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第三十三話 仲良くなると素が出てしまうんです




 蝋燭の弱々しい光は闇に食われ、夜の中に消えていく。薄暗い政務室の中に、静寂を破るのは本をめくる音と、たまに羽毛筆の走る音。


 私は最近の報告に一通り目を通してから、休憩している。仲良くなって以来、暇なときは彼の政務室の本を読み漁り、たまに彼が働きすぎないように、政務の手伝いもしている。


 目を閉じ、さっき見た報告の内容を頭の中で反芻する。

 ……やはり、おかしい。

 ウールリアライナ領特産――林檎の価格が異常に高くなっている。


 キッチンで働いている皆さんも、そのことで困っていた。まとめられてきた報告書を見ると、値段はある日を境に急激に上がり始めた。奇しくも、それは私に関する噂が流れ始めた時期と近い。

 それに林檎だけではなく、値段が急上昇している商品は他にもあり、いずれも故郷と故郷に近い領地のものだった。


 ……流石に考えすぎと思うが。


 王城で働いている皆さんが買えないものは、当然一般人も買えるはずがなく、供給は絶えずにあるけれど、需要が止まっている状態。

 それの影響もあり、彼がよくこの部屋に置いてくれている好物の林檎は、他のものに変わっている。聞くと、今までのはなんと全部自腹で購入しているとのこと。国の金に手は出したくないと、苦笑しながらルークは言っていた。私もそのほうがいいわ。領民のお金は領民のために使うべき、無駄遣いできません。


 しかし、この値段がいきなり高騰している原因は何なんだろうね。

 前後の状況を見比べても、さっぱり分からない。まるで、ある日を境に、何かしらの力によって捻じ曲げられたようにしか見えない。


 物の価格なんてそうそう簡単に変わらない。いきなり跳ね上がると誰も買わなくなるし、理由もなく値段が上がると、民からの反感も大きい。

 モノ――この場合は故郷の林檎だが、それを収穫し、行商人に売っている農家たちも困るはず。

 領民の手伝いでそれを知っているし、ウールリアライナに来た行商人と何度も取引したことがある私からすると、本当に訳の分からない値段上昇。


「……ふう」


 ルークが大きく息を吐いた。タイミング見計らってカップに紅茶を注ぎ、休憩中の彼に差し出す。


「ありがとう。……あと二日、だな」


 どうも大陸の商船は今日で北の港に着くらしく、南下しながら二日後は此処に――王都に到達する予定。


「原因については……?」


 特定の商品について価格が上昇している原因は二人で調べている。

 尋ねると、ルークは首を左右に振り、


「駄目だ、産地の問題じゃなさそう。どこかに大量に買われてる様子もない。不作もない……ラルアが怪しいけど、単刀直入で聞いても答えてくれないだろう」


 ルークが語ってくれたラルアの人物像は、確かにとても老獪で、ずる賢いだろうね。


「……しかしメーフィは優秀だな」


 へ?

 考え込んでいると、ルークに不意打ちされた。


「優秀?」

「ああ、普通の貴族令嬢は、商売には疎いものだが」


 辺境ですから!

 戦わなければ生き残れませんよ。

 お茶会するだけで生きていける貴族様とはわけが違うのです!


「……コホン、褒め言葉として受け取らせてもらいますわ」


 照れを隠すように、わざと咳払いをして、平静を装いながら言ったが――


「ああ、その調子で当日も俺の秘書を頼む」


 ――はい?





 シット。何ということでしょう。

 どうやら優秀すぎてルークに気に入られたっぽい。俺の右腕を頼めるかって聞かれたわ。

 ルーク大丈夫?私が貴族たちの間でどう呼ばれているのか、知らないわけではないでしょう。


「ベールでなんとかなるだろう」


 オーマイガー。大事な商談に覆面美女が出席。きっとミステリアスだ、ナイスアイデアね、ルーク。


「大丈夫大丈夫、いざとなったら俺がフォローするから」


 それは本末転倒でございませんか陛下。まるで主役が私みたいな言い方はやめてほしいのですわ、私は秘書です。


「引き受けてくれるんだね」

「不本意ながら。陛下がどうしてもと仰るのであれば、お供しましょう」


 ムスッと不機嫌な表情を見せる。しかしそれを見た彼は――


「いいぞ。いつまでも固い態度のままだと、流石に俺も不安……あ、いや、なんでもない」


 ……仲のいい友達……になりましたから、ね……。





 そして、商談当日――。

 ロンレル王国の主要貴族たちは王城に集まり、朝からてんやわんやの忙しさを見せる。


「胃が痛い」


 お腹を抱えてアンニュイな気分。その呟きを聞いたエリンは、私の髪を梳いていながら、


「駄目ですよ、メーフィリア様。すごいではありませんか、陛下の補佐なんて。堂々と胸を張ってください。私、応援していますから」


 ……はい、頑張ります。





 次期王妃の品格に相応しいドレスを身に纏いながら、エリンと一緒に応接室に向かう。

 その応接室の前に、正装をしていたルークが待ってくれていた。


「……恨むわよ、ルーク」

「それは心強い。さあ行こうか」


 軽く彼を睨んだが、逆に愉快そうに笑いながら微笑んできた。私はため息を付き、大人しく彼についていく。

 座っている人たちは入室してきた私とルークに気がつくと、全員立ち上がって一礼する。

 が、ルークの後ろにいる私を、ほぼ全員が二度見していた。


 ドーモ、謎の覆面美女デース。




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