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第五十一話 観光出来るかと思いきや完全に出張だった件

いつも誤字報告ありがとうございます!

この場を借りて感謝いたします!

 私の年齢ネタで場が盛り上がったところで、サーレインの興味の対象はライラ達同世代にも向かった。


「皆様は全員十五歳で学校も同じ同級生だったとか。憧れます。私が十四歳なので、もし学校に行っていたとしたら皆様の後輩ということになるのでしょうか」


「――それは、飛び級や早期入学の子もいますので一概には言えませんが、そうなります」


「では、もし宜しければ私を後輩だと思ってお話ししてくださいませんか?」


 おずおずと切り出したサーレインに対してイーヴァさんが窘める様に声を掛けるが、結局ゼラが良い笑顔で仲裁に入ることでその希望は叶えられることになった。


「ライラ先輩達は学校でどのようなことを学んでいたのですか?」


「んー。ライラ先輩……うぇへへへ」


 ライラ、取り敢えず何も学んでいない顔するのやめようか。


 その後、学校で教鞭と取っていた時期もあったナタリアが適宜補足を入れながら話は進んでいった。


 私は以前に魔窟で調査を行っていた際に話を聞いたことがあるので知っていたが、ライラ達の通っていた学校とは、連合が運営母体である、連合に入るための予備校のような物だ。


 入学方法は各地の連合職員による推薦のみで、基本的には十歳で入学となる。早ければ八歳という子供もいたそうだ。そこで三年間、連合職員として働くためのエリート学習が行われる。


 ミネリアの学校は一学年二十名程度らしく、その辺りは国によって差があるそうだ。


 学習内容は座学、訓練に始まり、各個人の適性に応じた個人レッスンが設けられ、かなり手厚い教育を受けられるようだった。


 因みに、連合職員全員がこの学校の出身という訳では無い。フレンがそうだったのだが、冒険者等の活動で実績を積めば自薦や他薦で職員になることもある。


 メルメルが演習で暗い森の中に置いて行かれた時のエピソードを披露したり、ロットが危うく崖から落ちそうになった話などをしたりするたびに、サーレインは可愛らしく驚いてみたり、感心してみたり、その表情をころころと変化させる。


「大変そうですけど、やっぱり楽しそうですね。それに凄く仲も良くて、羨ましいです。パーマネトラの観光もされるのでしょう? お友達と観光、憧れます」


 十歳からこの場所で水の巫女姫とやらを務めているサーレインからしてみれば、同年代のライラ達の有様はかなり輝かしく見えるようだ。


 しかし輝かしいばかりでは無く、この間の様に命の危険に晒されることが少なく無い仕事にライラ達は就いている。だが態々それを指摘する人間はこちらにはいなかった。


 安全な街中で、敬われながら生活するというのは人にとってはそれこそ羨望の対象ではないかと思われるが、この手の感慨というものはやはり人によって異なる訳なのだった。


「そうだ! 先輩方は『海』を見たことが有りますか? 私、水の巫女姫に選ばれてから導師様達にお話を聞いて、少し興味があるんです」


 海。


 現在のこの世界では、恐らく海岸線が関の山の危険領域だ。造船技術も衰退したことから、海の魔物相手には相手のホームグラウンドである事からも、まるで太刀打ちが出来ないらしい。


 行く機会も無いため、前世での海は知っている私も含めた、この場の全員が実際に見たことは無いようだった。


 自分が聞いた海の話をするサーレインの様子を見たゼラが妙に驚いた顔をしている。どうやら、彼女が海を見てみたい思っているというのは初耳だったようだ。


 マールメアがここから海までの概算距離を告げる。大分、いやかなり遠いな。


 このガーランド大陸の詳細な地図は、確実に存在はするのだろうが、私も未だお目にかかったことは無い。


 マールメアは昔資料で見たことがあるようだった。


「一番近い海岸が南側ですけど、それでも遠いですからね。恐らくシャール=シャラシャリーア様なら気軽に見に行けるんでしょうけど」


「え、何? 龍ってそんな速いの? え? 飛行機じゃんそれ! ずるー! 私も海行ってみたいわー」


 塩で溶けたりしないだろうな。


 そうして子供達が心温まる交流をしている最中、私はその話を聞きながらこの場にいる人間の動向をつぶさに観察もしていた。


 無粋と言われればそうなのだが、視界が広すぎるというのも考え物だった。見ようとしなくても見えてしまうのだから仕方が無いと良い訳をさせて頂きたい。


 そうやって観察を行っていると、薄々感づいてはいたのだが、やはりサーレインを見るゼラの様子は明らかに知人を見守るだけのそれでは無い。


 サーレインから時折話を振られた際は、取り繕って調子の良い年上の女性の姿を見せているが、彼女が見ていない時の姿は、私がライラに向ける眼差しと態度に非常に似ている。


 叶うならば、一度ゼラとは余人を交えずに話をする必要があるのかも知れない。


 そうこうしている内に、イーヴァさんからこの会合の終わりの時間が近い旨を耳打ちされたサーレインは、残念そうな顔でそれを私達に伝えると、皆に向けての結びの言葉を告げた。


