表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/149

第十八話 ゴーレムに適した仕事

 ゴーレムの朝は早い。


 というか寝ないので、二十四時間働けますか状態が延々と続いている。


 まあ、眠気どころか疲労も全く感じない身体なので、何の問題もない。


 はっはっは。


 労基はどこだ!?


 という冗談はさておき、この無限労働状態だが実はすべて織り込み済みだ。


 魔窟内にて見分を行っていた際に、ある程度の信頼関係が築けた段階で、私という存在が如何に有益か理解して貰うためのプレゼンテーションの様なものを何度か行っていた。


 魔物や魔窟という、ライラ達、この世界の人類にとっての明白な敵が存在する以上、本来そのカテゴリーに含まれるべき私という存在を受け入れてもらうためには『情』では明らかに不足だ。


 『実利』こそ、寧ろ効果的だろう。


 そうしてアピールを行った結果が、現在の状況なのだった。


 つまり私は見事、ガーランド王国対魔連合の一員として働くことに成功していた。


 文字通りの意味でのフルタイム労働状態ではあるが、これは魔窟の外に出る際に交わした契約に沿った正当な扱いなので仕方がない。


 たまに人間だったころの感覚が蘇って悲鳴を上げている気がするが、恐らく気のせいだろう。


 それに、時間というものを意識できるようになった事は、実に人間らしくて非常に気に入っている。


 こうして太陽と月の運航が目に見える環境に身を置けるようになって、私はようやく時間という概念を意識に導入することが出来るようになったのだ。


 魔窟の中でのそれは、ゴーレムである私にとって取り分けて無意味で、実感さえも殆ど得ることが出来ない単位系だった。


 そのため、かつて魔窟の中で覚醒してから、私がどれだけの期間そこで戦いと自己改造に明け暮れていたのかはもはや知る由もない。


 あの魔窟が、発生してから最速で発見されていたとしても、私が魔窟で彼女らと遭遇するまでには、恐らく年単位での時間が過ぎていただろうだ、とはナタリア女史の言だ。


 何にせよ、私にとってあそこでの日々はあまり思い出したくないことの方が多く、全く定かではない時間の経過に思いを馳せるのは苦痛さえ感じる。


 だが、私が魔窟の外に出るのに成功してからはそうではない。


 連合のミネリア支部の一員として働く月日、その間の記憶全てが、私にとっては輝かしき思い出だ。


 では、私のこれまでの軌跡を掻い摘んで振り返ってみようと思う。


 まず初めに、外に出たばかりの頃に使用していた五十センチの身体では、その構造的な脆さと共に、当然の事ながら様々な制約が付き纏っていた。


 そのため、この時期に行っていたのは主に調査隊の面々との顔合わせと、隊全体での一日の仕事の流れや各部門の仕組みなどを教わる、言わば新人研修だった。


 やがて一通りの研修が済むと、マスコット状態だった私にも監視付きで仕事が振られるようになっていった。


『補修が必要な装備の一覧の書類作成完了致しましたので各部署への配布お願い致します。それと、次に送られてくる補給物資の割り振り表も作成完了致しましたので、こちらは上長の確認をお願いします』


「ありがとうございますアダムさん。……問題は無いので、こちらも魔法転写して掲示をお願いします」


 私がゴーレムでありながら読み書きが堪能で、人間そのものの知性を有していることは諸々の交流で認知されていた。


 そのため、かつて魔窟内で文字通り剛腕を振るっていた私の主な仕事は、何と事務だった。


 そう、事務である。


 強力な魔物を倒すことが出来る、力には自信があります系人材というのは、それらが生きていく上での当然必要なものとして認知されているこの世界では寧ろ過多だった。


 つまり、彼らが切実に欲していたのは書類仕事ができるホワイトカラーであり、どういう訳か脳筋の代名詞のような魔物のはずであるゴーレムが、魔窟調査隊の各隊長よりも数字に強いという事実に一部中間管理職は頭を抱えた。


 結論として、適材適所という事で、私は小さな体でも行える仕事として事務作業に従事することになったのだった。


 力持ちアピールの時間が無駄になった瞬間である。


 因みに、仕事を円滑に進めるため、声が出せない私のために様々なアイデアが出された結果、ある道具が考案された。


 それを使用することで、先ほどの様にほぼ問題なく意思の疎通が可能になったのだった。


 今現在の私の場合、胸辺りに埋設されている何の変哲もないガラス張りの金属板が『それ』だ。


 当時は首からぶら下げるようにして携帯していた『それ』は、見た目は金属板とガラス板の間に砂が適量挟まっているだけの道具だ。


 だが、私の能力により内部の砂を操作することで、文字や記号や、果ては絵までも『砂絵』の要領で表示させることが可能なのだった。


 いずれは発声も可能にしたいのだが、今はこれで充分過ぎる。


 そうして事務作業をこなしていく内に、せっかく休まずに働ける人材なのだからという事で、あれやこれやと仕事を任された私は、彼らとの信頼関係を少しずつだが積み上げていったのだった。


