苺が俺の家に来る
「今日こそ太陽の家に行くからね。」
俺はその言葉を聞いた瞬間食べていたお弁当を吹きそうになった。苺が俺の家に行くということは俺にとっては超緊急事態だ。
有梨華さんと紗奈蘭さんと一緒に住んでいることがバレてしまう。
過去にも苺が俺の家に行こうとすることは何度かあったが今回ばかりは苺は本気のようだった。
「俺家に帰って忙しいし、また今度ってことでいいから。」
俺は必死に阻止をしようと試んだ。
「今日という今日は絶対に行くよっ‼︎ 太陽が一人暮らししてるの凄く心配なんだから。」
今日の苺は自分の意思を曲げなかった。
俺は完全に窮地に立たされていた。
あわあわしている間にも時間は過ぎていきあっという間に放課後になってしまった。
「太陽〜行こ〜。」
苺が俺の座席の目の前にやって来た。
ここまで来れば抵抗しても無駄だと思った。
こうなったら有梨華さんや紗奈蘭さんが苺と鉢合わせしないようにしなければならない。
俺は事前にメッセージアプリに事情を送信した。
「太陽さっきからス○ホ見ても何してるの〜?」
「いや、なんでもない。なんでも...」
俺は送信が終わると教室から出て家へと向かう。
ソワソワする俺の隣で苺は鼻歌を歌いながらリズムを刻んで歩いていた。
「苺随分と機嫌がいいな。」
「当たり前だよ。太陽の家に行けるのが嬉しいんだもん。それにいつか私のい ごにょごにょ..」
最後の方が何言ってるのか分からなかったが俺は焦っていた。メッセージに既読がつかないからだ。このままでは紗奈蘭さんだけでも家に帰っているかもしれない。
俺は一つ手を打つことにした。
帰る時間ぐらいまで道草をして家に行くのはまた今度にしようと提案する作戦だ。
「なあ、苺。近くのコンビニでも寄っていかない?」
「嫌だよ。私は早く太陽の家に行きたいのー。」
作戦失敗だ。
俺の家までどんどん近づいていく。
このままでは厄介なことになる。
俺はどうすればいいか分からなかった。
打つ手なしという状態だったのだ。
そしていよいよ家の前に着いてしまった。
「うわぁ〜懐かしい〜太陽の家だ〜家だ〜」
苺は玄関の前で飛び跳ねる。
嬉しいのがよく伝わる。
紗奈蘭さん帰って来ていないでくれ。
俺は祈りながら玄関の扉を触ると鍵が開いていた。
「あれ?太陽場いつも戸締りしてないの?」
「たまたまだよ。たまたま。」
俺は手汗びっしょりだった。
扉が開いているということは紗奈蘭さんが帰ってきているということになる。
俺は恐る恐る扉を開けるとやはり紗奈蘭さんの靴が置かれていた。
「太陽!靴があるよ。泥棒じゃない?」
「それはないな。」
ヤバイ。どうする。こうなったらバレるのは仕方ないが苺に紗奈蘭さんのことをどう伝えればいいんだ。
俺は心の中で悩みまくっていた。
「太陽おかえり。」
俺と苺が家に上がった瞬間和室から紗奈蘭さんが出てきた。
俺はその場で石像のように硬くなった。
「えぇぇ〜!太陽どういうこと!この人誰?」
「えっと...これは...」
「私は太陽のいとこの紗奈蘭です。あなたは太陽の友達ですか?」
紗奈蘭さんは俺の顔を察してとっさに嘘をついてくれた。ナイスアシストに感謝だ。
「あー。いとこだったんだ。太陽驚かさないでよ。」
「あ...あははは。」
俺は額が汗でびっしょりだった。
「紹介が遅れました。太陽の友達の野原 苺です。よろしくお願いします。」
苺はニコッとして紗奈蘭さんと握手を交わしていた。
とりあえずなんとかなった。次の問題は有梨華さんが帰ってくる前に苺には帰ってもらわないといけないということだ。
俺たち三人は和室に入ると軽い談笑をした。
苺は学校での俺のことを紗奈蘭さんに熱心に話していた。紗奈蘭さんはいつもとは違って軽い笑みを浮かべていた。
時間は少しずつ経っていく。有梨華さんが帰ってくる時間は分からないが早めに帰ってもらうにこしたことはない。
「あっそーだ。今日はね太陽のためにホットケーキを焼こうと思ったんだけどせっかくなんで仲良くなれたお礼に紗奈蘭さんにも焼きますね。」
「苺ちゃんは料理得意?」
「はいっ。大好きです。」
苺はキッチンを紗奈蘭さんに教えてもらい二人でキッチンへと消えていった。
俺は座敷の上に寝転んだ。
「ヤバイぞ。有梨華さん帰ってきたらどう誤魔化せばいいんだ。」
ブツブツ独り言を言いながらゴロゴロしていた。このままでは確実に鉢合わせしてしまう。
そんなことを悩みながらゴロゴロしているとキッチンからいい匂いが流れ込んでくる。
「すごい。苺ちゃん。料理上手い...」
「えへへ。ありがとうございます。」
2人の会話が襖を通じて聞こえてくる。
苺が作った美味しい匂いがするホットケーキが気になってキッチンへと向かった。
「あっ、太陽。丁度今出来たんだよ。」
苺が白いお皿にホットケーキをのせていく。
程よい焼き色にふわっとした見た目の生地。
見るだけでヨダレが溢れてきそうだった。
「早く食べよう‼︎ 」
先程までずっと考えていたことを忘れさせるような美味しそうなホットケーキを早く食べたくて仕方なかった。
「ただいまー。」
ホットケーキを食べることに集中していた俺は玄関から聞こえたこの一言で体全身が硬直した。
有梨華さんが帰ってきたのだ。
「うわー。凄く美味しそうな匂いがするねー。」
硬直したのも束の間有梨華さんがキッチンへとやって来た。
「えっ⁉︎ 有栖川先生っ⁉︎ 」
「の、野原さん。」
二人は見つけ合ったまま立ち尽くしていた。
俺は口を大きく開けて硬直していた。




