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第二十五話 実は有休も存在する(取れるとは言っていない)

この作品のブックマークがなんと500件を突破いたしました。

こんなにも、目を留めて下さった方がいらっしゃることは、望外の喜びでございます。

読んでくださっている方々には、本当に感謝の言葉もありません。

上を見ればきりのない世界ではありますが、一緒に歩んでくださっている皆様の何と心強い事か。


拙作を読んでいただいて、本当にありがとうございます。

 九十九骨の百足との戦いから二日後、引継ぎのためやって来たブロンス伯爵領の人員への対応も概ね終了し、私達には休暇が与えられることになった。


 そう、休暇である。


「アダムも名実共に、既に私達の一員だからな。当然、待遇は同程度の物となる。給与や賞与は、今回の作戦での装備類を改めて経費として計上した後、支払われる事になる。済まんがもう少しかかるだろう。」


 グレースとフレンはまだ引継ぎが残っているため、暫くの間は緊急時に備えてまだこの魔窟周辺に詰めなければならないとの事だった。


 それ以外第六調査隊の人員は、一つの長い仕事を終えたことで、二か月ほどの長い休暇をそれぞれいただくことになったのだった。他の隊員も時間をずらして休暇は与えられるとの事だ。


 召集があればそれを優先しなければならないため、必ず連絡の付く状況でいる事が求められはするが、それ以外では特に制限の無い休暇であった。


「――ライラ、それにメルメルにロットも、久しぶりにお会いできたのにお別れになり、寂しいですね」


 確保作戦当日に拠点に来ていたリヨコは、この二日間で旧交を温めることが出来たようだが、彼女は私達とは違いこれからが本番である。


 彼女が運営責任者であるわけではないが、伯爵家の縁者として、運営上かなり上のポストを担うことになる。


「しばらくすれば、諸々の対応は伯爵家で行ってもらうことになるわ。連合の名前の前には大人しかった輩が次々出てくることになるだろうけど、何か問題があればいつでも相談に乗るわ」


 ナタリアはミネリア王都にある本部に帰還することになっていた。書類の詰まった木箱が、これから彼女達が乗ることになる馬車に積まれていくのが見える。


「――ありがとうございます、ナタリア教官。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


「お前は本当に変わらねーな……。俺達はバイストマに帰ってるから、会おうと思えば直ぐだぜ。偶には顔見せに来いよ」


 ロットたち、年少組三人は彼らの故郷である街『バイストマ』に帰郷することにしていた。


 彼の言葉通り、バイストマは近くの街道を利用すれば一両日中にはたどり着ける距離だった。


「ロット――には――まあ、頼ることも無いでしょう」


「おいおい……じゃあライラやメルメルに会いに来るでもいいからさ」


 メルメル超先生はそのやり取りを見て、もはや言葉も無い様だ。処置無しとばかりに首を振ると、リヨコに別れの挨拶を行い、先ほど書類の木箱が運び込まれていた、四頭立ての巨大な馬車に乗り込む。


 ライラは最後にリヨコの手を両手でしっかりと握ると、別れを惜しみながら同じく馬車に乗り込んでいった。


「リヨコちゃん! また会おうね!」


 そして私はというと。


「アダムさん、一緒に行くのに、本当に馬車に乗らなくて大丈夫ですか?」


 彼女たちの故郷、バイストマに同道することになっていた。


 流石に完全に自由にするにも体面上問題があり、この場に残っても引継ぎの邪魔になるやもしれないので、滞在を勧めてくれたライラの好意を受け取ることにしたのだ。


 勿論、否やは無い。


 町へ入るための許可は、既に連合の正式な一員である私には問題なく下りた。


 手続きを手伝ってくれたナタリア女史には感謝している。


 さて、バイストマに向かうにあたってライラ達が乗り込んだ馬車だが、実はなんと、馬型のゴーレムを利用したゴーレム馬車なのであった。


 ここでまさかのお仲間登場であった。


 馬の形を取ったゴーレムに曳かせるゴーレム馬車は、この世界においてそれほど珍しくない移動手段であるとの事だった。


 一般的に考えれば、彼らと私は同族という訳だが、実はそう簡単な話でもない。


 本来ゴーレムとは、魔物であり、その本能に従って行動するのみである。


 捕らえたゴーレムの核に魔法で命令を上書きすることで、適宜術を掛ける必要があるものの、術者の意に沿った行動を取らせることも出来る。


 だが、自律的に複雑な行動を取らせるにはそれ相応の準備が必要となる。


 今回利用するゴーレム馬車とは、ゴーレムの核を解析し、魔窟や自然に発生た魔物に拠らない、極めて限定的な命令の遂行を可能にした『人工ゴーレム核』を利用した存在だ。私が野生で、彼らが養殖という訳だ。


