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第三十四話 第一印象は大事




 応接室内の中央に大きなテーブルがあり、王国側の貴族とモンクルック大陸側の行商人が椅子から立ち上がっている。


 王子と私が着席すると、皆も一斉に腰を下ろした。


 私達を除く応接室内の皆、表面上普通に見えたが、浮足立っているように感じる。

 それは当然錯覚ではなく――ルークは私に小声でヒソヒソと、


「良いぞ、強烈な先制攻撃が効いたな」


 謎の覆面女性がこの場に現れたことを得意げに言う。

 もちろん室内は私以外にも若い女性は複数人いて、女性がこの場にいるのは別段珍しいことではない。

 現に大陸側行商人たちの傍にも、複数の若い女性が付き添うように座っている。そのことを指しているのだろう。

 ただし、誤解のないように言っておくが、覆面している人は一人もいない。


 相手側はザワザワと、予想外の出来事に驚きを隠せずにいた。


 そりゃそうだろうね。

 こんな正式な場所で、

 大事な商談に、

 覆面女性が登場する、

 そして王子様がその女性を連れている。

 きっと印象に残り、強烈な一撃となること間違い無し。一瞬で場の主導権を奪い取った。


 ルークは私だけが見えるように、親指を立て、サムズ・アップした。

 いや、なんのサインだってば。


 と言うか今気付いたんだけど、王国側に宰相が出席している。

 主要貴族たちが来ているということは、もちろん宰相も出席するよね。

 さっきから私をジーと見つめてきている。あの視線の感じ、すでにバレているのでしょう。本当に大丈夫?ルーク。


「……コホン。陛下、会議を始める前に、その方を紹介しては如何でしょうか」


 宰相は、室内の全員に聞こえる音量でルークに私の紹介を促した。

 入室してから、皆は私に好奇の目を向けてきている、そのことへの配慮でしょうね。


「そうだな。良い、ヘンリック。彼女はメーフィリア・ウールリアライナ、次期王妃であり、俺の婚約相手である」


 王子陛下の発言に、皆は様々な反応を見せる。

 聞こえてはいないが、『チィッ』と舌打ちした宰相。

 貴族たちは、動じなかった人と、ざわつく両方に分かれた。

 そして商談の相手、大陸の行商人たちは困惑し、不可解な表情を浮かべる。


 これ、私が出席して良い会議ではないでしょう。

 肘で彼の脇腹を突っつくと、得意げな笑顔を向けてきた。だめだこりゃ。


 彼の話が終わり、まだざわつく場に今度は大陸側の行商人――代表なのだろうか、一人の若い青年が立ち上がり、ルークに頭を下げ、挨拶をした。


「ロンレル王国次期国王、ルークレオラ・ロンレル王子陛下、……」


 長い言葉を並べて、青年は敬意を払い、挨拶をする。

 ルークも慣れた顔で青年の言葉を聞いている。


「私、ディランと申します。以後お見知りおきを」


 挨拶を終え、ディランが微笑みを浮かべた。ルークが頷いたのを見てから、椅子に座る。

 素直にすごいと思った。あんな長い挨拶、私にはできない。

 社交辞令はどうしても苦手で、堅苦しいと言うか。


 整理すると、次期国王即位が決まり、おめでとうございます。この度――(中略)――私はディランです。よろしくお願いします。


 ルークもスラスラと社交辞令を返し、言葉を並べていく。

 こういうとこを見ると、なんだかんだで王子だなと思ってしまう。


「しかし、さすがはモンクルック大陸の行商人だ。即位のこと知っていたか」


 同じく挨拶を終え、ルークは爽やかな笑みでディランと大陸の行商人たちを褒めた。


 即位。

 ロンレル王国は基本的に他の国と似たような制度だが、異なる制度もある。

 その中の一つは、在任中即位。


 私は宰相に叩き込まれた知識を思い出す。

 王国では生存中の現国王が退位する場合、まずは次期国王を決め引き継ぎ、その期間中は在任中即位と呼ばれる。


 選ばれた次期国王の尊称は殿下から陛下に変わり、次期国王の証となる。

 国民と貴族に慣れさせるという意図も含まれており、数代前から制定されている。

 当然まだ即位していない間、正式の場では前にちゃんと王子と呼ばなきゃいけない。現国王と区別するためである。

 不服の王族がいる場合、現国王は在任中即位の次期国王の肩を持つのが通例。



「恐縮です」


 行商団の代表、ディランは敬々しく頭を下げる。

 その間、王国側の貴族とモンクルック大陸側の商人はお互い挨拶を済まし、此処でようやく本題に入る。


「さて、ディラン、此度の来訪についてだが…」


 ルーク王子陛下の言葉に、ディランは集中する。


「そなた達に提案したいことがある。回りくどいことは好かん。単刀直入に言わせてもらう。王国の港停泊税を三割軽減する、その代わり、モンクルック商団のそなた達に売りたいものがある」


 王子の言葉に、王国側一部の貴族たちがざわつき出した。

 宰相がまた不機嫌そうな表情になった。

 対してモンクルック大陸の人たちも、ざわついている。


「……どのようなものでしょうか」


 ディランは顔色を変えずに、ただ静かに、穏やかな表情で尋ねた。


「そうだな……」


 此処で、ルークは横にいる私を見て、ニヤリと笑う。


「――メーフィ、売りたいものは?」


 はい?

 何故かバトンタッチされた。




第一印象(謎の覆面女性)

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