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第四十九話 サイズ的に四人ぐらいなら平気

 さて、気を取り直す。


 ゼラの話が本当だとすると今回の会議の開催を座して待つ選択肢は無い訳だが、どうしたものか。


 この世界における会議という物が私の知るそれと同じというならば、やらなければならないことがここに来て増えてしまった。


 予め知らされていた議題についての資料は旅の合間に既に作成済みだが、ではこれを提出すれば良いかと言えば違うだろう。


 どうにも、会議参加者の派閥調査と根回しが必要になってしまった雰囲気だ。


 事が事だけに、今回の会議にはミネリア王国以外の国からも参加者が存在する。その参加者全員の思惑を探るのは難しいだろうが、やるだけやらなければ。


 正直、私の存在という独自性を前に出して要求を通すつもりだったこちらとしては、ゼラがここで私達の前に出てきてくれたのは僥倖過ぎる。私達を出迎えたのはイレギュラーだったとしても、恐らく顔合わせ自体は前もって行う予定だったのではないだろうか。


 先ほどの口ぶりからすれば、イーヴァさんもこちらに対して友好的と言うか、大聖堂上層部とやらに対して敵対的だ。


 うーん。観光している暇はないなこれ。後、ロットとメルメルは会議が終わるまで一人に出来ないな。


 敵の牙城と言うには過剰だが、少なくとも味方でない人間が多い環境で遺物を持った人物を単独行動させられない。最悪盗まれるかもしれない。そうすれば管理不行き届きでいくらでも難癖を付けられるからだ。


 対廃龍連合会議、その議題はそのものずばりでズヌバに対抗するための策を話し合う会議だが、最も重要だと思われるのはその策を実行するための戦力をどのように割り振るのかという点だ。


 ここで言う戦力とは、即ちズヌバに対抗できる力を指す。今の所考えられるのは二つだ。


 一つは勇者である私、そしてもう一つは遺物だ。


 この会議で話し合われる、誰がどれを管理するのかという問題は、今後のパワーバランスに大きくかかわってくるだろう。


 しかし、国同士どころかその内部ですら争う羽目になるとは。まったく、人間が過ぎるな。


 これは、落ち着いたら一度リヨコやナタリアと話し合わなければならないようだ。


「ところで、ゼラはズヌバについてもう知っているのか?」


 私の質問に探りを入れてきたのを察したのか、ゼラは悪戯めいた視線をこちらに向ける。


「聞いたわ。マジあり得ないんですけど。まあ、戦うって約束させられちゃったけどね」


 流石にその場で拒否できる雰囲気でも無かったと、ゼラは笑いながら語った。手は下に降ろしたままだった。


 ゼラ側の主観で語られてばかりなので判断はまだ出来ないが、上層部とやらとは余り仲良くなれそうもない気配がする。


 そうこうしている内に、今回私達が使わせて頂く事になっている部屋の前まで到着した。


 部屋数は並びで三部屋。何れも二人部屋だった。


「ロットはアダムと同室ね」


 ナタリアの発言に、ライラとマールメアから抗議の声が上がる。ライラは兎も角マールメアと同室はお断りしたい。


 私は眠らないが、隙を見て妙な改造を施されそうで怖い。


 それに先ほどの遺物に関する件を考えなくとも、ロットは私と同室しかあり得ない。


 ナタリアはその眼鏡の奥の瞳をこちら向けながら頷いた。どうやら彼女も私を彼の護衛として宛がうつもりの様だ。任せて欲しい。


「メルメルは私と一緒ね」


 さてそうすると、二人部屋一つに三人が残ってしまった。


「マールメアが床か」


「ちょっと!? アダムさん酷く無いですか!?」


 研究所じゃいつも床に転がっているから平気平気。君は強い子だから。


「冗談だ。だが、どうしたものか」


 もう一部屋頼もうかと考えていたが、イーヴァさんに、用意できる部屋は少なく、一人だけ遠い場所になってしまうだろう旨を伝えられた。


「大丈夫、大丈夫! ここのベッドって無駄にデカいから。マールメアちゃんもライラちゃんも、リヨコっちもまとめて寝れるくらいあるわよ。あの時は私も入れて、ひーふーみー……」


 そう言ってゼラは指折り乗れるであろう人数を数え始めた。生々しいからやめてくれ。


「やだやだ、冗談よ」


 理解できたのはナタリアとイーヴァさんぐらい――いや、リヨコも顔を赤くしているな。


「リヨコっちー? どうしたのー?」


「――リヨコです」


 顔を赤くしたままのリヨコの顔を、口元を手で覆いながらにやつくゼラが覗き込んだ。


 本当に良い性格の女だな。


 そんな事を考えていると、いつの間にかゼラが私の隣にやってきて、私の手に触れてきた。


「表情が無いかと思ったけど、意外と分かりやすい人よね。アダム。ロット少年をシモに巻き込んでないだけ自重出来てると思わない?」


 恐らく私にだけ聞こえるように、触れた箇所から振動波が伝わって来た。


 どうやら彼女の観察眼は中々に優れているようだ。


 思わずゼラに視線を向けると、彼女はウインクを一つ放ってそのまま離れて行った。


 そんな彼女の行動を見とがめたライラに、私はジト目を向けられる羽目になってしまった。


 もうちょっと自重してくれると助かる。


「一度荷物を置いていただけましたら、談話室にお越しくださいませ。巫女姫様がお会いになりたいそうですじゃ」


「サーレインも暇よね。まあ無理もないけど」


 サーレイン、出迎えの際にも聞いた名前だ。


「――サーレイン・ボイボスティア。今代の水の巫女姫で在らせられる御方ですね」


 あまりこの世界について詳しくない私のためにリヨコが簡単な説明を行ってくれた。


 水の巫女姫とは、パーマネトラに多大な恩恵を与えているグラガナン=ガシャの恩寵を、最もその身に受けているとされる少女の事を指すらしい。


 その選出基準は明文化されていないようだが、一貫して水の魔法の資質が極めて高いことが共通点として挙げられる。


 水の巫女姫は、その資質をグラガナン=ガシャへの祈りと共に高め、パーマネトラに繁栄を齎すシンボルとして扱われる。


 歳の頃十歳の時に何人かの候補の中から選出される巫女姫は、十六歳となり引退することになった先代の巫女姫から役目を受け継ぎ、龍と街のためにこの大聖堂の中で祈りを捧げる事になるのだと言う。


「まあ、普通に外に出られるんだけどね。流石に観光客の前なんかに一人では出せない訳よ。可哀想なサーレイン。お外に出るときはいっつも禿に囲まれて……」


「こりゃ!」


 どうやら私が想像しているよりは緩いお役目らしい。


 私達は部屋の鍵を預かると、それぞれ部屋の中に貴重品を除く荷物を置いて、さっそく談話室とやらに足を運ぶのだった。


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