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第一〇九話 ふぇに子のお着換え

 机の上に並べられたのは多種多様な革製品だ。


 一目見てどういう類の衣類が分かる物もあれば、そうで無い物もある。


 しかし、それが火蜥蜴の革製品の特徴なのかは分からないが、色はどれも赤系で統一されていた。


 そのため、地味だった机上は、今や鮮やかな色合いで埋め尽くされている。


「フード付きケープ! 確かライラちゃんも着てましたね」


 そう言ってふぇに子が手に取ったのは、彼女の言う通りライラが身に付けているようなケープだった。


 ただ、可愛らしいライラのそれと比べれば、鱗地が目立つ、やや野生的と言えるデザインとなっていた。


 悪くない。これならば背中と頭の両方を隠せる。


 フードを被れば顔を隠す効果も期待出来て、今のふぇに子にはうってつけの品物かもしれない。


 まあ、顔を隠したところで、此奴の場合身バレを防ぐ効果は薄いかもしれないが。


「良いんじゃないか。一つで二か所隠せるのは、中々財布にも優しい」


「そう言われると、別に買いたくなってきました」


 一応言っておくが、値段分はしっかり頑張ってもらうんだからな。それを踏まえて選びなさい。


 私の発言を聞いたふぇに子は、結局初めに手に取ったケープを試着し、姿見の前で確認を行った。


「どうだ?」


「うーん、萌えてないから、燃えていないので何とも……」


 確かに、燃料が要るか。


「お前も会ったことのあるエルフのフレンだが、彼は元々冒険者でな。ある時、危険を冒して魔窟に取り残された自分を助けに来てくれたグレースに心を打たれ、努力に努力を重ねて連合に入った男なんだ。そして、グレースが学校の臨時教師だった頃に現れてこう言った。『また会えましたね。今度は背中におぶさるんじゃなく、その背中を守って見せます』と……」


