第百二十話 ばーにん!?ふぇに子! 不死鳥に転生したら皇子様に求められてしまいました! ~そして獄中へ~
わたし、ふぇに子! こう見えても不死鳥なんだって!
結局この名前で定着しそうだよ!
時々色が変わる灰色お肌がぴちぴちの、十九歳の女の子!
いや、女の子って年齢じゃないかもだけど、気持ち的にはまだ若いし、二十歳超えていないのは少女理論が存在するわけだから、まあいいよね! 異論は認めない!
わたしがこの世界で目覚めたのは、一面灰色になった大地の上だった。
まるで自分の身体と同化しているような一面の灰の中、わたしは生まれたのだと思う。
多分、火山か何かが噴火して、それが落ち着いた後の土地だったんじゃないかと、今になって考える。
そこに埋もれていたわたしは、起き上がってさあびっくり。
だって、胸が苦しくなって、ああ死ぬんだな。嫌だなって思って意識を失ったと思ったら、全身が灰色なんだよ。
パニックにならない人、絶対いないよ!
で、慌てて回りを見渡して更にびっくり。
なーんにも無い。
煙が立ち上る、てっぺんの形がおかしい山以外何にも無い。
唖然として周りを見渡していると突然、ががん! と頭の中にたっくさんの情報が突っ込まれた。
それで、わたしはここが異世界で、転生して魔物になったことを知った。
でもそれだけ。
何処其処へ行け! みたいな、お約束の案内は全く無し!
わたし、オープンワールドゲームはやる事が良く分からなくて苦手なんだけどな。
どうせ転生するなら乙女ゲーの世界が良かった。
というか、自分が何の魔物なのかも分からなくて、最初の頃は混乱して泣きながら適当に歩いてた。
なんか、涙の代わりに火がぼろぼろ零れて来るを見て、三度びっくり。
それを見て悲鳴を上げたのは遠い昔、今はもう自分の身体から矢鱈めったら火が出ても驚かなくなった。
どうせなら、スライム出てこい! って思ってたら、出て来た奴、何か可愛く無くて怖いし。
兎まで怖いのはなんなの?
そしてゴブリン。
ゴブリンは皆殺しだ。絶対に許さん。
まあ全員、ガチで殺そうとして来るのが分かって、わたしはとにかく逃げまくった。
そうこうするうちに、現実逃避のカプ妄想をすると、自分の中で火が灯るのを感じた。
少し元気が出て来る。
それで騙し騙しやって、だけどそれも限界に近くなってきた頃だった。
すっかり独り言を言う癖がついて、ふらふらになりながら街道っぽいとこに着いて、変なテンションになって、そしたらスピネさんがババーンと登場。
めっちゃグロかったけど、こんなわたしを助けてくれた恩人です。
スピネさんは凄いカッコいい女の人。
槍をびゅんびゅん振り回して、なんもかんもをバッタバッタと薙ぎ倒していく。
わたしはスピネさんがタバコを咥えたら火を付ける係に就任して、そんな彼女と一緒に暫く旅をした。
旅と言っても、本当に短い期間で、最後には今居るヴァルカントって都市に辿り着いた。
そこは、なんて言うかゲームみたいな都市で、わたしはここで知識チートを使って成り上がりを試みた。
結果は惨敗。
えっちな服を着て、借金を返すためにお店で働く羽目になった。
ちなみに元は健全なお店です。
えっちな服は私が提案した結果です。
さーせんした。
だって冗談で提出したデザイン案が通ると思わないじゃん?
