第三十話 密会
「本日はどういったご用件でしょうか、キアロ様」
「ラルア・ガルクトルク。呼びつけたのは他でもありませんわ、少しお願いがありましてよ」
「お願い……ですか?私めができる範囲であれば、キアロ公爵の令嬢ヘリミティア様に全力でお応えいたしましょう」
豪華絢爛に飾られた室内には二人の若い女性と一人の中年男性がいる。
二人の若い女性はヘリミティア・キアロとエレンシュア・ガルクカム。中年の男性はラルア・ガルクトルクである。
場所はガルクカム候爵邸。
ロンレル王国の有名人とも言える三人が、この一室に集まった理由は他でもない――先日、ヘリミティアとエレンシュア、公爵令嬢と候爵令嬢が手を結ぶと決めたのである。
ヘリミティアの予想とは裏腹に、エレンシュアの反発はなく、すんなり同盟の話受け入れてくれた。
聞けば同様に王子様がどこの小娘に掻っ攫われた状況には、とても受け入れられ難く、策を考えているところをヘリミティアが訪ねてきた。
敵の敵は味方、ということですね。
あの辺境の小娘さえ排除できれば、奇しくも二人は王子様がきっと自分を選んでくれるに違いないと考えている。ある意味似た者同士である。
「ラルア商会は王国唯一の商会だそうですわね。……」
そこで一旦言葉を止め、ヘリミティアはちらっと目の前の中年男を睨む。自分に頭を下げ、一言一句を聞き逃すまいと、媚びへつらうラルア・ガルクトルクの態度が実に大変気に入っている。
自分が主導権を握っていると言う事実に上機嫌になり、話を再開する。
「そこで、頼みがありますわ。あの辺境の……どこでしたっけ。……確か、ウールなんやら」
ヘリミティアはエレンシュアを見るが、彼女も知らないようで、首を左右に振っている。
「辺境のウールリアライナ、でしょうか?」
「あ、そう、それですわ。そこの商品を……」
地名が出てこない二人に、ラルアが助け舟を出した。そこは流石に王国の大商人、気遣いができる上に機転も利く。
ヘリミティアは流暢に自分たちの計画を語る。
公爵令嬢と候爵令嬢の話を聞いたラルアは、表情には出さずにだが、心の中で渋い顔になっていた。
(噂を流しておけと言うのは、問題ないのだが、商品の値段を上げろと言うのは流石にこちらの事情を全く考慮しないですな……)
貴族の親戚を持ち、半分貴族のラルア・ガルクトルクだが、どちらかと言えば彼は商人としての側面が強い。
要するに、適切な距離を保ちつつ、自分の商売を優先するタイプなのだ。
だから彼は――自分の計画を語り終え、陶酔していた令嬢の二人に相槌を打ちながら、心の中で別のことを考えていた。
ヘリミティアとエレンシュアの二人は、自分にウールリアライナに関する悪い噂を流し、あの領地の商品価格を極端に上げろと言ってきた。
嫌がらせのつもりだろう。
確かに悪い噂に惑わされれば、王子様が婚約を破棄することもあるかもしれないが、第一王子と会ったことがある自分には、そんなことはしない人と思う。あの王子様は、かなりのやり手である。
それに――そんなこちらの利益を一切考慮しないやり方で、自分も言いなりになる気はない。大船には乗りたいが、この二人の船はあまりにも危ない。
ラルアは言われたことをうまくやりながら、自分の利益と保身のことを考えていた。




