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第百四十八話 説明会の始まり

 一先ずギャラの話は置いておくとして、アルペジオが興奮していた様に、メルメルの魔法を使えば、もしかすると『DTM』のようなことが出来るのかも知れない。


 DTMとは、ざっくばらんに言えば、実際の楽器を使って演奏を行うのではなく、パソコンなどに録音された音を組み合わせる事で音楽として成立させる手法の事だ。


 先ほどの魔法で、少なくとも録音した音を任意で再生できるのだとすれば、ドラムやベースなどのリズム隊を、その楽器や演奏者がなくともある程度ならばでっち上げることが出来そうだった。


「その話はまた後にしよう」


 だが、私は一旦その話を打ち切る事にした。


 今はそれに付いてじっくり話を聞くタイミングではない。


 アルペジオから不満げな声が上がるが、こればっかりは我慢してもらいたかった。


 はるばるこの地にやって来たのは、これから始まる『大集結』に参加するためであって、ライブを開催するためではない。あくまでもそれはついでの話だ。


 そもそもライブを行うにしても、沢山の決めなければならない事があり、開催について許可を得るに関してもまだまだ先は長いのだ。


 約束は必ず守るから、今は大人しくしていて欲しい。


 私の言葉に一応の納得を見せたアルペジオは、渋面を浮かべながら腕を組んだ。


 そして、この世界に来て初めて触れたであろう、自分の知る音楽への可能性であるメルメルの事が気になるのか、横目でチラチラと視線を送っていた。


 当のメルメルと言えば、そんな視線もどこ吹く風といった具合に、いつも通りの眠たげな眼を虚空に向けているのだった。


 そうして甲板上で一堂に会した私達は、説明会の準備が終わったという艦橋へと連れ立って向かう事になった。


 大集会については、レストニアに向かう前にメルメルから簡単な説明を受けていたが、その説明から受ける印象は奇しくも、先ほどアルペジオが言っていた、私達の元居た世界のオリンピックを彷彿させる内容だった。


 各国から選出された代表達が、国の威信をかけて競い合う。


 軍事的な意味合いが強いらしい大集結は、スポーツの祭典であるオリンピックとは毛色が異なるだろうが、その古来よりの性質である、神に捧げる祭典である所については似通っているのかも知れなかった。


 尤も、今回の祭りで崇められているのは、神ではなく龍なのだろうが。


 長い階段を上り、私達は元々はそこに存在していたのだろう周囲のガラスが取り外され、風通しの良くなったブリッジに辿り着いていた。


 今は何の反応も示さない計器類が並ぶそこには、うんざりした顔のジャレル君とあからさまに興奮しているピンクの毛玉が先に来ていた様子だった。


「マールメア。自由時間は終わり。こっちに来なさい」


 ナタリアの言葉にマールメアが渋々といった体でこちらへと合流する。ようやくお目付け役から解放されたジャレル君だったが、戻った先で結局は亀や猫科の人々に振り回されるのだから、いたたまれない。


 本人もそれは理解しているようで、レストニア側に合流する彼の後姿には哀愁が漂っていた。


 強く生きろよ。


 全員が揃った事を確認し、私達は元々この場に居たスタッフたちによってブリッジ中央のスペースへと案内される。


 そうやって連れてこられた先には、この場に着いてから見えていたそれ、クレーター周辺を再現したジオラマが設置された大きな机が鎮座していた。


 クレーター周辺に設置された大小さまざまな楕円形の模型の一つに小さな旗が立っているが、恐らくそれが、今私達がいるハバンの陸上戦艦の位置を示しているのだろう。


 スタッフから長い指示棒を受け取ったトレトが、全員の視線が集まるのを待ってから話を開始する。


「見たらわかるかもしれないけどね、これが大集結開催地の見取り図ね。旗が立っているのが現在地ね」


 トレトが手に持った指示棒で模型を指し示しながら、私が予想した内容を肯定する説明を行う。


「簡単に言えば、大集結とは、この遺構となった各戦艦で行われる各都市間対抗のお祭りね」


 指示棒を、クレーターに沿わせるようにぐるりと動かしながら、トレトは説明を続けた。


 大集結の始まりは、大戦終結後の時代まで遡るのだという。


 前に話にあった、天陰龍パルジャミラン=ヌンの墜落とそれに伴う戦争終結の後、この場に集った陸上戦艦の処遇が問題になったのだという。


 今もなお土地に残り続ける程の強い龍の魔力によって、各戦艦は動力系に異常をきたし、この場から動かすことが出来なくなってしまっていたのだ。


 解体しようにも、各都市からは遠く離れたこの地に集まったそれらを分解し、そして運ぶにはコストがかかり過ぎる。また、龍を墜落させた原因となった戦艦達について、レストニアの人々が、それを分解したとしても都市近郊に戻すことを拒む時代背景があった。


 何年も放置された戦艦群、そして調査の為そこに足を運ぶ人々は、天に戻ったはずのパルジャミラン=ヌンが四年に一度この地に戻ってきていることに気付いた。


 初めは、己達の愚かな行いが二度と繰り返されないようにと監視を行っているものと考えたレストニアの人々だったが、そこから転じて、やがて今や真摯に生きる自分達の振る舞いや、力量、政治哲学論等を龍に向かって奉納するという名目で発表を行う人々が現れ始めた。


 当初は不敬であるとの意見もあったそうだが、空を飛ぶ龍が特に何も変わることなく、その四年に一度のサイクルで姿を現す事を止めないと知るや、その動きは各都市間で瞬く間に広がっていったのだという。


 必然、己の都市が最も優れているという対抗心が芽生えたのだが、それで血を流しては本末転倒、愚の骨頂である。


 そこで、いっその事各都市間でルールを定め、平和的に競い合う催しにしてはどうかという流れになり、その時に各都市で最も盛んだった奉納をそれぞれ一つ選んで、無用の長物となった戦艦を改造し、そこを会場にして各々競わせる大集結が開催されることになったのだという。


「当時の大都市が選んだ『四大種目』は基本的に毎回行われ、そして全都市から参加者が選出されるね」


 トレトが指し示す先には、戦艦の模型の中でも特に大きく作られた四つの模型が存在していた。


 東西南北に一つずつ存在するそれらで行われるのが『戦技』、『弁論』、『魔法論』、『芸術』の四大種目と呼ばれる競技なのだという。


 芸術、と聞いた時点でアルペジオが反応をしたのが分かった。


 トレトも気づいたのだろう、各競技参加者は都市の住民に限るという説明がなされた。流石に。今の彼女はそこで何かを言う程に無理解な人間では無い。少し残念そうな表情を浮かべるに留めていた。


 四大種目は全都市間対抗の競技であるが、他に開催される競技についてはそうではなく、開催の二年前に発表される競技種目から各都市が参加者を募る事で行われるのだという。


「それって、人気が無いのはどうなんだ?」


 手を上げたロットが尤もな質問を行う。


 ピッと、指示棒で彼を示したトレトがその質問に答えた。


 開催はされるが、次の競技には選ばれにくくなるとの事だ。そしてここからが重要らしいが、競技として選出されたなかった都市は、自分達の会場、つまりはここ陸上戦艦内で独自にそれを行う事が許されているのだそうだ。


 そして他の都市にアピールを行う事で、次の大集結の際の競技として選ばれるようにするのだ。


 言うまでも無く、龍の御前で大々的に行われる競技に選ばれるのは名誉な事だ。そして、その基準として設けられているのが、その都市の代表による四大種目の成績と、各都市の戦艦で催される競技の評判なのだ。


「如何に、自分達の特色、強みを発揮できるかが肝ね」


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