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第四十三話 ついでだし




 シンジュウサマ?


 エリンはなおも恐縮した様子で頭を下げている。時折ちらっと窺ってきて、目で『メーフィリア様、不敬ですよ!』と、頭下げてください視線を送ってくる。

 神獣様というのは、キュウちゃんのことを指して言っているのだろう。正直なところ、なんのことかさっぱりわからん。


 キュウちゃん、神獣なの?と、視線で問いかけてみると、


「キュウ」


 首を左右に振り、『知らんがな』と返してきた。


 私とキュウちゃんは互いに顔を見合わせ、両方当事者なのに一番状況を理解できていない。

 一連のやり取りを見て、エリンが不思議そうに、おずおずと口を開いて尋ねた。


「あの……メーフィリア様、神獣様ですよ?」

「キュウちゃんのこと?」

「キュウちゃんって……。知らなかったんですか、神獣様のこと?」


 知らなかったも何も、キュウちゃんはキュウちゃんだよ。


「キュウ」


 腕の中のキュウちゃんがこくんと頷き、嬉しそうにスリスリしてくる。くすぐったい。


「すごい……懐いている……もしかしてメーフィリア様、神獣様と意思疎通できているのでしょうか?」


 子供の頃からのお友達だからね。大体はわかる。


「うん」


 って答えると、エリンは口をポカンと開けて、信じられないように目をパチクリさせている。


「あの、本当に神獣様について、ご存じないのでしょうか?」


 神獣という存在は、一応知識として知ってはいるけれど、それがキュウちゃんとはどうしても結びつかないというか。

 だいたい、見たことないからね、その神獣というのは。


 子供用の絵本だとその姿は描かれているが、ウールリアライナは行商人滅多に来ない上に、子供向けの絵本なんて高すぎて、買ってもらえないの。


 私の話を聞いて、エリンは色々と合点が行った表情を浮かべ、ウンウンと頷いている。


「納得です。子供の頃絵本で見た姿と一致していますので、間違いありません」


 驚愕の事実。エリンは普通に絵本を買ってもらえていた。

 そりゃそうだろう、うちのような正真正銘の辺境領地と違い、エリンの故郷は対フィンガルアインの前線領地なので、物資を輸送する商隊も、そこに商機を見出す行商人も多いでしょうね。


 そしてエリンは神獣について説明し始める。その特徴の大半は私が子供の頃聞いていたのと同じ内容だが、異なる部分もあった。


「でも確か、最後に神獣様が目撃された記録は初代国王のときでした」

「へー……って、それ、三百年前だよね?」


 エリンは不思議そうに、自分の記憶を確かめるような顔でキュウちゃんを見つめた。私も驚いて、キュウちゃんに目で『三百歳なの!?』と尋ねた。


「キュウ」


 しかしキュウちゃんは首を左右に振り、『んなわけあるか』とジト目で見てくる。ですよねー。子供の頃からのお友達だもん。


「メーフィリア様、神獣様の寿命は数千年から数万年だと聞いております。おそらくその時の神獣様はキュウ様のお母様かと」

「めっちゃ長生き」

「それより、気になることがあります」


 エリンはキュウちゃんに目を向け、何かを確認している様子。


「初代国王様のときもそうでしたが、神獣様が現れるときは、その人に真実の愛を祝福するときと言われています」


 真実の愛か。へー……ん?んん?……。……え?それって……。

 言葉の意味を理解し、顔が林檎のように赤くなっていた。


 キュウちゃんに目で『そうなの?』って聞くと、首を左右に振り『いや、ただ会いたかっただけだよ。来たのは。真実の愛とかはついでだし』と答えた。


 ……嬉しいような、悲しいような。複雑。

 まあ、真実の愛が発生する度、その人達祝福しに行くとキュウちゃんが過労死しちゃうからね。仕方ない。


 ――でもね、理解はできるけど、許した覚えはないからね。

 ついでとか言っちゃうキュウちゃんは、友情のデコピンの後にモフる刑に決定。有罪。


「キュッ」


 私に全身をモフられて、キュウちゃんはくすぐったそうに身を捩っている。

 そんな仲良しの一人と一匹を見て、エリンが口を開いた。


「メーフィリア様……あの、神獣様と以心伝心のように見えますが……意思疎通も難なくできているように見えます」

「子供の頃からのお友達だしね。だいたい分かるっていうか」


 キュウちゃんは意外と賢い。言葉わかる上に表情も豊か。正直神獣とか言われてもピンとこないというか、キュウちゃんはキュウちゃんだし。


「あ、そうだ。エリン、このことは皆には黙っておいてね」


 キュウちゃんがここにいることがバレたら、大騒ぎになるだろう。特に神獣と判明した今、尚更バレるわけには行かない。


「はい、でもいいのでしょうか?」

「キュウちゃんも、ただ私に会いに来ただけだしね」

「キュ」

「それなら……はい、わかりました。言いません、絶対に」


 エリンで良かった。バレたのが。


 キュウちゃんをモフり続けていると、ふとエリンが一緒にモフりたそうにしていることに気付き、キュウちゃんを彼女に差し出し――


「一緒にモフる?」

「え?あ、いえッ、あの、恐れ多いです……というか今、私声に出しました?」


 何故か不思議そうに逆に質問された。首を左右に振って否定すると、彼女はますます不思議そうな表情で、


「これは、まさか……」


 エリンは何かを思案するような表情を浮かべ、まじまじと私の顔を見つめてくる。


「メーフィリア様、今、私の感情を読み取りました?」

「へ?なんのこと?」

「私が神獣様を……モ、モフりたいなぁなんて思っていることを、読み取りました?」

「読み取ったっていうか、なんかエリンは一緒にモフりたそうにしているなって感じた」


 そう答えると、エリンは私とキュウちゃんを見ながら、


「もしかして、メーフィリア様は聖女、でしょうか」


 と、訳のわからんことを言ってきた。


「聖女?」

「えぇ、古くからの伝承ですよ。神獣様に認められた神獣の使いが、聖女と呼ばれています」

「へー、でも私は関係ないでしょう?」


 私が首を傾げている様子を見て、エリンは得意げに笑いながら、


「神獣様に認められた聖女様は、他人の言葉の真偽と、感情が読めるようになります」


 と、よくわからないことを言った。


「他人の言葉の真偽と、感情?」

「えぇ、特殊な力とでも言いましょうか。他人は本当のことを言っているのか、嘘をついているのかがわかります。感情もわかるようになります」

「いやいやぁ、まさか」


 流石に冗談だろうと思って、軽く笑い飛ばそうとしたが、エリンの表情は真剣そのものだ。


 同時に、直感で彼女は本当のことを言っていると分かった。それは理屈ではなく、観察眼でもなく、ごく自然に理解した。


「え、嘘……」


 今までなかった感覚に戸惑いを覚え、困惑する。逆にエリンは確信した表情に変わり、


「やはりメーフィリア様は神獣の使い――聖女ですね」




真実の愛がついでだと言われて神獣を容赦なくモフる女。

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