表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/149

第三話 ああ、こういうことか 略してAC

 『それ』の存在に思い至ったのは全くの偶然だった。


 身体の増量に関する検証のためにスケルトンの残骸で壁を削っていた時だ。


 正に天啓ともいえる閃きが私に齎された。



 そもそも『身体を動かす』ということを『どうやっているか』という事だ。



 ゴーレムとなった私にとって、土くれの身体を動かすという事は、人間が呼吸を行うことができるのと同様に『当たり前』の行為だった。


 誰に教わったわけでもなく、ゴーレムという魔物それ自体に備わった機能であり、私が真っ当なゴーレムであるならば(そもそも思考自体するのか知らないが)疑問にも思わないだろう。


 だが、スケルトンがそうであるように、筋肉もない身体が動き、またただの土の塊である自分が動いているということ自体が本来はおかしい事なのだ。


 異世界であっても、何かしらの理由が存在するはずである。


 そこに思い至った私は、戦闘するごとに増していく『(ちから)』こそが、その理由ではないかとの考えに至った。


 なぜならば、この力が増すにつれて、自分自身の動きの速さや、動かしやすさなどが明らかに向上していたからだ。


 意識を力に向けて集中し、その根源が自身の核であることに気づいてからは、検証はさらに加速していった。


 自分の身体から、うっかり青白く輝く人間のこぶし大程の光球を掘り出してしまった際は、危うく意識が無くなる寸前だったが、核の外見と大きさが確認できたので結果オーライということにしよう。


 結果として、私は自分(ゴーレム)を次のように定義することにした。




 ゴーレムとは主たる核から放出される力(これを暫定的に魔力と呼称する。その方がなんとなくかっこいいから)で、身体となる鉱物質を維持、形成し、稼働させる魔物である。




 受動的な肉体的成長というものはせず、身体を大きくするなどの際は、自身の体の素材となるべき鉱物質を確保し、取り込むといった能動的な行動が求められる。


 身体の維持と、その稼働には魔力が用いられるため、どちらかに偏重することでゴーレム自体の特徴も変化する。


 魔力を身体の維持に多く割り振る場合、必然的に動きに使用する分が減り、硬く、重く、大きくなれるが動きは遅い。


 逆に運用すれば、特徴もその逆となる。


 また、身体に使用する鉱物はその質量に比例して、使用する魔力量も増える。


 これは維持と稼働の両方に掛かる法則で、つまり身の丈に合わない身体を作ろうとすると、そもそも維持できないか、出来たとしても満足に動くことができない事となる。


 まるでコストの概念があるロボット組み立てゲームのようだ。


 そういった事が分かって行くにつれて、現状でのゴーレムの強化が即ち『巨大化』にしかならない可能性に気づき、私は頭を抱えることになった。


 なにしろ、周囲にある取り込めそうなものと言えば、魔窟の壁土や転がっている石や砂利などしかない。


 鉄や銅などの金属も含まれてはいるだろうが、なんとなく感じ取れるそれらは微量すぎて役に立ちそうにない。


 今の自分でさえ三メートルの巨体なのに、これ以上大きくなったらそもそも移動すらままならなくなりそうだ。




 だが、また暫く体育座りをして、自分の魔力を用いて身体を『形成』し動かしているということの本質に気づいた私は、ある解決法を編み出していた。




 解決法を実行した私は、部屋に入り込んできたスケルトンに向けて右拳を放つ。


 頭骨の角の大きさからみて、やや強化されているであろうスケルトンは私の一撃を受けて、その身体を空中でバラバラにしながら吹き飛んで行く。


 魔力が増えたことを抜きにしても、明らかに威力が増していた。


 それもそのはず、一撃を放った私の拳は既にただの土の塊ではない。


 それは、ざらついた表面を持つ()()()と化していた。


 左拳も同様に、まるでグローブを嵌めているかのように、そこだけが硬質な岩となっている。



 これこそが解決策。



 土や石の身体を形成出来るという事は即ち、()()()()を自由に操作し、自分の望み通りの形を作れるという事だ。



 だから私は自分の身体を構成する土の一部を、特定の形に押し固めるように形成、つまり『圧縮』したのだ。



 初めは、掘り出した手ごろな大きさの石などを組み合わせて手の形にするつもりだった。


 しかし、魔力の操作について検証していくうちに、体形を形成する過程で『型』に流し込む鉱物質は必ずしもピッタリ同じ量や大きさでなくとも良いことに気づいた。


 そのため、予め定めた『型』に大量の土や石を投入、圧縮することで、必要な形の『岩』を形成することに成功した。


 岩も石も土も、鉱物の集合体であることに変わりはない。だから理屈で言えば可能なのかもしれないが、本来は気の遠くなるほどの時間がかかるはずだ。


 それが体感的には一分ほどで可能になるのだから、魔力という物は恐ろしい。


 もしかしたらこれが、所謂ファンタジー物で言うところの『魔法』という物なのかもしれない。


 私が動いていること自体が魔法だろと言われたら、返す言葉もないけれど。



 だが、この『魔法』を使用する際には、体内の魔力がかなりの量消費されるのが判明した。



 いきなり身体の力が抜け、その部分が脱落したからだ。


 正直かなり焦ったが、消費した魔力は、暫くの間体育座りをしていたら回復したのが感覚で理解できた。


 そしてこれにより、普段身体を稼働させている魔力について新しい事実が判明した。


 動かずにじっとしている際、身体を維持している分の魔力は消費されていないように感じる。


 だが実際の所、自分が持つ総魔力量から、維持分の魔力は常に差し引かれている。


 そして、その身体を動かす際には運動量に応じた魔力の消費を感じている。


 それでも問題なく動き続けていられるという事は、維持分を差し引いた残りの魔力量と、消費している魔力とが釣り合っているか、回復していて残った魔力のほうが多いということだ。


 つまり、私の身体が正常に稼働するためには次の方程式を常に満たす必要があるということだ。



 総魔力量≧身体維持魔力量 +稼働時消費魔力量-回復魔力量



 もう完全に自分で組み立てるタイプのロボットゲームの世界だ。


 せめてもの救いは、この条件を満たしているかどうかは感覚で把握できる点だろう。


 何にせよ、自分のパーツをある程度作成できる事が分かったのだから、これで体の大きさと強化の釣り合いがとれる。


 金属を抽出、形成するのは今の魔力量じゃあ無理なのがなんとなくわかるので、ひとまずは、クレイゴーレムからストーンゴーレム(一部)へのアップグレードを目指そうと思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