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第四十九話 意外な人たち




 時間は少し遡る。


 毒殺事件の二日目の夜、場所は宰相の政務室。部屋の中は四人がいて、その中の二人――第一王子と宰相が深刻そうな顔を浮かべて、話している。


「その話は本当か。ヘンリック」

「はい。王都の犯罪が多発している区域に、貴族らしき二人と従者らしい人間が一人、合計三人が入っていったのが目撃されております。情報源の者によると、かなり位の高い貴族で間違いありません」


 慎重に尋ねるルークレオラ王子に、宰相はただ淡々に事実を告げた。

 返ってきたその知りたくない答えに、ルークレオラは手で顔を覆い、頭を抱えた。


 事実を受け止めるのには少しの時間を要したが、ルークレオラは顔を上げて、近くに座っている他の二人――キアロ公爵とガルクカム候爵に目を向け、怨嗟の籠もった声で尋ねた。


「それで、その二人はヘリミティアとエレンシュアと言いたいのか」


 王子様の問いに、キアロ公爵――ヘリミティアの父親が小さく、けれども、はっきりと頷いた。


「尾行した者の報告によれば、間違いはないかと。どうも最近裏でなにかコソコソとやっているようで、監視の者に後を付けさせたら……嘆かわしいですな」


 どこ吹く風のように、淡々と話すキアロ公爵に、王子は色んな感情がない混ぜになっているのを感じた。怒り――自分の大事な女性を傷つけるどころか、殺してしまうかもしれない行為をした幼い頃からの友人に覚えた。同時にその怒りは公爵にも向けた、自分の子供だというのにも関わらず、簡単に売った。たとえそれが正しいことだとしても。


 何よりショックだった。

 子供の頃からの大切な友人で、価値観の相違はたくさんあったが、それでも傷つけないように細心の注意を払ってやってきた、なのに、それが本当に事実なら、俺は一体どうしたらいいのか、と自問せずにはいられない。


 毒殺は重罪だ。王国の王族や貴族は今まで毒殺とは無縁だったが、だからと言ってやって良い訳がない。毒に限らず、殺人は許されない犯罪行為というのは言うまでもない。

 それをやったのが、よりによって自分の友人。殺そうとしたのは、好きな女性。密告したのは、友人の家族。


「陛下、ご決断を」


 沈黙している俺を見て、ガルクカム候爵が促してきた。

 決断だと?自分の娘なのに、そんな簡単に割り切れるものなのか。


「……自分の娘なのに、どうして」


 気がつけば、その疑問は口から零れていた。キアロ公爵は口を開き、答える。


「貴族たるものは、王族と民を守らなければなりません。国を揺るがす可能性は許してなりませぬ。キアロは何代も続いた大貴族です、その娘が王族に楯突けば、混乱は必至。最悪の場合、キアロとガルクカムの両大貴族、その歴史が途絶えます。そんな事態は避けなければなりません。故に早急に反逆者を捕らえなければなりません。我々がなくなれば、王国の国力はかなり落ちるのでしょう」


 蝋燭の明かりは弱い。その弱い明かりで、キアロ公爵の本心は読めない。無表情に語る公爵は自分の本心を隠しているのか、それとも最初から本当に何の感情も抱かなかったのか。

 もっともらしいことを言っているように聞こえるが、単に自分の地位を守ろうとしているようにも見える。


 別にそれが悪いことではない。これまでの行動と行為を鑑みるに、キアロとガルクカムの両大貴族は王国に明確な反意はないことは簡単に理解できる。

 有力貴族ではあるが、彼らと王族の関係を一言で言うと共存。反旗を翻したところで何も得しない、だから手を取り合って一緒に生きていこう状態なのだ。


 しかし、反逆者と、公爵は言った。それが自分の娘でも、容赦ない。


 ギリリときつく歯噛みし、感情を抑える。頭の中がぐちゃぐちゃだ、クソ。行き場のない怒りが渦を巻き、責めるべき相手は見つからず。

 もちろん許してはならぬが、長年の友人はなぜこのような行動に出たのか、今の所怒りより疑問の方が勝る。


 改めてヘリミティア、エレンシュア、メーフィリア三人の接点について考える。

 廊下のあのときだけだと思う。

 そもそもヘリミティアもエレンシュアも、彼女をひどく嫌っていたから、自ら接触しようとは思えない。公爵も嫌悪していたと言っていた。じゃどうして――?


「陛下」


 宰相の声に思考は中断させられた。


「……ヘリミティアとエレンシュアの確保を急げ。本当に関わっていたのなら、二人から解毒剤の作り方を聞き出さなければ。それと、情報収集と捜査も続けろ。……穏便に、済ませ」


 そう言うのが、精一杯だった。





 事件の三日目、順調に行けば今日が私の死亡予定日です。


 この日の朝から王城は騒がしかった。心の声で『もう間に合わない、次期王妃様は死ぬ』とか言い出したり、騒いだりする侍女や使用人がそこら中にいて、頭が痛い。勝手に殺さないでください。


 たまに見舞いに来る貴族たちも、表面上はあんなに悲しんでいたのに、内心では別のことを思っている人が多くて複雑な気分だ。

 逆に顔には出さずに素っ気なく見えていた人が、内心でめちゃ悲しんでいる人も多くて驚く。

 心の声が聞こえてから人間関係について再認識させられたわ。


 まあそれはともかく、まだ死んでないのに朝からお通夜の雰囲気はどうにかならないのかな。葬式みたいに、城内の侍女や使用人が次から次へと訪ねてきている。寝ている私を見て各々に感想を心の中で述べるのもやめなさい、聞こえているから。


 というか。


「葬式はいつでしょうか」


 って尋ねるのやめなさぁい。生きてます!


 人がいなくなり、見舞いが一段落したところ。


「まだ犯人は見つかっていませんね」


 エリンが物憂げにため息をついた。


「まあ、簡単には見つからないと思う」


 となるとやはり釣らなければいけない。昨夜ルークが見舞いに来たときも、すごい負の感情に苛まれていたわ。


 問題は、釣る場合どうするか、だ。

 一番安全なのは犯人が捕まるまで死んだことにする。葬式を行い、犯人を騙し、油断させる。でもそれは逆に言えば、捕まらない限りどうしようもない。


 そもそもなんで犯人に狙われたんだろう。それが気になる。思えばこの毒殺事件はどちらかと言うと、私個人を狙ったのではなく、次期王妃を狙ったように見える。


 面倒くさいわね、王都か、その周辺領地のどこかに犯人は潜んでいるのかもしれない。だが問題はどこに潜んでいるのかわからない。実に面倒くさい、ここがウールリアライナならば――とそこまで考え、私はハッとなった。


 そうだわ、相手のホームグラウンドで付き合ってあげることはない。相手に有利な状況はすなわち私に不利、ならば私の絶対聖域に引きずり込めば。

 王城ならともかく、領民全員の顔を知っている故郷ウールリアライナでは、手の出しようがない。


 良い案を思いついた私はウキウキしながら、今後の計画を考えていると、大勢の人間がここに向かってくる足音が聞こえた。

 慌ててエリンにバレないよう指示を出し、ベッドで寝ているふりをする。


 しかし、扉を開けて入ってきた人間の中に、意外な人物がいた。




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