第二十話 助っ人は助けてくれない
翌朝、鏡の前で、椅子に座りながらエリンに髪を梳いてもらい、今日のお出かけについて脳裏で再確認する。
と言うか、自分でやろうとしたんだけど、
「それでは侍女失格です。メーフィリア様、是非やらせてください」
と、エリンはウキウキした様子で主張する。勢いに押され、承諾してしまった。
「メーフィリア様の髪の毛、柔らかいですね」
優しい手付きで髪を櫛に通し、梳いていくエリン。
そうかな、自分ではよく分からない。
「お二人がお出かけの日です。陛下にこの綺麗な髪の毛を見せたら、きっと喜ばれるでしょう」
――アイツ髪フェチだったの!?
「…エリンも一緒に来てくれないかな。お願い」
単純に、これは巷で言う…アレだろう。そういうの、経験したことがないのよね……。男の人と二人きりなんて、気まずい雰囲気にならないためにも此処はエリンを助っ人として登場してもらいたい。
だがそんな淡い期待はあっさりと打ち砕かれてしまう。エリンは――、
「駄目ですよ。メーフィリア様。お邪魔虫なんてできません」
ですよねー。仕方ない。
窓から差し込む太陽の光に照らされ、部屋内はかすかな熱を帯び始めた。朝の小鳥たちのさえずりに混じり、エリンが私の髪を梳きながらやたら楽しげに口ずさむ鼻歌がリズムを奏でる。
約束の時刻になり、王宮の裏にある厩舎。
エリンと一緒に来てみると、すでに此処で待っていたルークレオラ王子様――平民の服に着替え、全身を地味な灰色に染めている――がにこやかに笑い、笑顔で出迎えてくれた。
…陛下、変装とは感心しませんね。人のこと言えないけど。
「仕方ないだろ。王子だとバレたら大変なことになる。お忍びの視察の時、変装は常識」
共感してしまった。悔しい。
かくいう私も、王子妃だということが理由で、止む無く変装済みである。
「お二人、お似合いですね」
隣で見ているエリンがくすりと笑いを漏らし、感想を言った。
オニアイ…?どこが?
「しかしお前の変装も中々様になってるな」
ルークレオラ王子様がしげしげと私の服を観察しながら感想を述べる。――えっへっへ、でしょう。これでも年季が入ってて、変装と脱走に命をかけているんだ……って、違う。
王子様なのに、良いのかって、昨日中庭で誘われたときに彼に聞いてみたが、
「視察やお忍びのときはよくあることだ」
と返され、政務ほっぽり出して問題ない?って尋ねると、
「宰相に押し付けた」
って爽やかに笑いながら答えた。常習犯ですか、陛下。
「じゃあ後は頼んだ」
「はい。任されました」
ルークレオラ王子はエリンにそう言い、出口へ向かって歩いていく。観念した私も、軽くエリンに手を振り、彼の後ろについていく。
長くなりそうなので、上、中、下に分けます。