 やがて、作業の効率化をお題目として、私の体のサイズ規制が緩和されるようになった。


 身長一四〇センチ程の小さな子供を思わせる新型ボディの誕生だ。


 その身体は、私の魔窟での身体を弄繰り回していた研究者と私の合作で、芯となる骨格の上から異なる素材を組み合わせるという、嘗ての私と同じコンセプトで作成されていた。


 因みに、この身体を作り上げる際に、私がむしろ積極的に制限を掛けようとした姿勢が非常に評価された。


 というよりも、研究者諸君の、特にマールメアちゃんの暴走具合が酷かったというのが本来の事実である。


 間違いなく、事務作業をさせるつもりのゴーレムに、魔法を封じ込めた魔石を利用した無反動魔力砲撃筒(マジカルなバズーカ)は必要ない。


 出来上がった身体は、日常動作には全く不便が無いのだが、関節の可動域や、身体を動かす際の最大速度に制限がけられており、こと戦闘分野においては運動できない系女子のメルメルと良い勝負なのだった。


 ちなみにこの身体でメルメルに出会った際、無表情のまま猛烈に頭を撫でられてしまった。


 そして、彼女よりも身長が低いこともあってか完全に弟分であるかのように扱われ、弟分は甘辛い味付けの麺をパンに挟んだ物を持ってくるのが伝統なのだと言われた。


 当然、ナタリア女史に叱られた。


 なぜそんなテンプレが異世界に存在しているのか疑問に思ったので質問してみたところ、どうやら嘗て異世界に召喚された勇者達から伝わったとのことだった。


 例によって記憶があやふやな為確信は持てないが、恐らく勇者とやらは私と同郷だろう。


 何を伝来させているんだか。


 そうして朝から晩まで休みなく子供サイズで働いていた私だったのだが、やがて職員たちから精神衛生上、良くないとの指摘を受け始めるようになった。


 自分が休んでいる間、小さな子供を奴隷の様に働かせているよう思えて罪悪感が凄いとのことだ。


 基本となる設計は殆ど完成されていたので、身長を伸ばすだけならば容易なのもあり、私はすくすくと成長していった。


 そこからは兎に角早かった。


 そうして段々と身長が伸び、信頼が積み重なっていくにつれて規制も緩和されていき、やがて今から約一か月ほど前に、ようやく現在の姿にまで私は成長することが出来た。


 魔窟では、環境的に生存に必要不可欠なため、戦闘能力が高い身体に改造していった側面もあるが、それは建前の側面もあり、やはりライラ達に出会った頃の姿には、私の趣味や好みが大幅に反映されていたのは紛れもない事実である。

 マスコットよりは人間サイズ、それよりかは巨大でありたい気持ちが、私の偽らざる本音なのだった。


 魔窟から外へ出て五か月が過ぎた現在の私は、既に身長一八〇センチもの体躯を獲得していた。

 

 しかも、ひょろりと長い痩躯では無い。かなりがっしりとした体形の身体だ。


 正直に言って、良くここまで許可されたものだと思う。


 身体を構成する素材は、スライム由来の粘土に加えて、程度は良く無いものの、即席の砦などの作成に使用される魔導漆喰を添加させた素材を実験的に使用している。


 また骨格は、形成の後いくつかの呪文が刻み込まれることで、緊急時の動作停止処置を行えるようにするのを了承する事で使用が許可された、研究班がどこかから調達してきたかなり高価であるらしい灰褐色の金属が使用されている。


 ゼブレ鋼と言うらしいが、少なくとも以前の骸骨の武具を流用して作成した骨格よりも魔力の通りが遥かに良く、靭性と剛性も比べ物にならないほどに高い。


 戦闘に耐えうる強度の装甲版も、金属の使用は禁止されているものの、前腕、脛などの極一部のみ解禁されている。核の存在する胸部は、爆薬の搭載を理由に、外部からの衝撃耐性を、契約が定める範囲で高めることが許可されていた。


 視覚拡張は二七〇度まで許可されているが、眼の数は二つで固定と定められていた。見た目のバランスを考慮して眼球の様に丸い水晶ではなく、ロボットの切れ長のツインアイを参考にデザインした物を使用している。


 外骨格として鎧に類するものを着用することは禁止されているが、朝方の訓練に隊員の模擬戦相手として参加するようになってからは、彼らの動き、体の使い方を学習することで戦闘能力の向上を図ることが出来ている。


 武器の携帯は一切許可されていない。


 だが、徒手空拳での戦闘能力が既に充分過ぎる程であり、戦闘専門でない職員はもちろんのこと、槍を持っていないならばロット君には、体格差もあって勝利を収めることが出来る。


 その他にも、私と研究者とで色々と細かい工夫を凝らしてはいるが、概ねそのような性能をしていた。


 『アダム:アドヴァンスドエディション』とでも名づけようか。


 ようやく得た性能の良い身体だ、これからも皆のためしっかり働くとしよう。


 社畜エディション?


 アドヴァンスだってば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 使い潰されてるだけで草 奴隷根性が染み付いてるな 人外転生なら人外らしくして欲しいけど これなら別に主人公が土魔法上手いモブでも良いよね
[一言] おかしいな。上の人間はこんな従順でいいもの手に入れたら考えるのは戦争投入なはずなんだが、、、
[気になる点] 今のアダムさんの見た目、人間サイズに加え、着色とかもされてる感じ? [一言] ついに人形態を獲得したか…次は動物形だな!(無意味かつ無駄な考察) 更新、頑張って下さい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