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第五十九話 友人がこんなドSだと思わなかったと供述しており




 困りましたわ。

 何がって?

 昨日の夜のことですわ。


 ルークと一緒に、脱走……ではなくて、外出の件について宰相に説明したら、


「じゃあ俺がついてれば問題ないだろ」


 と、ルークが突然言い出し、


「……わかりました。それなら問題ありません」


 宰相様が謎の納得と了承を見せて頷いた。


 最初はやけにあっさり納得してくれたなと思っていた、が、自室に戻る途中冷静に考えていたら、


(あれ、これ、二人きりでデートの約束になってない?)


 とことの重大さに気付き、顔を引き攣らせていた。


 二人きりなんて、デンジャラス。

 二人きりで出かけるってだけで、恥ずかしさで死んでしまいそうだわ。


 いや、まだ二人きりと決まったわけじゃない。エリンとかリリアとか一緒に来てもらおう。そうしよう。

 ルークには悪いが、そうさせてもらうわ、でないと私の心臓が持ちそうにありませんわ。


 まあ、その前に結婚式をなんとかしないといけないわね。宰相様が王国中の民が見に来るなんて怖いことを言うから、引きこもりたい。


 式、明後日なんだけど。


 あれ、そう言えば私、王国の民にはとんでもないクソアマだと認識されているはずだが、結婚式に出して良い訳?

 あの性悪ドS中年のことだ、絶対何か良からぬことを企んでそうで、嫌な予感がする。


「メーフィリア様」

「ん?」

「これなんかどうです?高貴なメーフィリア様にお似合いの一品だと思います」


 ドレスを掲げ、勧めてくるエリン。


 暢気でいいな、羨ましい。というか今さらっと私のことを高貴って言ったわよね?全然高貴じゃないと思うけど。高貴な人は二階から飛び降りない。その辺に生えている物を拾い食いしない。


「見るからに高そう、却下」


 辺境の田舎娘の貧乏性を舐めてはいけない。それにあんなひらひらのフリフリを着たら、動きにくいし。


「メーフィリア様、王国建国以来初めての即位式と結婚式の併合式ですよ?このくらい着飾らないと失礼です」

「せめて顔が見えないようなデザインをお願い――私は顔面の防御力を上げたいでございます」

「ではこちらのはどうです?似合うと思いますよ」


 無視ですか、そうですか。というか先より露出度増えてません?防御力下がってますけど?


「明後日の併合式、楽しみですね」


 無垢の笑みを浮かべるエリンは、地獄の絞首台の門番に見えた。


「……ゴホ、こ、これは……毒!?……エリン、私に構わず、先に逃げて!!!」


 突然叫び、大げさに口元を抑える私を、ニコニコ笑いながらも冷ややかな目で見るエリン。怖い。


「今日の朝食はまだだと思いますが」


 何その冷静な返し。


「遅効性なの。あのときは平気だったけれど、今になって効いてきたと思いますわ」

「式当日まで耐えてください」


 こんなところにもうひとりのドSが現れるとはね。





 その後も、私の細やかな抵抗を華麗に交わし、エリンは楽しげに次々とドレスを勧めてくる。


「……エリンって、変わったね」


 そんな彼女を見ていると、感想が口から零れた。

 最初の頃のエリンは表情に変化があまりなく、感情の起伏も殆どない、そんな印象を受けた。もちろんそれは彼女の過去が関係していて、その背景を知れば無理もないと思う。


「メーフィリア様のせいですよ。私を友達として接してくださったメーフィリア様のせいです。責任取ってください」


 頬を若干膨らませ、抗議してくるエリン。


「そうね、エリンはいい娘だね」

「メーフィリア様……ッ、そ、それより……いいですか、式の流れについて、もう一度言います」


 顔を赤らめて、ぷいっと横に逸らすエリン。

 照れ隠しなのか、エリンは早口で喋り始め、その言葉に耳を傾け、失礼のないように当日のことを確認する。




 翌日は王都に到着したフレイシア母様とドルイエ父様とディランを迎え、久々の再会を楽しんだ。……父様が酷くやつれているが、大丈夫でしょうか。


 遠く離れた王城の自室の窓からでも、王都の人の数が増えていることが分かる。


 建国以来の初めての併合式とはいえ、主役は即位式。王国に属している貴族であれば、出席しないといけない。

 そんな出席義務がある貴族と違い、国民の参加は自由だけど、噂の次期王妃を一目見たくて、人が続々と王都に集まる。


 そして、式当日――。




番外編も含めて、残り四話、五話で終わります。

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