暫く働いてたら、スピネさんが知り合いがここに来るって話をしてきた。
なんと、わたしと同じような魔物に転生した元人間もやって来るのだとか。
で、やって来たのはまんまロボットの人。
アダムさんだった。
因みに、知り合いの男の人二人は、ちょっと趣味から外れているけど、カプ的にありでした。
女の人は、出来る女オーラ全開で、少し苦手。
まあ、そのアダムさんはかなり話が通じる人で、わたしはこの世界で、主に同僚のメイドさん達に布教を続けていたけど、久しぶりに前世のオタ話が出来てかなり嬉しかった。
それで、嬉しくなって、楽しくなったけど、やっぱりある程度心が高揚すると、胸の辺りが苦しくなって、ストンと気分が下がってしまう。
理由は分かっている。
わたし『この命を楽しんで良いのかな』って、ずっとそう思ってる。
命のバトンを渡されて、好き勝手やって無駄にしたわたし。
また新しい命を貰ったけど、今度は何か、やらなければならない事があるんじゃないかと漠然と感じていた。
アダムさんは、きっともう何か見つけてるんだと思う。
でも、初めの頃はそれをわたしに教えてくれる気はなさそうだった。
ただ、この世界で生きていくために必要な力をわたしに身に着けさせるため、一緒に頑張ってくれている。
初めの頃は、お節介な人、と思わなくもなかったけど、少しすれば只々嬉しい気持ちが込み上げてきて、そんな嫌な考えは直ぐに押し流されていった。
それに、ネタを振るときちんと返してくれるから、ついつい甘えてしまう。
やがて、にっくき奴らを燃やせるだけのパワーが身に着いた頃、空から飛行船がやって来た。
顔が良い皇子様達のご到着である。
私はこの時、天啓の様にある憶測がひらめいた。
実はこの世界、乙女ゲーだったのではないかと。
まあ、それは無かったんだけど、皇子達がわたしを狙っているという話を聞かされた時は、半ば確信しかけました。
間違いだと気づいたのは、ヤバいドラゴンが世界の敵として存在しているって話を聞いたとき。
この世界は、ドラ〇エだった。
それも多分四作目。
わたしは導かれし者たちだった。
勇者だ何だと言われて、凄く混乱したけど、心のどこかではホッとする自分が居た。
ああ、やっぱり。
ちゃんと、やらなければならない事があるんだって。
ずっと罪の意識を感じていた。
命のバトンを無駄にしたくせに、おめおめと生き延びている事に対して、後ろめたさが絶えなかった。
だから、興奮は直ぐに醒めるし、この胸の手術痕がずっと開いたままなんだと思う。
この奥にある心臓は、今も昔もわたしの物では無い。
きっと、その価値に見合う生き方をしなければならないのだと思う。
でもめっちゃ怖い。
どう考えても無理。
こういう時、自分が情けなくなるけど、無謀よりは良いと思う。
でも、目標が定まって、頑張らなくちゃって気持ちが出てきたのは良い事だったと思う。
その後の攻略でも良い結果が出始めたしね。
アダムさんは『推し』については保留にしておけと言っていたけど、四人の皇子はどれもストライクゾーンを掠める程度でど真ん中ではない。安心して欲しい。
まあ、掠ってはいるんだけど。
シチュによっては――いや、耐えろわたし!
父違い褐色兄弟とか! 実はお酒に弱い兄とか! アホの子を装って策略を巡らす金髪とか! 仲良くケンカップルとか! クソッ! 何て戦闘力だよ!
不死鳥に生まれ変わってから最大の難関を乗り越えたわたし。
自分で自分をほめてやりたい。
そして、そんなフィーバータイムの過ぎ去った次の日。
アダムさんはライラちゃん達と家族サービスをするとの事で、今日の攻略は無しになった。
正直、ちょっとついて行きたい気持ちもあったけど、ライラちゃんが間違いなく凄い目を向けてくる予感があったから言い出せなかった。
お仕事も休みだし、宿の外に出てどうしようか考えていた矢先だった。
「あの! ふぇに子さんですよね!?」
突然呼び止められ、わたしはその声の方角を向いた。
ピンク髪のショタが降臨していた。
やられた。
実物の破壊力は、パーフェクトピッチングに近い。
存在が偉業すぎた。
推せる!!
いや! 待てふぇに子! アダムさんの言葉を思い出せ! こんな餌に……ああー! 匂いが良い!! 甘ったるい!! ミルクかよ! そして、抱き着くの反則過ぎますお客様ー!! いけませんお客様ー!! わたしよりも背が低いから可愛いつむじがばっちりですお客様ー!!
心臓が熱い。
わたしはハッとして、ショタを遠ざけた。
火傷させてしまうかもしれない。
「お、お、おおお、お姉さんにー! 何か用きゃ、きゃなー?」
冷静に言葉を返すわたし。
「どうか力を貸してください! 僕は、僕にはふぇに子お姉さんの助けがいるんです!」
いくら出せばいい?
わたしは冷静な判断の元、財布を取り出そうとして、部屋に置いてきてしまったことに気付いた。
いや待てよ。
お金持ってないんだー。
お部屋に忘れて来たなー。
一緒にお部屋に行こうかー。
……冷静になれ! それは事案だよ!!
うるうるした瞳でこっちをみないで欲しい! ポスターにして壁に貼りたくなるから!
わたしは荒げそうになる息を全力で整えながら、ショタに詳しい話を聞こうと試みた。
よく考えたら、お金に困っている訳じゃなさそうだ。
隙あらば推しに貢ごうとしてしまう悲しい習性のせいで、勘違いしてしまっていたようだ。
「お、お姉さんとし、静かな所にい、いこーか。ハァハァ……」
わたしが甘い匂いのするショタと共に楽園を建造しようと試みたその時だった。
「いたぞー! ミトラ殿下! 貴様何をしている!」
「ま、まだ何もしていませんよ!?」
マジで!
まだ!
何もしてませ――ぐわああああああ!!