 そうやって運用を可能にしているゴーレム馬車は、イメージで言えば自動操縦の車に近い。


 設定したルートに従って自動的に移送してくれる仕組みで、今回はルートから外れたこの場所までマニュアル操作に切り替えて拠点まで足を運んでもらっていた。


 因みにお値段はなかなかする。


 流石は連合である。


 勿論これに乗るのはライラやナタリア達だけではない。


 最終目的地を王都に設定されたこの馬車に乗るのは、荷物も含めてかなりの数となっている。


 確かにかなり大型の馬車だが、途中下車するにしても、疲れを知らないゴーレムである私が利用するのは諸々無駄過ぎる。


 バイストマまでは、馬車に並走する形で着いて行くことにしたのだった。


「本当に大丈夫ですか?」


 絵面は少し問題があるかもしれないが、私には全く問題ない。


 それに、いくら私が今回の休暇に伴い軽量化されたとはいえ、下手すれば重量オーバーになりかねない。


 今の私の姿は、旅装をした全身鎧の冒険者に偽装されていた。


 最後に換装した軽機動型は、普段使いするにはその外装が仰々しすぎるし、実生活には全く向いていない。


 あれは一から十まで戦闘用に作られた身体であるので、今回の休暇で街に滞在することになるにあたって急遽新しい身体が必要となったのだった。


 素体部はどうせ隠れるからと変更は全くない。


 つまり戦闘力で言えばロット以上はやはりある訳で、今回の換装は主目的が戦闘能力の制限ではなく、あくまでも偽装であることに疑いの余地は無い。


 この件については、現地のトレンドを知らない私では力不足であるので、ナウいヤングであるライラ達にも意見を頂きながら、私は着せ替え人形に努めていた。


 本来の目的ではなく、完全に偽装のための鎧下を身に着け、ライラの強い希望により、最初に出会った頃の私の姿を模した鎧を身に着ける。


 関節部などは、あえて布を使って隠すことで、人間味を演出することに成功していた。


 最後に、研究者たちの悪ノリによって作成された、剣というには大きすぎる、それは正に鉄塊であるような大剣を背負えば完成である。流石に記憶よりは小ぶりであった。


 なお、この状態で馬車に並走できる奴は絶対に人間でないという事実には、最後の辺りまで誰も気づかなかった。


 おうなんだ! この肩の紋章が目に入らないのか! 社会的な地位と保障はちゃんとあるんです! 信じてください!


 馬車に乗っている皆も証言してくれるからきっと大丈夫という理屈で、時間もないからこのまま行こうとなったのはきっと私の所為ではない。


 だって皆、攻略成功の打ち上げの最中だったから。仕方がないね。


 因みに、取り外された外装含め、研究者たちが増やしまくった私の装備などは全て王都にある、彼らの本来の職場に運ばれることになった。


 余りにも量があり、重量があるので、これはまた別口で運ばれるとの事だった。


 なぜ彼らが、こんなにも情熱を注いだのかは、馬車に繋がれた四頭の馬ゴーレムを見る事で、ほんの少しだけ納得が出来た。


 勇者の時代に、龍の力を借りた彼らによって隆盛を極めた技術は、やがて時が過ぎ、彼らが皆この世を去ったことで龍の直接的な干渉が止まり、歯止めが利かなくなっていった。


 廃龍ズヌバを倒すために作られ、それが終わった後に兵器類は龍によって回収がなされた。


 だがそれが作られる過程で得られた技術までは回収できなかった。


 龍達は、ズヌバの様に禁を破ることを危惧し、人への如何なる過干も断ったためだった。


 最終的に、最も強力なオリジナルには遠く及ばずとも、人類の力をかつてないほどに引き上げたそれらの技術でもって類似品が多く作られることになった魔道具や、武器、兵器達は人類の夜明けを齎す物とは成らなかった。


 魔物の脅威が遠ざかることで、人間同士で争う余地が生まれてしまったのだ。


 勿論現在でも、国同士の諍いは存在するらしい。


 だが、五〇〇年ほど前に起こった『大戦』によって、人類の技術は衰退し、失われ、残ったものはあれど、それらは『遺物アーティファクト』として管理が行われている。


 メルメルの本や、ロットの槍の穂先は、国から許可が出なければ持ち歩けないほどの代物なのだ。


 それを欲しがったライラは、確かに拳骨を頂いて然るべきだった。

 

 でも、幼馴染で一人だけ持ってないのは可哀想だからな、私だって何かあげようと考えちゃうね。


 初任給が楽しみだ。


 技術が衰退しても、必要はそれを求める。


 研究者たちの努力により、人工ゴーレムなどの技術は目の前の存在の様に成果を上げていた。


 だが、嘗ての技術、複雑な命令遂行を可能にし、術式の範囲内で受け答えさえも可能だったというそれが漏れ伝わっていた研究者達は、結果に満足していなかった。


 そんな中、魔窟で発見された異質なゴーレムの話が舞い込んできたのだ。


 そして私という自意識を持つゴーレムを前にして、彼らを止められる者はいなかったのだった。


「皆さんお疲れさまでした! さようならー! 王都に寄る機会が有ったら、是非研究所に足を運んでくださいねー!」


 マールメア他、大変お世話になった研究者達が見送りの挨拶をしてくれている。


 号泣する彼らとも別れを告げ、ご同類達の曳く馬車と共に私は街道への道を歩み始めた。



 いざ、バイストマへ。


 

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