第七話 王国へ
「正気ですか、お嬢様」
退室し廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。振り返らずとも分かる、執事のルドだ。
「……なんのことですか、ルド」
「お嬢様の性格は、ウールリアライナ家に仕える皆は無論のこと、ドルイエ様、フレイシア様も、よくわかっていらっしゃるはずです。私はとても、お嬢様が軽々しくそういった御決断をなさる人とは思えません」
流石長くウールリアライナ家に勤めるだけ有って、私をよく理解している。だけど、
「現に王子様と宰相からそう聞かされたんではありませんか。私が、王子様の、婚約相手ということ」
それ以上は固く口を閉ざし、会話を打ち切る。もう何も告げることはないといった雰囲気で、その場から離れる。
背後にいるルドの表情は窺い知れない。私は一度も振り返らなかったから。ただ、何か言いたげではあるが、結局何も言えなかった雰囲気だけが感じ取れた。
「……メーフィリア、無理はしてませんでした?」
「……フレイシア様」
私は質問に首を左右に振った。
メーフィリア様の性格は、フレイシア様もよくご存知なはずだ。破天荒で固有の概念に囚われないところはあるけれど、決して軽率な判断を下すような人物ではない。
正直、どういうお考えなのかは、分かりかねる。
しかし、本人が何も言ってくれない以上、手の出しようがない。何より、王子様と宰相様がそうと公言してある。厳然たる事実。
――かくして、辺境貴族のウールリアライナ家のメーフィリアは、ロンレル王国の第一王子に嫁ぐことになった。
第一章完結です。