりました。こちらからも深くお詫び申し上げます。ゼラ様の件に関しましては、導師の間でも意見が分かれてしまっておりました。また導師の一人であるプレキマス・ボイボスティア殿、つまりサーレイン様のお家であるボイボスティア家の意向もございまして、大聖堂内でも混乱が続いております」


 かなり胸襟を開いた発言だった。やはりレシナール導師は、完全にこちら側ではないにせよ、私達に少なからず助力を求めているようだった。


 どうやら、パーマネトラ内はかなり複雑な事情が存在しているようだ。


 これを読み解くには、観光を兼ねた情報収集を行っているナタリア組に期待するしかない。


会話が長い……!

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者を政治の道具にすること自体が間違って居るのを理解して欲しいよね。
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