表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/65

第二十六話 公爵令嬢ヘリミティア




 ヘリミティアは大変不機嫌であった。

 前線へと赴いた第一王子がやっと帰ってきたかと思いきや、今度は各地へと視察に出る。

 一番早く彼に持ちかけた自分の婚約は明確な返事がないまま。


 一体ワタクシを誰だと思っていますの?

 王族を除いて、ロンレル王国の貴族の中で、一番権力を持っているキアロ公爵の令嬢、ヘリミティア・キアロですわよ。

 そのワタクシを差し置いて、他の娘を選ぶなんてあり得ませんわ。

 何故返事をくれないですの?理解に苦しみますわ。

 貴族の歴史、家柄、権力、全てにおいて、ワタクシこそが次期王妃に相応しいですの。


 ガルクカム候爵のところのエレンシュアも狙っているようですが、あの娘には無理ですわ。身の程知らずですね。


 返事が遅れているのは、陛下が照れているに違いありませんわ。ワタクシのような可憐で、天使の美貌を持つ女性は、数多の有象無象とは違いますもの。

 そう、視察が終わったら彼は、きっと最初にワタクシのところに訪ねてくる。そしてこう言います。


『ヘリミティア、俺が間違っていたんだ。世界中を探しても、あなたより優れた女性なんてどこにもいない。そのことに気付けていなかった愚かな俺を許してくれ』


 泣き叫びながら、自分の過ちを反省し告白、縋りついてくるに違いありませんわ。

 だから、何も心配することありませんわ。常に優雅。常に凌駕。常に超越。それがワタクシ、ヘリミティア・キアロ、貴族の中の貴族。





 ――耳を疑いましたわ。

 王子様が婚約相手を発表した。


 王国の宰相からそう聞かされた時。

 あり得ません。何かの間違いです。だって婚約相手はワタクシに決まっています。次期王妃は此処にいます。


「残念ながら、ヘリミティア様。事実です」


 中年の男――ああ、一応この方、王国の宰相でしたっけ?が申し訳無さそうに頭を下げてきた。

 ちっとも申し訳なく感じてないくせに。キアロ家より下な分際で。


「聞き間違いでしょうか?王子様の婚約相手の名前は、ヘリミティアキアロ…」

「いえ、間違いありません。それに名前と仰られても、私めもよく分かりませぬな。なにせ、どこの馬の骨とも知らぬ小娘で……」


 宰相は大げさにため息を付きながら、苦笑いを浮かべた。が、ワタクシを小馬鹿にしているのが見え見えです。許しませんわ。次期王妃になった暁には、処刑しますわ。覚えておきなさい。

 まあ、今はコイツなんてどうでもいい。王国の宰相と言えど、所詮はキアロ家より下の貴族、取るに足らない。

 それよりどこのどいつが分からないなんてあり得ませんわ。陛下の婚約相手です、さてエレンシュア、今頃ワタクシを出し抜いたとでも思っているのでしょう。見てなさい、ワタクシが陛下に近付けば、あなたのことなんてすぐ見向きもされませんわ。





 だが現実はワタクシの想像を、遥かに超えている。


 メーフィリア・ウールリアライナ…?

 最初は、聞いたことのない名前ですわ。と言う反応だった。


 訪ねていくと、どうやらあの豚の餌場みたいな領地の領主令嬢。

 一体、何が起きている?

 そんなはずは、あり得ません……


 聞いたこともない領地。聞いたこともない貴族。聞いたこともない娘。

 …――が次期王妃!?

 ……何かの、間違いです。

 問い詰めましょう。


 しかし、彼の口から返された答えに、予想と希望を打ち砕かれた。


 ――あの女狐…!

 なるほど、陛下は誑かされていますわ。体を重ねるなんて、さすが辺境の下賤な貴族が考えそうな手。下賤故に取れる手段。これは予想外の結果だったわ。

 汚い手を使いやがって……!


 同じ手を使うのは、プライドが許さない。

 何か、いい方法はありませんか……?





 気分転換に久しぶりに馬車を走らせ、王都の街を眺める。

 相手は下賤な女狐ですわ。一筋縄には行きません。プライドが許さないが、エレンシュアと手を組むのも選択肢に入れるべきでしょうか……?


 窓から平民の様子を眺めているその時だった。――見覚えのある姿が目に飛び込んできた。…ルークレオラ陛下……?

 その懐に、一人の少女が抱きしめられていた。

 人混みの中で、二人は見つめ合っている。


 ……――――。


「アクシャ」

「はい、何でしょうかお嬢様」

「ガルクカム候爵邸へ走らせなさい」

「……かしこまりました」


 …ヘリミティア・キアロの眼には、ドス黒い炎が灯されていた。

 とことん汚い手を使ってくるあの女狐に、こちらも相応の対応をしましょう。次期王妃は誰なのかを、教えて差し上げますわ。




ある意味ぶっ飛んでる子なのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