「もっと詳しく」


 耐火性は問題ないようだ。


 後は、今もチロチロと火の粉が出ている尾羽だな。


「こんなのはどうでしょう?」


 そう言って女性が取り上げたのは、一見すると丈が少し長い半ズボンに見える、サイズが小さな下穿きだった。


 地球で言うところのレギンスに近い。


 手に取って確かめると、生地の伸縮性もそれに良く似ている様だった。


「これも革なんですよね」


「ええ。火蜥蜴の喉の部分、元々良く伸びる部位を加工して作られているんですよ」


 その説明に、私はその下穿きを検め直す。


 確かにレギンスの側面部には縫い跡がしっかり残っている。


 だが、その糸も含めて耐久性に問題は無いように思えた。


 私がそれを弄繰り回していると、試着を終えこちらに戻って来ていたふぇに子が、その様子を見てニヤリと笑った。


「スパッツじゃないですか。アダムさん、こういうのわたしに履かせたいんですか?」


「履いてる物と太腿の隙間から火の粉をぼろぼろ零したくないなら、こういうのが良いだろう?」


 私の反論にふぇに子は目線を左上に向け、少ししてからハッと気づいた。


 尾羽から火の粉が出るとして、尾羽を覆い隠すように下穿きを履き、それで太腿の間とで隙間が出来るタイプの場合、先ほど私が指摘した事態になりかねない。


 その光景を傍から見れば、恐らく粗相をしてしまっている様にも見えるだろう。


「わたしが浅はかでございました」


「うむ、良きに計らえ」


 私は一礼しながらこちらに手を差し出したふぇに子にレギンスを渡す。


 ちょっと恥ずかしそうにしながらレギンスを履こうとするふぇに子。


 流石に正面からガン見するには憚られるので、工房の女性と値段交渉をしながら時間を潰す事にした。


「下穿きは念のため、替えをご用意した方が良いかと存じます」


 商売上手な彼女のセールストークに、試着を終えたふぇに子が同意を返す。


 これは、覚えているぞ。


 女性の買い物に、男は口を出してはならないやつだ。


 最終的にフード付きケープ一枚と、レギンスタイプを三枚購入することになった。


 一般的にはお高い買い物だったが、ガルナの紹介である事もあって、最初に言われていた通りかなり勉強をしてもらった金額となった。


 こういった判断には、市場調査をナタリア達に頼んでおいたのが非常に役に立った。


 今日の攻略が終わったら、何か皆にお土産を買って帰らないとな。


「アダムさん! どうです!? 良い感じでしょう!?」


 赤色のフードを被り、メイド服にケープ、スカートの裾からも黒っぽい赤色が覗くその姿は、どこか『赤ずきん』を思わせた。


「どんどん乙女ゲームみたいになっていってないか?」


「……ど、童話系は確かに鉄板ですが」


 私はくれぐれもゲームと現実を混同しないように注意を呼び掛けながら、ふぇに子と工房を後にした。


 ギルドに辿り着いた私達は、その様子が平素と変わらぬ事を確認した。


 塔の近くに飛行船が停まっており、見知った顔が騒いでいるのは気にしないものとする。


「昨日、私達五十階層に行ったじゃないですか。順位が一気に上がって、なんだあの新人は!? みたいな事になったりしませんかね?」


 ふぇに子は浮ついた足取りで順位表へと向かう。


 だが、一党の順位を示すそれに彼女と私の名前が載っている様子はなかった。


 代わりに、個人別と急上昇を示す順位表に私の名前が燦然と輝いている。


「なんでですかー!? アダムさんばっかりオレツエーして!」


 どうやらこの魔窟の順位システムは優秀らしい。


 近くにいた冒険者に軽く話を聞いてみたところ、如何なる基準かは公表されていないらしいが、概ね実情に沿った結果が張り出される仕組みとのことだった。


 冒険者にお礼を言った私は、不満げな声を漏らすふぇに子を連れて今日も受付へと並ぶ。


 今回も担当はジギーさんだ。


「ふぇに子様、他の冒険者様から勧誘のお誘いが来ております。如何なさいますか?」


 早速来たか。


 にっこりと微笑みながら伝えられたのは、所謂引き抜きの話だった。


 だがそれは、いずれも皇子達による物ではない。


 大方、ふぇに子を取り込んで、彼等への繋ぎとして使おうという魂胆の輩だろう。


「うっ。お、お断りしてください」


 ふぇに子の言葉にジギーは再びにっこりと微笑み、申請の用紙をカウンター内に仕舞い込んだ。


「何か、件の貴き方々から問い合わせはありましたか?」


「勿論、ございました。ふぇに子様の素性に関するお問い合わせを頂いております」


 そう言うや否や、彼はカウンターの下から小さめの黒板を取り出し、その書かれた内容を此方へ提示して来た。


 そこには、個人名は書かれていなかったが、明らかに皇子達をデフォルメした絵柄の似顔絵が四つ描かれており、更にその横には幾つかのハートマークが並んでいた。


「僭越ながら個人的に纏めておきました。私の主観でございますが、ふぇに子様に対する各々方の好感度表で御座います」


 このギルドの人達、さては表とか大好きだな。


 因みに、なぜかその表には私らしき似顔絵も加えられている。やめてくれませんかね


 あくまでも主観であることを念頭において下さいとのジギーさんの念押しの後、その皇子達の評価を改めて眺める。


 皇子達の好感度は、長子であるリベナス殿下のみハートが一個で、それ以外は二個だ。


 何故か私のハートは三個になっている。


「えー? 困っちゃうなぁ〜。アダムさんわたしにハート三個か〜……。何で一個消すんですか!?」


 そういうとこだぞ。


 向けられた好意が最大でハート二個の少女がギャイギャイ騒ぐ中、私は受付を終了する。


 そして本日の鍛錬に向かおうとしたその時だった。


「へー。ふぇに子さん、たくさん買ってもらったんですね。へー」


 待ち構えていたライラ達に見つかった。


 ライラがちょっと怖い。


 メルメルは彼女の後ろで、此方に向かって呆れる様なジェスチャーを送ってくる。


 ちくしょうめ。


 不思議だな。ライラの横に爆弾マークが見える。


 何とか機嫌を宥めようと試みたその時、不意にギルド入り口が妙に騒がしくなった。


 私とライラ達が奥を注視する。


 そこには、遠巻きにする人集りの中、ハート一個(好感度最低)の皇子が供を連れてやってくるのが見えたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 皇子達は、自分たちの国に現れた新しい勇者?だから確保したいのかな。 好感度のハートマークはMAX100位に設定されているんだろうな(笑)
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