第六話 皆のことを考えると
困ったですわ。
思わず貴族口調になりましてよ。――あんにゃろう、やってくれますわね。
どうやら私、陛下の花嫁に決定ですわ。考えを改めてくれませんかな。マジで。
そもそもどうして私。WHY?
まあ、傷物だからという理屈もわからなくもないし、理解もできよう。だけど自分で言うのもなんだが、ウールリアライナ家は辺境貴族です。
私はベッドの縁に座りながら困り果てていた。
ようやく貴族たちの宴会が終わり、ウールリアライナ領と私の平穏な日常が戻ってきたと思いきや、百八十度の逆さまが待ち受けていようとは。
――というのは、先刻までの私。
今、呼び出されてやってきたのはウールリアライナ家の屋敷の大広間。
私が扉の蹴破られた自室で対策と解決法を考えている間に先手を打たれたようだ。
意味を成さないボロボロの扉を突き破る勢いで、慌てて私の部屋に飛び込んできた使用人がそれを知らせてくれた。どうやら既にウールリアライナ家の殆どが私が王子の婚約相手ということを知っている様子だそうだ。
眼前には母様と父様と古くから我がウールリアライナ家を支えてきた執事のルドがいる。三人は各々の表情で私を見つめている。
私と同じように困り果てていた母様、問いただそうとしている父様、心配そうな顔で事態を見守るルド。
「……どういうことか、説明してもらおうか。メーフィリア」
重々しい雰囲気の中で最初に口が開いたのは現ウールリアライナ家の当主、ドルイエ・ウールリアライナ。私の、父様です。今回の件のせいなのだろうか、優しそうな顔にいつの間にかシワが増えていた。
「そうです、メーフィリア。朝突然ウールリアライナ家のご息女がルークレオラ陛下の婚約相手に決まりましたという知らせを宰相様から聞かされたとき、耳を疑いましたわ」
隣のフレイシア・ウールリアライナ――母様も心配そうに尋ねた。
説明、ね……
説明も何も、王子が勘違いしただけです。いや、それとは別に、正直に打ち明けて良いのだろうか。
今までは王子の誤解、勘違いだけで済む話。だが現在は王子だけではなく、宰相、ウールリアライナ家の皆も巻き込まれた。
と言うか、話を聞く限り、来賓用の屋敷にも既に話が広がり、騒動になっていた。
つまりもはや王子と私の問題ではなく、宰相及び国中の重要な貴族たちが私が王子の婚約相手ということを認識した。
今になって、「王子様の単なる勘違いでした」なんて、通用しない。間違いなく断頭台だ。もしもすらあり得ない。
私だけではなく、家族やウールリアライナ家に付き従ってきた使用人の皆も罪を問われることになる。
……言えない、口が裂けても、言えない。
自分で、なんとかするんだ。
「……宴会で王子様に見初められ、共に一夜を過ごしました。母様、父様。王子様は大変ワタクシを気に入っておられるご様子でして、婚約相手に選ばれたという次第でございます」
私の言葉に、母様、父様、ルドが様々な反応を見せた。
私の性格を熟知している母様は、先より心配そうな表情を浮かべて私を見つめた。父様は若干納得しかねると言う様子だが、渋々頷いた。ルドはと言うと、何か思う所あるのだろうか、神妙な顔で私を見ている。
賽は投げられた。