表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/149

第十九話 メルメル先生と学ぼう!

1000ってすごいよな!

だって1が1000個で1000なんだぜ!

※もう本当にありがたいことにポイントの話です


ぐわああああああああありがとううああああああああああ!

 さて、世の中には一日中休みなく働かされることに疑問を持たない存在がいるらしい。


 そんなやつ本当にいるの?


 私じゃい!


 本当に個人的には問題が無かったのだが、私の働きぶりがそれはもう評価されると同時に、他の隊員との仕事の兼ね合いで時間を持て余す事が多くなっているのが、ミネリア連合支部の皆さんの間で問題になっているらしい。


 私の仕事量が足りていないという事ではなく、私に仕事を振るために、他の人員が今まで以上に仕事を頑張らなければならないという事が問題なのだ。


 元々、皆さん仕事が遅いという訳でな断じてないのだが、一秒も休まなくていい仕事の鬼(社畜ゴーレム)に餌という名の仕事を与え続ける事に無理が生じたのだ。


 では私がもっと色々な分野に仕事の手を広げれば良いのかと言えばそういう訳でもない。


 組織の中で働く場合、誰かに仕事が集中したり、ましてや他の人の仕事を奪ったりするのは、生きた人間が運営している以上、必ず問題が生じるからだ。


 そこで私にも、労働七時間毎に一時間ほどの自由時間が設けられることになった。勿論監視は付く。


 だがこの監視というのがまた問題だった。


 この自由時間中の監視とはつまり、仕事から解放されても食事も休息も不要で、さらに特に問題を起こすつもりもない私の監視であるため、毎日のように報告書に『特に問題はありませんでした』と記載する仕事に他ならないのだ。


