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第一〇二話 お試し階

本日ちょい短めです。

「どりゃりゃー!」


 ふぇに子の投げ付けた火球が、着弾点で膨張し弾ける。


 その熱量と衝撃によって、歪に背を丸めた小鬼がその命を散らした。


 現在、私達は覇者の塔二階層にて先日と同じ様に攻略を行っていた。


 初めは昨日と同様、第一階層での鍛錬を行う予定だった。


 だが、ふぇに子に尾羽が生えて一晩経ち、彼女が目覚めると妙に昨日よりも調子が良いとの事だったので予定を繰り上げる事にしたのだ。


 事実、明らかに攻撃能力が向上していた。微々たる変化だが、それによって積極性が高まった事が何よりも効率の向上に一役買っていた。


「ナイピー、ナイピー」


「どんなもんです! この調子で行けば一日一階進めます! 百日後に登り切る不死鳥ですよ!」


 それは希望的観測が過ぎる気がする上、あまり良い結果を齎さない予感がする。


 兎も角、彼女の言う通り問題無く次の階層への階段を見つけた私達は、道順を再度確認しながら地上一階の冒険者ギルドに戻ったのだった。


「お帰りなさい、アダムさん!」


 そうして出迎えてくれたのは、自分達も攻略を止めて戻って来ていたライラだった。


 顔は見覚えがあるだろうが、話すのは初めてなのだからだろうか。ふぇに子がさっと私の後ろへと隠れる。


「圧を感じます……!」


 何を言っているのやら。そんな事は無い。


 無いよね?


「アダムさん達はどこまで行きました? え、二階層? そうですかー。まあ、初めから登ればそうですよね。私達も二十階層からの開始とは言え、まだ二十六階層ですからね。二日で」


 なんだなんだ。どうした。


「人数差もありますから仕方ないですよね。もっと上の階層では一日一階層は平均的だそうですから、気にしなくても良いと思いますよ。では失礼します」


 言うだけ言ってライラはづかづかと音を立てながらロット達の待つテーブルへと向かって去って行った。


「普段はあんな子じゃ無いのだが、すまんなふぇに子」


「はい、クソ雑魚ですいません。調子こきましたすいません」


 ブスブスと音を立てながら燻るふぇに子を宥めていると、また見知った顔近づいて来た。


 スピネだ。


 彼女は、ロットの物と身長に対する比率が同程度の槍を肩に担ぎながら此方へと向かって来た。当然、穂先にはカバーが付けられている。


「お二人さん、調子はどうよ?」


「思ったよりも悪く無い」


 私の言葉にスピネは呆れた様に笑いながら順位表へ目をやった。


「名前は無いみたいだけどな」


 それは仕方が無い。


 順位表にはいくつか種類があって、最高到達階層の個人別や、一党込みでのそれが存在している。


 中には新規で登り始めた人間を纏めた、登る速度の勢い順という物もあり、そこにはライラ達の名前もあった。


 けれども、彼女が言うように私たちの名前は何処にも無い。


「負け惜しみを言わせて貰うが、別に悔しくは無い」


 スピネは無言で私の後ろを指差す。


「グギギ……」


 ふぇに子よ。煽り耐性が無さ過ぎるぞ。


 人には身の丈に合った学習速度という物があってだな。


「足引っ張ってんじゃないのかー? アダムは本当は五十階層から始められるもんなー」


「出来らあ! わたしだって行こうと思えば五十でも百でも行けらあ!」


 キャラ変わってんぞ。


「じゃあ、行ってみろよ。アダムと一緒なら許可が出るはずだ。五十階を見てくるのも良い経験だ」


「えっ!? 五十階層へ!? わたしが!?」


 ふぇに子が、傍から聞いたら頭がおかしくなったのではと誤解されそうな発言を行う。


 分かった。でも多分そのネタは私にしか通じてないぞ。


 スピネは彼女の奇言奇行には慣れっこの様で、スルーを敢行する。


 無駄に大声で喋ったせいで後に引けなくなったのか、ふぇに子はやらかした顔をしながらもこちらに視線を向けてきた。


「み、見に行くぐらいよ、余裕ですよ。でも、後ろで見てますね」


 足がぶるっぶるしてるじゃないか。まあ、何とかなるだろう。


 私がお試しで五十階層を覗き見に行こうと決めると、スピネがすれ違い様にボソリと呟いた。


 成る程。


 それなら確かに行く価値がある。


 そうして私達は、先程出てきた魔窟入り口へと蜻蛉返りしてショートカットの手続きを行った。


 直通階段に入る前にふぇに子に対してだけ、職員が何が起きても自己責任であると繰り返し伝えていた所為か、彼女はビビり散らかしていた。


 まあ、大丈夫、大丈夫。


 鉄甲船に乗ったつもりでいると良い。


「それ、確か沈んだやつ有りませんでしたっけ!?」


 喚くふぇに子を尻目に、私達は長い階段を登り始める。


 途中途中に休憩所が設けられる程に長いその階段は、私の記憶の中にある赤い電波塔の階段を思い起こさせた。


 これを登る体力も含めて、ショートカット出来る人間を選抜しているのではと推測していると、後ろでふぇに子が息切れを起こしていた。


「エレベーターとか、無いんですか?」


 ある。あるらしいが、使えるのは六十階からだそうだ。


 不満げな声を漏らすふぇに子と共に、私達は遂に階段を登り切った。


 第五十階層。


 見た目だけで言えば何ら低階層と変わった所は無い。


 だが、扉一枚隔てた向こう側から感じられる圧力が比べ物にならない。


 背後で、ふぇに子が出ない筈の生唾を飲む気配がした。


「じ、じゃあ帰りましょうか」


 いや、この階で一体だけ倒しておきたい魔物がいる。


 私のローブを引っ張りながら帰還を訴えていたふぇに子だったが、私の身体がぴくりとも動かないと知るや、半ば諦めたようにその魔物のついて尋ねてきた。


 そんなに嫌そうな顔をするな。君にとっても良い話でもある。


 再入場する前にスピネから囁かれた情報によれば、この階には今後役に立ちそうな素材を落とす魔物がいる。


 ふぇに子と同じく火の性質を持つ大蜥蜴。


 即ち、火蜥蜴(サラマンダー)だ。


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