第四十三話 マジカルラッキー
次回投稿より、17時ピッタリの投稿では無くなります。
何卒ご了承下さい。
魔導戦車がバイストマを襲撃してから、三か月が経過した。
街の外には未だ痕跡が残ってはいるが、街はもうすっかり落ち着きを取り戻しつつあった。
あの戦いで破壊された私の身体も、様々な改良を加えられ元通りになっていた。
とは言え、普段使いの身体として、今は外装を含め二メートルほどの騎士然とした形態をとっている。
万が一のため、強力な武装を施した身体は用意されているが、街で過ごすにはそれらは不都合しか無いからだ。
現在の私は、今もライラの家に居候させて頂いている。
今は、家の雑務をこなしながら過ごす穏やかな日々が続いていた。
リヨコの家が秘匿してきた魔導戦車の残骸は、全て王都に送られ、マールメア達によって解析がなされている。
本来ならば残骸を再度封印する所を、『廃龍ズヌバ復活』という禍事がそれを可能にしたとの事だ。
それによって、ゴーレム分野における関節などの駆動系に性能の向上が見られるようになったが、最も重要な命令系が書き込まれていた核は、他ならぬ私が完膚なきまでに砕いてしまった為、その解析は行うことが出来なかった。
過去の出来事を思えば、それで良かったのかも知れない。
防衛戦で負傷した冒険者の面々は、ある者は冒険者を続け、ある者は引退し、その結果は様々だった。
そんな中、休暇中に事態に遭遇したライラ、ロット、メルメルの三人と言えば、身体の調子が戻るのを待って連合の仕事に復帰していた。
とは言う物の、彼女達三人は役目として私の監視を仰せつかったようで、結局は休暇中に行っていたようにバイストマで訓練に励んだり、冒険者ギルドで私と共に仕事を行ったりするなど、やっている事は休暇中と特に変わらぬのだった。
あの後の第六調査隊の他の面々はと言うと、ナタリア、フレン、グレースは戦闘終了後暫くして、揃って街に顔を出していた。
フレンやグレースからは散々に憎まれ口を叩かれたが、ナタリアに、二人とも私の生還を知った時の喜び方は聞かせたかったぐらいだと暴露されてからは、流石に照れたようで口数が減ってしまった。
メルメル先生が『ツンデレ』という言葉を知っているのも、この時分かった。
言ってやるな。
ナタリアに譲ってもらった真銀についてだが、やはり元通りにして返すのは難しい旨を伝えた。
金属だけでも返そうと申し出たが、それはナタリアに固辞されてしまった。
彼女曰、必ずまた使う機会があるだろうとのことだった。
確かに、その通りだった。
私があの時ヒヒイロカネの穂先で貫き、撃退したズヌバは『分体』と呼ばれる存在に過ぎなかった。
偽物と言う事では無く、本体から分かれたほんの一部という事だ。
それでもあの一撃は、分体を貫通して本体まで影響を及ぼしたらしく、事実この三か月間は件の敵に関する動向は全く鳴りを潜めていた。
そして肝心のその穂先についてだが、これは柄の修復の後、ロットに返却していた。
確かに強力であるし、彼が使うよりも私が使った方が、実力差から考えて良いのかも知れない。
だがこの手の遺物という物は、必ずしも単純な強さだけを考えて使い手を選ぶのは間違っていると言わざるを得ない。
魔導戦車を例に挙げなくとも、そう断言出来る。
メルメルもロットも、遺物の力を自分の為だけに使ったりは決してしない人間性を持っている。
事実として、あの時メルメルがその力を私や防衛隊の為に使わなければ、もっと多く人間が斃れ、ロットが槍を投げなければ、私は最後の最後でズヌバに敗れていただろう。
それに何と言っても、あの槍は彼が自分の母親から譲り受けた物だ。
追認したのが国であることも含めて、彼が持つのが絶対に正しいだろう。
だが、そういう武具が欲しくないかと言われれば話は別だ。
どう考えても欲しいだろ。
しかも、三人の内、うちのライラだけが遺物を持っていないのだ。
可哀想と思わないのか!?
