第二話 出会いは突然
時刻は太陽が沈んでからロウソク一本分経った頃。ウールリアライナ家の宴会場。
華やかに設営された宴会場は賑わっていた。
艶やかなドレスに身を包んだ貴族のお嬢様たちや、高級スーツを着こなしている貴族の子息たち、王国の重鎮や名の知れ渡る要人。そんな普段ではとても縁がない人達がこの場に集っていた。
もぐもぐ。
「お嬢様……そのような格好は」
「ああ、いいのいいの。……美味しい」
侍女の格好をし、遠巻きに宴会の様子を眺める。
木を隠すならば森の中。誰も私がウールリアライナの長女などとわかるまい。ふふふ。
勿論、ウールリアライナ家の使用人たちにはひと目でバレるわけだが、さすが長年ウールリアライナ家に勤めるだけ有って、皆は慣れた様子で対応してくれた。
しかし当たり前のことだけど、誰ひとり知らないわね。
まあ、権力闘争や政略婚約などと一切縁のないウールリアライナ家だからね、宴会は盛り上がっているけど、私は蚊帳の外。
横目で会場の様子を窺う。
貴族たちはどうやら色んな派閥が有って、所属する派閥か、交流が有る派閥でグループを作って固まっている。
中でも若い男性に複数の若い女性が一斉に話しかけている所を見かけたりする、やはりと言うべきか、王国の要人が集まる場所には、婚約の話を持ちかけている人が多い。
給仕をしていると、突如会場がざわめき出した。――何だ?
つられて視線を向ける。
入口の方に、一人の若い男性が会場に集まる貴族達の視線を一身に浴びて、優雅に歩を進める。――誰?
「ルークレオラ王子様だ、噂は本当だった」
「ああ、婚約者選びね、道理でこんな田舎領地で宴会が開かれているわけ、納得した」
……なるほど、この男があのルークレオラ王子か。名前は知っていたが、実物は一度も見たことがないあのルークレオラ王子。
この男が元凶ということね。ウールリアライナ領が宴会の会場になっているのは。
貴族たちの話に耳を傾けていると、どうやら、もともと王都で開催される予定の宴会を、各地の視察に出ている王子のために、スケジュールを急遽変更したとのことだそうだ。マジ迷惑。
まあ、私には関係のない話だ。彼がどの貴族の娘を娶ろうか、知ったことではない。
「――はああ、つっかれた…」
自分の部屋、ふかふかのベッドに身を投げだして、純白シーツの海に泥のように沈む。
その後も真面目に給仕をし、来賓を歓待した。幸い、宴会は無事に終わり、重荷が降りた。今ではほとんどの貴族たちはウールリアライナ家が提供した来賓用の屋敷で休んでいるはずだ。
寝よう。今日めちゃ働いたわ。一生分働いたかもしれない。
おやすみー………
……
…
――チュン、チュンチュン。
……ん、…朝?
窓の外から小鳥たちの囀りが聞こえ、まだ開けてない目に眩しい光が瞼をすり抜けて意識を揺り起こす。
朝ののどかな空気に包まれながら、シーツの中でもぞもぞする。
――あと五分……。寝返りを打ち、安眠を貪ろうとする。
と、夢見心地の脳が一気に覚醒する。
――感触が違う。あれ、私、寝る前は……服を、着ていた、よね?
ベッドから上半身を起こし、恐る恐る体に目を向ける。
……無い。無い。無い。何処にも、無い。服が。――裸!?
「………ん、ん?……」
その時だった。
隣に、聞き慣れない誰かの声が聞こえた。
まるで久しくオイル入れられてない機械仕掛け人形のように、頭をギギギとそちらに向けるけと。
――知らない男が、私と同じく全裸で寝ていた。誰ですか、あんた。
その男は薄っすらと目を開け、真っ青な表情の私に視線を向けては――
「――あんた、誰」
――それはこちらのセリフですよ、変態。