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第三十四話 備えあれば

「そろそろ助言としては限界じゃから最後にするが、間に合わぬし、行けば死ぬ。それでもか?」


 動かなければ、私は死んだも同然だ。


「そうか……。やはりお主は人間なのじゃな」


 彼女は私に憂いを込めた視線を送る。


「勇者達……暦も、孝明も、雄太郎も、誰も彼もが同じ道を選んで死んでしまった。人間とは……愚かな生き物じゃ」


 それきりシャール=シャラシャリーアは目を閉じてしまった。


 話は終わったらしい。


 私は行く。


 そんな私を止めたのは、ナタリアだった。


「アダム、貴方の気持ちは分かった。行かせたくない訳じゃない。でも今のままじゃ無謀すぎる」


 それはもう話した。


 ナタリア、やめてくれ。


「貴方は私達を信じてくれた。だから後もう少しだけ待って。もう一度だけ信じて、私達が信じるあの御方を信じて」


 私は彼女の瞳を覗き込んだ。


 そこには、諦めは――無い。


「ここから発する言葉は全て余の独り言じゃ。良いな?」


 その声に振り向いた私は変わらず目を閉じたままの幼女を見た。


「余も偶には掃除という物をする。本当じゃ」


 いきなり、この部屋の惨状からは信じられない発言が飛び出した。


「――二時間。何のとは言わんが、それが限界じゃ。二時間後に余は掃除をすると決めた」


 そういって彼女は人差し指と中指で時間を示す。


「恐らくかなり巨大で重い廃棄物が研究所から出るじゃろう。余はそれを運んで捨てねばならない」

 

 その言葉で、周囲の人間達が慌ただしく動き出し、部屋の外へと飛び出していく。


「二時間後じゃ。余は二時間後に研究所からそれを王都の外へ運ぶ。もしかしたら、途中で落としてしまうやもしれんが、それは仕方のない事じゃ。良いな?」


 その言葉にナタリアは言葉を返すことなく頷くと、今度は私の手を引いて退室を促した。


「手は貸せん。お主たちでやるしかない。余は手出しは出来ない事になっているのだからな」


 早足になったナタリアに私は付いて行く。


 背後で扉がゆっくりと閉まる気配がした。


 そしてその間もずっと、守護龍シャール=シャラシャリーアは、私達を見つめていたのだった。


 道すがら、走りながらでは伝言板での会話が困難な為、謝意を示す為にナタリアに向けて頭を下げる。


「良いのよ。アダムの気持ちは分かる。ライラもロットもメルメルも、いざ都市が襲われれば彼らは住民たちを逃がすために最後まで盾となろうとするでしょう。グレース達はきっと何とかなるでしょうけど、あの子達は魔導戦車に殺されずとも、三日も経てば間に合わないかもしれない」


 その通りだった。


 住民を逃がすために戦った後、バイストマから運よく逃げられたとしても、生活基盤を失った状態で魔物がいる中、三日間を過ごすのは難しいだろう。


 一番近い拠点である、カロワ山脈の魔窟までたどり着けたとして、そこも最早危険地帯なのだ。


「でももう、考えるべきはそこじゃない。ごめんなさいアダム。結局私たちは貴方に頼るしかない」


 王城を後にし、ナタリアの俊足に着いて行った先は高い塀に囲まれた建物だった。


 内部に入って感じたが、建物の雰囲気や作りが、何故かこの塀の中だけ周囲とは異なっている様だ。


 継ぎ目のないコンクリートの様な壁面に、金属製のシャッターがある倉庫など、まるで前世の工場や、格納庫を思わせる。


 辺りを見回す私を出迎えたのは、久しぶりに会う見知った顔ぶれだった。


「アダムさん! ナタリアさんも! お話は伺ってます! 早くこちらへ!」


 そこには魔窟で散々私の身体を弄り回し、互いにやりたい放題やったマールメアと、その仲間達が真剣な顔つきで勢ぞろいしていた。


 彼女らに急かされ、私達は格納庫に見える建物の内部に入っていった。


 そこには、見覚えのある装備から、まったく覚えの無い物まで、恐らく私用に作られたであろう装備の山と、用途不明の装置や、何に使うつもりなのか分からない形の金属素材などが、所狭しと置かれていた。


