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第十話 王都散策(脱走中)



 喧騒な雑踏、理路整然な町並みに、活気溢れる市場。

 王国の首都なだけあって、人波は途切れること流れている。


 往来にいる私はさながら荒波に揉まれる船のように、右へ左へと揺蕩う。

 よ、予想はしていたが此処まで人が多いとは……、ウールリアライナ領の全領民を合わせても遥か遠く及ばないのでは?


 人の多さに若干酔ったけれど、見たことのないものに目を奪われ、すぐに好奇心が勝り、興味の赴くまま市場を散策していると、声を掛けられ、


「らっしゃい。一個どうだい?お嬢ちゃん、辺境の名産、林檎だよ。今が旬で安いぜ」


 辺境って…どう見てもウールリアライナ領だが。名前すら覚えてもらえないことに、思わず涙ぐむ。はい、うちはドマイナー領地ですみませんでした……。しかし領地の林檎か。

 いくらかと尋ねると、なんとウールリアライナ領の十倍の価格になっている。

 ――ボッタクリですか。


「お嬢ちゃん、冗談言っちゃいけねぇぜ。これでも安いほうだ」


 驚愕の事実。これで安いとなると、普通は一体どれくらい高いのか想像もつかない。ショックしすぎて思わず林檎を落としてしまいそうになる。

 買えるには買えるが、そっと元の場所に戻しておいた。なんだかこの林檎を食べると良心が痛む。領地の皆があんなに苦労して収穫したものが、此処でこんなに高く売られている。


 店主にペコリと頭を下げ、店から離れた。




 首都の主要道路からやや離れた、見晴らしのいい場所に設置されていた木製の長椅子に腰を下ろす。

 さすが王国の首都といったところかな。見たことのないものや食べ物に夢中になり、気がついたら結構時間経っていた。

 いろいろな店を回っていたので、相場については大体把握した。


 まず食べ物系だけど、これは総じて高い。自領と王都に来るまで途中で立ち寄った領地のものと比べると、安くても二倍くらいはある。中でも特に高く、印象に残ったのは西の領地の名産。品薄らしい。

 おかげで食べ物はパン以外は殆ど買わなかった。


 その代わり、裁縫や刺繍用の道具と布はバッチリ。

 今着ているこの変装用の服でも誤魔化せるけれど、毎回だと流石にボロが出て疑われるだろう。バレないために新しい服を作ろうと思う。

 それと、王都の高物価だと、欲しい物があっても手が出せないようじゃ、ひもじい思いをするだけだ。


 だから服を自作して、売ろう。


 これでも、ウールリアライナ領では欲しい物を買うとき、金は殆ど自分で稼いできたんだからね。

 付いたあだ名が、バイトの領主令嬢。

 日雇い、臨時、もの探し、伝言、代書、人探し、ペット探し、子供の面倒をみる、仕事ならば一通りやったな。


 中でも私が一番やってて楽しいのは、裁縫。


 新しいものを生み出すってのはワクワクするし、作った服を誰かが着て笑顔になるのは嬉しい。

 楽しいからついつい熱が入り、結果完成度がどんどん高くなっていく。

 気付いたら領内でも職人の中で屈指のレベルになっていた。ごめん、悪気はないんだ。


 一時期は、完成度が高すぎる上に安いから、領民の皆は買うのが申し訳無く感じる人が続出していた。


 しかしこのような場面で役に立つとはな。人生、何が起こるかわからないものね。





 遠くから王宮の様子を窺う。

 バカ正直に正面突破はしない、いくら変装しているとは言え、頻繁に出入りすれば、疑問に思う衛兵もきっといるだろう。顔を覚えられたらおしまい。きっと二度とあの鳥かごから出られないし出してもらえないだろう。地下室に幽閉されてしまうに違いないわ、ああ、恐ろしい。


 正門は、案の定衛兵がいる。

 もとより此処を通過するつもりなんてない。私はさっと踵を返し、城から脱出したとき使ったとある場所に向かった。

 油断も慢心もしない。無事に帰るまでが脱走です。




帰るまでが脱走です。

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