 思ったよりも、有意義な時間を過ごせたように思う。


 クリスタリアや連合ミネリア支部が一枚岩だったので、今回の会議を通して様々な思惑が渦巻くパーマネトラに対して悪印象を持ってしまっていたかもしれない。


 少なくとも、サーレイン本人と、彼女を取り巻く人物については、はっきり味方だとは思わずとも、ある程度好意的に考える必要があるだろう。


 ライラと同世代な所為でほだされたというのもあるのだろうが、私も心はしっかり人の子なのだから仕方が無いと考えよう。


 この日の夜、ナタリアとメルメルの部屋に一度集まって総括と今後の活動について話し合いを行う際に、そういった部分についても皆と共有を行った。


「そうね。サーレインちゃんは、今回の会議には直接関係は無いもの。考えなくちゃいけないのは、まだ揃っていない国も含めた、参加者達の思惑ね」


 そう、会議はまだ始まらない。


 今回の会議に出席するのは連合所属の近隣四か国。


 このパーマネトラを中心に東西南北のそれぞれから一か国ずつ選出されていた。


 ここから西にある、私達ミネリア王国組と、開催地であるパーマネトラのアトラナン大聖堂上層部組。


 北に存在する、国土がまるで壁の様に東西に長い『バトランド皇国』。


 南に存在する、所属するそれぞれの都市が強い自治権を持つ『レストニア都市連邦』。


 そして、霊峰アトラカナンを挟んで東側に存在する大きな盆地に生活圏を築く『カルハザール共和国』だ。


 カルハザール共和国は自国での開催を強く望んでいたが、結局他の国からの意見にも負けて今回の結果となったそうだ。


 東側からしてみれば、山越えを強制される上に霊峰に立ち入ることが出来ないため、到着にはどうやっても時間がかかるので、自国での開催を望むのは当然かもしれなかった。


 とは言え、この世界は街道こそ嘗ての文明が絶頂を迎えた時代に多く拓かれているが、そこを移動する手段にまだまだ乏しい。自分の住む場所の近場で開いて欲しいのはどこも同じなのだろう。


 つまり、会議の参加者で現在パーマネトラに集まっているのは、地元民である大聖堂を除けば何とまだ私達だけなのであった。


「ナタリア、どのくらいかかると……メルメル、どれくらいかかると思う?」


「何で私じゃなくてメルメルに聞いたの」


 君の基準は狂っているからだよ。


「ん~。バトランド、たぶんそろそろ~。レストニア、さんかするとしと、ひとによる~。カルハザール、わからな~い」


 これは質問が悪かったな。メルメルは最大限考えられる内容を答えてくれている。


「――出発時期による、ということですね。――正確な到着時期を知る事は出来ませんが、恐らく最も遅いカルハザールが早ければ二週間の内には来るものと思われます」


「それ遅くねえか?」


「あてつけ~。あそこのひとたちは~れきしてきにも~そういうことする~。でも~しかたない~」


 行きも帰りも山越え確定の人達だからな。しかも霊峰を迂回しながら。


「アダムさん、ナタリアさん、それにリヨコちゃんと私が会議に出るんだよね? 何か遺物下さいって言い難いくらいしか分からないけど、どうしたら良いの?」


 問題はそこだ。


 私達は、ズヌバへの対抗手段として、各国の対応策を知る事と遺物の獲得を目的に会議に参加するつもりだったのだが、やはり最初にゼラと会った際に感じていたように、もう少し話は難しくなっている。


「準備した書類に不備はありませんが、ゼラの存在が非常に問題になるでしょう」


「ナタリア先生。どうしてです?」


 ロットが手を上げながら質問をする。学生の頃の話をした所為かもしれない。


「これで、ミネリアにだけ勇者が二人だからですね。最悪、私達が乗って来た車にも矛先が向くかもですね」


 代わりに答えたのはマールメアだった。


 残念ながらそういう事だ。


 人間、どうしても平等という物には必要以上に拘ってしまうものだ。


 特に今回は、千年の時を超えて襲い掛かる厄災という大義名分が存在している。


 また直接ズヌバと相対し、結果だけ見れば逃亡されたという事実のあるリヨコを出席させている事から、その点もかなり探られるだろう。聞かれない事は無いだろうと本人も考えていたが、ようやくリヨコも落ち着いてきたところだというのに。


 改めて、難癖を付けてこられそうな要素がこちらにはてんこ盛りだ。


 会議開始まで、早くとも二週間。


 私達は、自分達の主張を通すためにも、各国の思惑と、自国内に存在する不安要素を可能な限り調べ上げて会議に臨まなくてはならない。


 さあ、仕事の時間だ。



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