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第三十五話 フルポテンシャル


 まずは素体の上から被せる装甲の選択だが、これは重装甲かつ対魔力性を高めなければならない以上、以前使われたモルデグリン軽魔法合金製の装甲だけでは駄目だった。


 勿論使わないという選択肢は無いが、もっと硬く、もっと重く、もっと大きくなる必要があった。


「装甲板は形成前の分も含めて全部持ってきて!」


 私が魔窟にいた際、自分の身体の装甲板に採用していたミルフィーユ状の積層構造装甲は、彼らに新たなインスピレーションを与え、様々な装甲が試作されていた。


 持ってこられた大きさも形も様々なそれは、素材の名前も分からない物が殆どで、その種類の多さは立ち並ぶ装甲板表面の絵面が異様にカラフルな事からも伺い知れる。


「全部表面塗装するぞ! ちまちま塗ってられない! バケツ持ってこい!」


 男の研究者が叫ぶと、コーティング剤を運搬していた研究者が手に持っていた様々な瓶を全てバケツの中に注いでいく。


 瓶の中身はこれまたカラフルな液体の数々だったのだが、結果として混ざり合わさって漆黒の液体となっていた。墨汁の様だ。


 これは装甲板の最後の表面仕上げに使われるらしい。むやみやたらに使うには魔力抵抗値が高すぎて、私の動作不全に繋がるレベルの代物になっているそうだ。


「素体の魔力反応速度に影響が少なからず出るから、何とかしたいけど、時間が無いですね……」


「マールメア、これを使って」


 そう言ってナタリアが差し出したのは、自分が持つ銀色の小さな杖だった。


真銀ミスリルの杖……! これなら! でもよろしいんですか、多分元の形には二度と戻せま……」


「良いのよ。私にはこれ位しか出来ない。後は魔石をありったけ持ってきて頂戴。私の魔力も可能な限り全てアダムに預けるわ」


「それです! 魔石に私たちの魔力を込める事で、噴射装置の様に、魔力砲撃系の武器使用にアダムさんの魔力リソースを割かなくて済みます!」


 私は迷いなく核を晒す。そしてそこにマールメアが真銀の杖を添えると、意識を集中して自分の神経網にそれを溶け込ませるように、魔力で形に変化を与える。


 それは元からある神経網と結合し、驚くべき性能を発揮した。


 この部分だけで言えば、性能は三倍近く上がっている。素材のお値段的には、桁がまるで違うのだろうが、兎に角有難かった。


「アダム、お願い、お願いね」


 魔石に魔力を込めるのに集中するため、ナタリアは私から離れていく。


 任せてくれ。


 素体に張り付ける装甲板の簡単な形成、表面塗装が終わった物から次々に私の身体に取り付けられていく。


 黒く染まったモルデグリン軽魔法合金製の装甲が先ずは取り付けられるが、その形は変わっていた。


 曲線のフォルムは、さらに上から装甲を重ねることを考えて、全て平な面を持つようになり、固定マウントのため溝や穴が付けられていた。


 途中途中には、他の職員が魔力を込めた魔石が埋め込まれ、これは身体の維持には不適だが、武器、装備類を起動するための魔力庫として使用される。


 更には、思い思いに趣味で作られたものも含めた装置が次々に嵌めこまれていく。


 例えば頭部に加えられたセンサー類がそれで、様々な種類の色の丸い板ガラスが回転式弾倉の様に回る仕組みの装置などは、私の頭部カメラに覆いかぶさるように取りけられ、その上から更に、可変式望遠倍率スコープとして、レンズが積み重なった眼鏡の様な物まで取り付けられた。


 更に二の腕にもドラムリールの様な装置が取り付けられるだけではなく、身体の各所にそれはもうこれでもかと言わんばかりに得体の知れない装置類が設置されていった。


 それぞれの説明を聞きながら、私はそれらを拒絶すること無く、自分の身体の一部として粛々と受け入れていく。


 使うかどうかは考えない。その時間も無いし、意味もない。あるだけ使い倒すだけだからだ。


 外装が剥ぎ取られた、複雑な機械塗れのロボットのような姿になった時点で、私の全長は最初にライラに出会った時のそれを超えていた。


 その上から更に、サイズも性能もバラバラだが、色だけは漆黒に統一された装甲板がやけくその様に取り付けられていく。


 兎に角頑丈で、ぶつかってきた相手を逆に粉砕してやるという念を込めて作られたその形は、極めて攻撃的な鋭角のフォルムと、岩壁の様なごつごつとしたフォルムとが合わさり、機能美は投げ捨てて実性能のみを追い求めた姿を私に与えた。


 これで四メートル越えだ。


 手足も胴体も、太く大きく、全体的な印象はまるで黒々とした巨大な鋼の塊が人型を取っている様だった。極めて重量の重い、二脚ロボットと評しても良い。


 一旦取り付けられた各装置が動くかどうかチェックする。


 頭部センサーは、リボルバー拳銃が弾倉を送るかのように、私の視線の前に次々とガラスを送ってくる。


 熱源、魔力、透過、敵意、などそれぞれの機能を発揮する魔法が込められたガラス群は問題なく動作した。


 使い切りの装置もあるため、実際に使ってのテストを行えない物も存在したが、それは魔石から問題なく魔力を送って動作可能なのを確認するだけに留める。


 外装までの作成が完了したならば、後は武器類だ。


 その、バズーカとライフルとグレネードランチャーとクレイモアと、兎に角全部持ってこい!