 実質は監視員の休憩時間(ボーナスタイム)の様な物なのである。


 では不要なのかと言うと、そんな訳は無いわけで、自由時間の監視員の座は、しばしば休憩を欲する隊員の熾烈な争いの対象となったのだった。


 流石に何かしら改善が必要となったため、私はこの時間を用いて、各監視員から『常識』を学ぶことにした。


 これまでに二度ほど、何者かより知識を投げ入れられてきた私ではあるが、その知識が正しいのかどうかを判断するための知識を持ち合わせてはいなかった。


 そこで、他の人間から他愛もない話を聞いたり、世間話をする事で一般常識を学び、この世界に起こる様々な事象に関する判断基準を獲得しようという寸法だった。


 意外と言っては失礼だが、この分野で最も適任であったのは、ライラと共に第六調査隊の隊員であった少女、メルメル・メリッサだった。


 巨大な耳が垂れ下がったフードのシルエットが特徴的な彼女なのだが、初めて彼女が私の監視員となった際、私にとって驚くべき事実が判明していた。


 フードを脱いだ彼女の頭頂部からは、フードと殆ど同じ形の垂れたウサギの耳が生えていたのだ。


 つまり、メルメル・メリッサはウサギの獣人なのである。


 フードはその耳の保護のために特徴的な形をしているとのことで、蒸れるのでたまに脱ぐとは本人の言だ。


 そんなメルメルの持つ知識魔法は、彼女の持つ本から知識を映像などにして出力する類の魔法が多く、それはつまり、私の求めるものと合致するところが多いのだった。


「私……! アダムさん! 私もまだお話したいことあります! 新しく勉強した、土魔法における体内循環魔力の効率的な利用方法についてとか……!」


「いやあ~。ごめんねライラ~。アダムさんとおはなしするのは~しごとだからな~。しごとだからな~」


 私の要請を受けて、休憩が増えることに対する喜びを全く隠さない少女は、私と話す時間が増えることを羨ましがるライラを尻目に今日も魔法を発動させる。


「それでは~おはなしのはじまり~。わたしのことは~メルメル先生と~よぶように~」


 見覚えのある眼鏡を装着したメルメルが、わざとらしくそれを動かしながら近場の切り株に腰掛ける。


 勿論すぐに眼鏡を探していた元の持ち主(ナタリア)に発見されて叱られていた。


 ライラ、君は私の影に隠れているつもりだろうが、それでナタリア女史に気づかれない訳ないだろう。仕事しなさい。


 ああ、連れてかれた。


「では~……『物語ストーリー』」


 呪文と共に彼女の持つ本が独りでに開くと、まるで飛び出す絵本のように、空間に影絵のような映像が出力されていった。


 今日の演目は、そういう話があることをライラから聞いていた私の希望によって選ばれていた。


 その名も『世界の始まりと廃龍ズヌバと勇者たち』だ。


************


 時を論ずる事が意味をなさぬほどの遥か昔。


 この世界は『混沌』によってのみ構成され、全てのものは混然一体のそれに溶けていた。


 だがある時、三柱の神が現れ、そのうちの一柱が混沌を指差しこう言った。


「其処になにものぞか或る」


 神が指した一点より四つの力が見出された。


 即ち『火』、『水』、『土』、『風』の四元素である。


 四つの力の下、世界は急速に形を取っていったが、それは不安定なままだった。


 そこで指を差した神は四つの力で世界を整えると、管理させるためにそこに住まう生命を生み出した。


 世界を支える役目を持った龍達の誕生である。


 それを見ていたもう一柱の神が、世界を拓くための存在として、残った力で他の小さな存在を生み出した。


 それは獣となり、草木となり、やがて人が生まれていった。


 そして最後に残った三柱目の神が、人の生きる様に興味を示し、試練として魔物と魔窟を生み出した。


 人を生み出した神は憤り、指差した神に助力を請うた。


 だが指を差した神は、それを良しとした。


 そして己の作り出した龍達にそれら小さな二つの存在に手を出すことを禁じ、また同様に龍同士の争いも禁じた。


 龍は世界を支えるのが目的である故。


 長命な龍はそれに従って生き続けたが、ある時、光輝く鱗を持った一体の龍が、いよいよその命を終える時がやってきた。


 その龍は余りに長く生きていたために、自身の命が人や魔物、他の存在同様に限りあるものであることを忘れてしまっていた。


 そして光輝く鱗の龍は死の存在を前に、命に狂ってしまった。


 龍は神からの禁を破り、他の命あるものに牙を突き立てすすり喰らっていった。


 啜った命の分だけ龍の寿命は永らえたが、永い龍の命にそれらが能うはずも無く、またすぐさまやってくる死の気配に龍は怯え、狂乱した。


 命に狂い、命に汚れ、おぞましき啜り喰らう者になった龍の身体は、繰り返される生と死の間で醜くただれていった。


 その鱗に見合った輝かしき龍の名は、やがて他の龍によって廃された。


 龍は、ただその啜り喰らう様から『ズヌバ』と呼ばれ、全ての存在から忌まわしき者とされた。


 禁を破ることを恐れた龍たちは神に祈りを捧げ、かの廃龍に罰を請うたが聞き入れられることは無かった。


 神とは斯くも神聖不可侵にしてあまりに強大であるが故。


 しかして慈悲はあり。


 今より千年の昔、異なる世から勇ましき人間達が神によって遣わされた。


 龍達は、この世の人にも魔物にも、そして龍にも手出しが出来ぬが故。


 ならば。


 龍は勇者達に力を貸し与えたが、ズヌバはそれをも啜り喰らって行った。


 やがて、勇者の一人がズヌバ心臓に刃を突き立て、これを打ち倒した。


 だが、ズヌバから噴き出た邪血によってその勇者もまた命を落とした。


 そして世界は正された。


 人と魔物が龍の眼下に争い、神は今もそれを眺めている。


************


 やはり、ライラに聞いた通り実に興味深い話だった。


 本が閉じられると、いつの間にか周囲にはそれなりの人が集まっていた。


「おひとりさま、一〇〇シャールいただきま~す」


 だが得意げな顔でメルメルが金銭を要求しだすと、遠巻きにしていた者は散っていった。


 私の近くにいた者は渋々支払っていた。


 何だね君たち? 私は友好の証として肩を組んでいるだけだ。他意は無い。


 恐らくは、この世界に存在するという龍の姿が彫られた銀色の硬貨を、各々一枚メルメルに渡してる。


 確かあれは、前世で言う所の、日本円の百円玉に相当する硬貨だったはずだ。


 百という点で数字は同じだが、その金銭的価値が同じかまでは流石に分からない。


 何せ文無しなので。


 私はメルメルに、ライラに渡したものよりは小ぶりの、ガラスで出来たコスモスの花を渡した。


 もうこれくらいなら、魔法も許可されている。


「しょうがないな~」


 笑みを浮かべながらそれを受け取ったメルメルは、割れないように気を付けながらそれを懐にしまった。


 先ほどの話は、メルメルいわく、子供でも知っている実話・・だそうだ。


 龍が神から伝えられた話と、それを龍が人に伝えた話、そして人間が伝えてきた話とが混ざっているのだという。


 龍は代替わりをしながら今も生きている。


 その中には、人間が作り出した国家を見守っている存在もあれば、一切の関与をっている龍もいるらしい。


 そのために総数は不明だ。


 何にせよ、神が実在するという話が伝わっている割には、この職場で宗教家や聖職者に類する存在を余り見かけない理由が、なんとなくだが理解できた。


 私もこんな神には頼りたくない。


『またよろしくお願いします。メルメル先生』


「うむ、よきにはからえ」


 今は、目の前の小さな先生と、その仲間達を頼って生きていこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