 その光景に、私は第三層大広間での景色を思い出していた。


「ナタリアさん、相手の戦力はどの程度でしょう。まだ詳しくは話を聞いていなくって」


「マールメア、動力は中型魔窟の核。魔力量も、階層を破棄していることから恐らくはその全量」


 その言葉に、研究者たちは歯噛みした。


 私が一番良く分かっている。単純な総魔力量では逆立ちしても敵わない。


「いいえ……。いいえ! 考えるべきは機体性能です! 魔導戦車という事は相手も同じゴーレムです! 一度に出せる性能は、その身体に依存するはずです!」


 ほんの一瞬考え込んでいたマールメアが、その癖毛を振り乱して吠える。


 そう、そこだけが唯一、同条件だった。


 例え相手が私の百倍以上燃料を積んでいたとしても、それは継戦能力でしかない。


 勝つには、相手を性能で上回るしかなかった。


 勿論、実際はそんなに単純な話でもない。だが、勝ち目があるとするならばそこしかなかった。


「相手が大戦期の遺物アーティファクトだろうと、私達は負けません! そうでしょう皆! アダムさん! 古臭い破壊兵器なんて、やっつけちゃいましょう!」


 そうだ。


 奴は感情の無い、プログラムに沿って動くだけの大昔の兵器に過ぎない。


 今この時、この瞬間に生きる私達こそが、最新鋭だ。


 負けてなるものか。


 研究員達に促され、私は格納庫の中央に向かう。


 上を見れば、天上からはクレーンやフックが幾本も下がっている。


 部屋の中央に立ち、まずはゼブルやライラ達と協力して作り上げた余所行きの鎧を、一旦全て取り外す。


 数名の研究員が、九十九骨の百足と戦うために作られた素体の状態へと戻った私の身体に、不足や不備が発生していないかチェックしていく。


 ゼブルがくれた試作の発声装置について聞かれたが、これは外さずに付けたままにすることにした。験担ぎのような物だ。


 一通りチェックが終わると、王城から持ち出された極秘の資料とやらに猛烈な勢いで目を通すマールメア達が兎に角意見を出しまくっていた。


 それが黒板に書き連ねられていき、他の研究員の手によって、是も非も無しにその意見に沿った装備が運び込まれてくる。


 相手の基本兵装は、純魔力砲撃だ。


 私用の装備に採用されている魔石を利用したそれではなく、純粋魔力を様々な形状に変化させてぶつける攻撃方法だ。


 万物に魔力が宿るこの異世界では、自分と異なる波長の魔力をぶつけられる事は、物質的な破壊を伴う。


 効率で言えば人間などが使う魔法が圧倒的に上だが、使う側と使われる側、両方で人を選ばず使用出来るという点で、それが搭載されたのだろう。

  

 引き金を機械に引かせる以上、それが求められたのだ。


 しかも今回は、動力源の魔力量的に弾切れは考えられない。


 そして最も重視しなくてはならないのが、相手の機体スペックだった。


 戦車というから、私は車体にキャタピラと主砲が付いているタイプの戦車を想像していた。


 だが実際は、まるでSFアニメや漫画に出てくる様な姿形をしていた。


 私の記憶の中では『多脚戦車』と呼ばれていた形状のそれ。


 それは、言うなれば全長六メートルの四本足の蟹だった。


 高さは二メートル半と言った所だが、その胴体の前後には二本ずつ巨大な脚が生えていた。


 前後で足の大きさが異なり、やや前傾の姿勢を基本とするようだ。


 車輪に類するものが無い所を見ると、基本は歩行して移動するらしい。


 だが、私が風魔法で行ったように、頻繁には使用できないが、魔法で高速移動を行う事も出来るようだった。


 最悪、六メートルの金属製巨大蟹のぶちかましに耐えなくてはならないという事だ。


 長期戦は、こちらが圧倒的に不利だ。考える事自体が間違っていると言っても過言ではない。


 即ち、私達が取るべき道はたった一つしか残っていなかった。


「ありったけ全部! 作った装備! 金属板! 試作品もありったけ全部載せて!!」


 後先は考えず、脳死(全力)で行く。


次回、お待ちかねのお着換えタイムです。

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