「アダムさんの魔力を使って固定するのはロスが大きい! 固定部を外装に新設しろ!」


「使い切ったら容赦なく捨ててください。手持ち以外の武装も切り離せるようにします」


「背中側に固定する場合、大型の噴射装置と競合しないように気を付けろ!」


「この武装を使用する際は、肩ごと腕を一回転させてください。そうすれば杭の部分が前に来ますので、そのまま射出出来ます。残念ながら右腕の分しかありませんが」


「肩の誘導弾は殆ど無誘導みたいなもんだ! その両脇のクレイモアと同じように接近して当てるのが良いだろう!」


 皆生き生きしている。


 トンファーアックスなどの刀剣類の武装は、全て外装と一体化させた。


 膝や肘、つま先に至るまで、凶悪な鋼が相手を粉砕せんと、その姿を露にしている。


 これらは今回も刃は無く、打撃武器として使用する。


「あっ! 危ない! 着地の時の備えを忘れてる!」


 女性職員が声を上げる。


 着地?


 その疑問に誰かが答える前に、それに対する答えが形となってやって来た。


「アダムさん。シャール=シャラシャリーア様が貴方を途中で落っことしてしまう時、そのまま着地したのでは身体が破損する危険性があります。ですので、これから腰につける装置で、可能な限り衝撃を減らして下さい」


 マールメアが淡々とそう告げる。


 それは、下向きに固定された噴射装置と、前方に連続で魔石が投射可能な装置が組み合わさった形状をしていた。


 搭載される魔石には、ライラが使用できる『転倒スネア』の魔法の上位版である『泥濘マッドネス』が込められているという。


 理解した。


 最後の仕上げとして、補助魔法を使用出来る人員が、可能な限り私にそれらの魔法をかけていく。


 筋力向上、防御向上、魔法耐性向上、空気抵抗軽減、私には何の魔法か見当もつかない魔法もあった。


 効果の無い魔法もあったろう。それでも可能な限り魔法をかけ続けてくれた。


 これで全ての準備が完了した。


 私の核に内在する魔力も、皆の魔力も、資材、機材に至るまでギリギリまで全て使用した。


 これが今私達が持つ力の全て(フルポテンシャル)を引き出した姿だ。


 時間はギリギリ二時間を超えていない。


 私は外に出ようと一歩を踏み出す。


 私が荷重をかけたことで、床が悲鳴を上げながら罅割れをおこす。


 かつてないほどに身体が重い。だが、問題なく動ける。


 辺りを見回せば、殆どの職員は地面に倒れこんでいるか、机に突っ伏していた。


 そこには同様に顔を上げる事が出来ないでいるナタリアの姿も見える。


 皆、色々な方法で限界まで私に魔力を譲渡してくれていた。


 私は外に出る前に、皆に向けて親指を上に立てるサムズアップを送った。


 何人かはそれに同じジェスチャーを返してくれた。ナタリアもその一人だった。


 そうして外に出た私を待ち構えていたのは、荘厳な、蒼い結晶をその全身に身に纏った巨大な龍だった。


「ふむ、間に合ったようだな」


 その口から出された声は、初めて出会った際に肉の串をほおばっていた幼女と相違ない物だった。


 つまり、目の前の龍こそが、守護龍シャール=シャラシャリーアその人であることに間違いはなかった。


 二〇メートルはあるだろうその巨体が、倉庫の外にいる事に全く気付くことが出来ないでいた以上に、私はその姿に圧倒されていた。


 四足歩行を基本とするその姿は、現在は前足を揃えて、後ろ足を折りたたむようにして座っていた。


 長い首、胸、手足に至るまで、全てクリスタリアに生えている物と同じ結晶が取り囲み、その身体を彩っている。


 鉱物が纏わり付いているにしろ、有機的なその身体とは異なり、その背中から生える両翼は、生物が持つにはそぐわぬ無機質さを感じさせるものだった。


 その翼は全てが結晶で出来ていた。


「準備の良し悪しなど聞く意味は無いが、準備は良いな。それでは、余はこれからお主を捨てに行く」


 そういって目の前の龍はその翼を広げる。


 広げた大きさは全幅で五十メートルにもなるだろうか。


 鳥や蝙蝠の翼の様に翼膜や羽がある訳ではないその翼は、全く原理は不明だが、音もなく回転する輪に囲まれたプロペラのような結晶体が、それぞれ四つ埋め込まれるように存在している。


 それらが高速で回転すると共に、その巨体が少しずつ宙に浮いていった。


 私の身長を超える高さまで上がったところで、シャール=シャラシャリーアは自身の後ろ脚で私の両肩にそっと触れると、そこから発生した結晶によって私の身体は完全に固定されてしまった。


「噛む舌も無いだろうが、覚悟せよ」


 その瞬間、凄まじい重量を誇るはずの私を掴んだままとは思えぬ、今更ながら物理法則を無視した速度で彼女は飛び立った。


 眼下のクリスタリアがあっと言う間に小さくなっていく。


 だが、目指す先はまだ見えない。


 今は只、貨幣に刻まれた偉大な守護龍を信じるだけだった。


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