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第百十九話 ショッキング・ピンク

 予期せぬ乱入者はいたものの、私にとってもかなりの収穫があった打ち上げが終わり、私は帰路に着いていた。


 このままガルナやベルナといった皇国の人間に話を聞きたい気持ちはあったが、流石に夜も更けている。


 睡眠の必要のないゴーレムの感覚でお邪魔しては迷惑千万だろう。


 私はそう考えて大通りに出た。


 電灯の無い世界では、夜中の街並みも相応の暗さとなるかと思いきや、決してそうはならない。


 電灯の代わりに魔石で点灯された街路灯や、家々からこぼれる光で、ヴァルカントの街並みは煌々と輝いていた。


 そんな光景を、私は奇妙な充足感と共に眺め、歩いていた。


 何時だったか、誰かと、何かを話しながらこんな風に街を歩いていた気がする。


 誰だったか。


 私は朧げな記憶を頼りに、なんとかその人物を思い出す。


 そうあれは確か、妻だ。


 娘である望海を妊娠したばかりの頃だ。


 私は隣を歩く彼女の身体を過剰に心配し過ぎて煙たがられていた。


 その顔は、やはり思い出せないが、困ったように笑われていたのは思い出した。


 そして望海が生まれて、体調を崩した妻の代わりに私が娘を連れて外へ出る機会が増えた。


 縁日に連れて行く事もあった。


 綿あめの料金が高い事を不満に思いながらも、それをねだる娘に買い与えていた。


 帰ってきて、それを知った妻に叱られて、そして――。


 その先を、ノイズが掛かったように思い出すことは出来なかった。


 次の日、私はライラに約束していたショッピングに、彼女達と共に出かけることになった。


 ガルナやベルナは所用で先に出かけていた。まあ、間違いなく皇子関連だろう。


「これ、どうですか?」


「なんだライラ。それ、何か装備すると効果が有るネックレスなのか?」


「ロット~。だから~きみは~ロットなんだよな~」


 少年少女は露店を冷かしながら楽しそうに笑っていた。


 私達は、時折買い食い等しながら、ヴァルカントの大通りを歩いて回る。露店通りの名に恥じぬその店の多さに、見て回るだけで一日を潰せそうな勢いだった。


 だが戦闘にまつわる商品がどうしても多いその露店の品ぞろえを前にして、やはりどうしても話題は魔窟に関する物へと偏重してしまう。


「アダムさんはふぇに子さんと一緒に十階層まで行ったんですよね。おめでとうございます」


 棒に刺した飴細工を舐めながら、ライラがそう切り出した。


「そういうライラ達は、もう三十階層まで進んでいるじゃないか。大したものだ」


 こういう情報は、互いに話さなくとも順位表で一目瞭然だ。便利な反面、知らない人間に個人情報を握られているような妙な焦燥感を感じたりもする。


 私の言葉に微笑んだライラには、先日見られたような怒りはもうすっかりなくなっているように見えた。


 まあ、表面上取り繕っているだけの可能性が高いのだが。


 私は努めて、ふぇに子の話題を避けながら彼女達と会話を続けた。


「アダムはさあ、母ちゃんとよく話すじゃん? なんか俺のこと言ってた?」


 ロットが不意にそんなことを言い出す。


 勿論、言っていた。


 スピネは、間違いなくロットを気にしている。少なくとも、私はネグレクトとは思わない。


 ただ、彼女の吐露した心情をどこまで話していい物かと少し迷った。


 結局私は、スピネが冒険者としてロットの前に出る事の意義を、彼女なりに考えて行動している旨を伝えるに留めた。


 思春期であるロットに上手く伝わるかは分からなかったが、スピネはちゃんとロットを気にかけている事実を、きちんと言葉にして伝える事は出来たように思う。


「アダム~。これかって~」


 するすると近づいてきて私のローブの裾を引っ張りながらメルメルが露店の商品をねだる。


 指し示す先に有ったのは、革張りの豪華な装丁をした本だった。


 値段を確認して、そのあまりの高額さに私はそのおねだりを拒否する。


「ちぇ~」


 メルメルは私の裾を掴んだまま、串焼き肉を頬張った。


 まさか買ってもらえるとは思っていなかっただろう。肉親の話に話題が移って、少し甘えたくなったのかも知れない。


 孤児であるメルメルは、実は寝る時にも一人寝を寂しがるほどの甘えたがりを見せるときが有る。


 そうやって塊になって大通りを散策していると、何時の間にか足は冒険者ギルド方面へと向かってしまっていた。


 ほんの数日だというのに、職業病の様に魔窟に近づいてしまっていた事に気付いて、私達は皆で笑ってしまった。


 塔の近くには、やはり飛行船が停泊している。初日よりは人は減ったが、それでも周囲にはその姿を一目見ようと人だかりが出来ていた。


「あれ? マールちゃんがいませんね」


 初日からずっと飛行船に張り付いている野次馬筆頭は、今日も朝早くからここに来ているはずだった。


 その早起きを普段から心掛けてくれ。


 ライラの言う通り、あの目立つピンク髪が人だかりに見当たらない。


 もしや、ついに連行されてしまったのだろうか。


 そう考えていると、飛行船下部の乗船部から見覚えのある二人組が兵士と共に外に出て来た。


 飲み物を飲んでいたロットが思わず口からそれを吹き出しそうになる。


 本当に連行されてやがった。


 出てきたのはマールメアとフレンだった。


「いや、違うんです! 誤解なんですって!」


 君が誤解という言葉を使う時は、大抵の場合誤解じゃない。


 釈放された二人と合流した私達は、ぼさぼさ頭を振り乱して弁明を行うマールメアに疑惑の視線を向けることになった。


「アダムさん。それがマジで誤解らしいんですよ。なんでも、人違いだとか」


 何時の間にか苦労をしょい込むことに定評のあるエルフが被告人の弁護を行った。


 そもそも、何故フレンまでもがマールメアと共に飛行船内部に連れていかれていたか。


 それは、流石に連日迷惑行為をしでかしそうなピンクもじゃを野放しにさせないために、グレース達によって秘かに監視を頼まれていた事に起因するとの事だった。


 今日も朝早くから飛行船ウォッチを開始したマールメアを尾行し、余計な騒ぎを起こさないか監視をしていたところ、飛行船内部で何やら騒ぎが起こり飛び出してきた兵士にマールメアが捕まえられそうになったらしい。


 そこで、フレンは幸いにもまだ何もしていなかったマールメアを助けるために飛び出していった所、一緒に内部に連行される羽目になったとの事だ。


「本当に何もしていないんだろうな? 夜中に侵入して機材を盗んだりとか」


「出来たらしてますので、やってませんよ!」


 フレン、こいつ突き出して来ようぜ。


 兎も角、よくよく兵士の言い分を聞いてみれば、昨日の夜中からマールメアに特徴が似ている人物が行方不明になっているとの事だった。


 猛烈に嫌な予感がした。


「私、どうやらその人と勘違いされた様です。失礼しますね。私が男の子に見えるというのですか!」


 いや、その行方不明の子が女の子みたいだからこそ、変装か何かだと勘違いされたのだろう。


 嫌な予感が更に高まった。


 その時、人だかりの一団がざわつくと、それは波の様に広がっていった。


 私達はその起点となった方向へ視線を向ける。


「アダムさん。あれ、ふぇに子さんじゃないですか?」


 悪い予感程当たるのは何故なのだろう。


 そこには、半べそを掻きながら連行されるふぇに子の姿と、お騒がせな第四皇子が並んで連行される姿があったのだった。


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