という内容を、王都で身体を直す際にマールメア達と一緒になって王城前で看板を持って直訴したところ、普通に国から叱られてしまった。
分別ある大人として、そのような行為は如何なものか、とガチ目の説教を官僚の方から頂いてしまった。
すまない。
マールメア達の新装備を求める熱意に中てられて、ちょっとテンションが制御不能になってしまって……。
冷静になった私は、ゼブル爺さんの協力の下、正式な書面を作成して国の遺物管理局に提出を行った。
勿論私の分と、ライラの分の二通だ。
バイストマ防衛戦における功績と、今後の廃龍に対する戦力増強を軸に資料を纏めた、中々説得力がある一品に仕上がったと自負している。
それに加えて、シャール=シャラシャリーアに向けて近況を知らせる手紙と、やんわりと、それとなく助力を頂くために、長持ちする菓子折りやドライフルーツ類を何度か送らせてもらっている。
賄賂? 記憶にない言葉ですね。
そんなこんなで私達は日々の生活に勤しんでいた。
そんなある日、冒険者ギルドに出向いた私達一行に、受付の女性が王都からの連絡が来ている旨を伝えてきた。
因みに、魔導戦車襲来の折にも非常に活躍したこの通信網だが、原理的に交換手が存在する頃の電話に近い仕組みとなっている。
王都などの大きな都市に非常に大型の通信用魔道具の交換機が置かれており、それに対する子機として、各都市や拠点に小さな通信用魔道具が配られているのだ。
子機同士での通信は技術的に出来ないため、まず王都に連絡を行い、そこから目的の子機に対して情報の共有が行われる仕組みな訳だ。
即ちこのミネリア王国内では、魔道具を使った通信は一旦全て王都に送られる。
「アダムさん、それにライラさんに王都クリスタリアから連絡が来ております」
来た。
あそこは忙しいから、申請した内容が駄目な時は返事なぞ寄越さない事は調べが付いている。
十中八九、色良い返事だろう。
守護龍から勇者認定されたゴーレムの底力を甘く見ない事だ。
ライラ、喜べ! 遺物をゲットできるかもしれないぞ!
「本当ですか!? やったー! 嬉しい! マジカルラッキーですね!」
マジカルラッキーという言葉の意味はまるで分からないが、喜んでくれているのは分かる。
ゼブル爺さん。二人で夜中まで書類を作った甲斐があったな!
今夜は祝杯だ!
いそいそと二人して返事が記載された書類を確認する。
そこには要約すれば、次の様に記載がされていた。
『両名とも、水彩都市パーマネトラにて開かれる、対廃龍連合会議に出席されたし』
水彩都市パーマネトラ?
これは本当に記憶に無い言葉ですね。
「ライラ達は知っているかい?」
周りに居る三人に何気なく質問したつもりだったが、意識を紙面から外して気付いた。
ライラ達の目が、キラッキラしとる。
「パーマネトラ! 麗しき水の都! 人生で一度は見るべき百景に数えられる街です!」
「お~! だいばくふ~によって、あらわれる『にじ』が、ちょ~きれい! らしい~。いいな~!」
「俺は興味ないけど、お袋がそこに行った時の話を聞く限りじゃあ、見ごたえあって凄いらしいぜ。……告白するなら持ってこいな場所だとか」
最後の辺りが小声なロットを含めて、子供陣の食いつきが凄い。
「ミラクル、マジカル、ラッキー!」
「みらくる、まじかる、らっき~。いいな~」
少女達は両手を妙な動きで合わせながらその言葉を繰り返す。
意味は分からないが、それ、流行っているのか。
今も昔も子供の流行は理解が出来ないままだな。
それにしても気になるのは後半部分だ。
対廃龍連合会議とは、中々穏やかではない雰囲気の会議だ。
私を呼ぶのは理解できるが、何故ライラまで呼びつけるのだろうか。
奴に遺物が有効であることが確実な以上、それを欲する人間も集めておくという事なのだろうか。
「さあ二人とも! 連絡は来たでしょう!? 準備をして!」
色々と考えていると、それを打ち破るかのように、ギルドの扉を大きく開いてナタリアが飛び込んで来た。
その後ろにはグロッキーになっているマールメアの姿もある。
「うおえええええ……。皆さんお久しぶりですー……。おええええええ」
察した。
さてはナタリア、私達を王都に呼べば良いのに、改良した馬車、私が王都の研究所で最後に見た時点で既に馬車とは呼べない姿だったが、それを乗り回したいがために風になったな。
相変わらず、乗り物が絡むとキャラが変わりすぎて困る。
「ナタリア、迅速に風になりたがっているところ悪いが、随伴員は認められているだろうか?」
私のその言葉に、ロットとメルメルが目を輝かせながらナタリアを見つめる。
「パーマネトラまでは長旅になるわ。人数は多い方が良い。行きましょう」
彼らの様子に気付いたナタリアが、微笑みながら了承する。
私は早歩きになっているライラ達と共にギルドを出た。
次の目的地で何が待っているのやら。
目指すは、水彩都市パーマネトラ。
題名の意味は、作者にも本当にわかりません。
もしよろしければ、ブクマ、評価、如何なる感想でもお待ちしております。
何れも土の下にいる作者に良く効きます。