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第一〇六話 分かりたくはなかった話

 私はガルナに、皇子達の今後の動きについて、彼が話せる範囲で聞くことにした。


 それに対する彼の返答は、分からない、だった。


「帝都から暫く離れていた身だからな。各皇子やその派閥間の関係は実に複雑で、確かなことは、長子で在らせられるリベナス殿下は本腰を入れて攻略に乗り出すだろうという事だけだ」


 なるほど。


 では連合に所属する私達は、彼らに協力を持ち掛けられた際、それに応じるべきなのだろうか。


 答えは当然ノー。


 つまり、先程の言葉が真実であるとするならば、ガルナは現時点でどの皇子にも肩入れしていないという訳だ。


 協力していて、良く知らないという事は無いからな。


「だが、引き抜き行為自体はは認められている。何処で働くか、そこは個人の自由だからな」


 そう言ってガルナの視線が一瞬だけベルナに向かった。


 ベルナは皇室勤務希望なのか。


 龍の秘薬に手を出したのはその所為もあるのかもしれない。


「そもそも、皇太子をお決めになられない陛下の尻を叩く意味でアダム殿達をお招きしたのだが、此方が話を奏上するよりも早く皇子達が反応してしまった」


 何とも色々と、個人の思惑が絡む話だ。


 だが、此処から先最も懸念しなければならないのはやはりふぇに子だろう。


 彼女は別段何処にも所属しているわけでは無い。


 あくまでもスピネの連れであり、現在は借金によって店で働いているに過ぎないのだ。


 私やゼラに連なる存在であるために、包括的にその身元を、現場判断で私達が保証している状態であって、厳密にはただの一冒険者に過ぎない。


 ヘッドハンティングするには持ってこいだ。


「それなら、ふぇに子さん的には皇子様に雇われた方が良く無いですか?」


 ライラが当然の答えを口にする。


 それが問題なのだ。


 正直、ふぇに子からして見ればそちらの方がいいに決まっている。


 魔物に転生し、借金に苦しんでいる所を見目麗しい皇子達に助けられ、協力を求められる。


 正に『転生したら』案件だ。乙女ゲーチックとも言う。


 対して、私個人の意見としてそれに反対している理由と言えば、実に個人的な心情によるそれだ。


 ズヌバ打倒のため、彼女を可能な限り此方に寄せておきたい。


 世界規模で見れば言い訳も立つ理由だが、その根本に存在する感情はごく個人的な物だ。


 ふぇに子を利用していると断じられても仕方が無い。


 そうなると、個人の感情と理屈で持ってふぇに子を皇子から遠ざけたいというスタンスである私は、もしや悪役令嬢ポジションになるのか。


 悪夢かよ。


 ガルナからの情報により、今回の皇子襲来によって対応を考えなくてはならないのは一先ずふぇに子だけという事が判明した。


 よって今日もまた、非常に不本意であるがあのメイドキャバクラに行かねばならない。


 連日あそこで遊んでいる訳だが、これは必要に駆られての行為だ。


 だからライラ、そんな目で見ないで下さい。


 そう言う訳で、酒を呑むにはまだ早い宵の口、私はガルナと連れ立って件の店へとやって来たのだった。


 店の入り口に差し掛かると、何とふぇに子が店の外を清掃していた。


 出来れば店の中にいて欲しいのだが。


「あれ? アダムさん今日も来たんですか? 好きですねー……。冗談です! 冗談ですってば!」


 私に頭を鷲掴みにされたまま、ふぇに子が踠きながら命乞いを行う。


 手を離してやると、乱れた髪を手櫛で直しながら、此処で漸くガルナの存在に気付いた様だった。


「今日は違う男性なんですね。……アダム総ーー冗談ですってば!」


 お前に話があって来たんだと良い含め、私達はふぇに子と共に入店する。


「お帰りなさいませご主人様ー!」


「うむ」


 素で返すのやめてやれガルナ。


 本物のご主人様のご来店に、多分将軍時代の彼を知っているであろう従業員の顔が引き攣っていた。


 私達は最早定位置となった店の奥に連れて行かれ、やはりいつも通りスピネと対面する事になった。


 相変わらず彼女の堂に入った態度は、この店の顔役と言われても違和感が無い。


 だが、そんな彼女もガルナの前では態度を少し改める様だ。


 いつでも攻撃できる体勢に変えたとも言うが。


「珍しい爺さんを連れて来たなアダム。ふぇに子達が騒いでるガキどもの件か?」


 挑発的な発言にガルナの眉が僅かに動くが、彼の顔はその言葉に同調するかの様ふっと和らぐ。


「ああ、ガキどもの件だ」


 そう言って席にどっかりと座ったガルナに続いて、私も静かに着席する。


 メイド達は空気を読んだのか私たちの隣に座っては来なかった。


 スピネの両隣の娘達もそっと失礼にならない様に一礼して場を離れた。


「へいお爺ちゃん! メニューお待ち! このスペシャルメニューがオススメです」


 代わりに空気を読んでいないのが来た。


 言わずと知れた不死鳥だ。


 まあ、来て欲しいのは事実だが、もう少し静かに来なさいよ。


 結局、この場に残ってテーブルを囲んだのは四名だ。


「お初にお目にかかる。フェニコ君? と言ったかね。どうにも中々楽しい女性の様だ」


 一々訂正するのも面倒になってきたが、ガルナの発音を修正する。


 ふぇに子もおずおずと挨拶を行った。


 そしてスピネといえば、あまり見た事が無い不機嫌さを隠そうとせず、少し乱暴に吸殻を灰皿に押し付けてから挨拶を行う。


 どうやらスピネ的には、権力の匂いがするこの老人の事がお気に召さないらしい。


 私から話の口火を切り、今回の件でふぇに子に皇子達からアプローチが来る可能性を伝える。


 その上でどの様に身を振るかは、彼女の自由意志による旨を続けて伝えた。


 話を理解したのかは分からないが、ふぇに子はその話を聞いて腕を組みながら悩み始めた。


「成る程……。つまり『推し』の話ですか?」


 全然違う。いや、合ってるのかもしれない。嘘だろ。


「この店でも問題になっているんですよ。推し問題は。みんなカプも含めて派閥が生まれつつあって、同担拒否なんて言い出す子まで現れる始末。困っちゃいますね」


 そうだね、困っちゃうね。


「グループ推しするにも、もっと人数がいればよかったんですが……。隠し子とか、他国からの継承権保持者とかはいないんですか?」


 ガルナは脳が話を理解するのを拒否したのか固まってしまっている。


 スピネは完全に聞き流していた。


 だから仕方が無いので私が聞き手になるしか無かった。


「今の御推しは?」


「まだ決めてません」


 じゃーもーいいや!


 解散、解散!


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