前夜
———ゆかり視点———
2人で手を繋ぎながら、ピアノ教室についた。
中に入ると、外の騒音とは隔離される。
これでゆうくんも楽になるかな?
と見てみると、すごくほっとしたような表情をしているゆうくんがいた。
「楽になった?」
「うん。ここ、すごく綺麗な場所だね。」
ピアノ教室は、左右にたくさんの部屋が並んでいて、その中にグランドピアノやアップライトピアノが1台ずつ入っている。
確かに綺麗ば場所だけど、ゆうくんの言っている”綺麗”は、たぶん、漏れ聴こえてくるピアノの音のことを行っているんだろうな。
たくさんあるピアノ部屋から、それぞれ少しずつ、ピアノの音が漏れている。
防音室といっても、完璧に防音されるとこばかりじゃないからね。
「ピアノの音は、混じっても灰色にならないの?」
「ならないみたい。びっくりしてる。」
さて、これからどうしようかな…と思っていると
「ゆかり!ゆうくん!一緒に来たのね。いらっしゃい。」
あやの先生が部屋から出てきた。
レッスン途中の休憩かな?
「あと30分くらいで今のレッスンが終わるから、そこの椅子にでも座ってちょっと待っててね。ゆかり、あなたはちょっと来なさい」
「? わかった。」
ゆうくんを壁際の椅子に座らせて、あやの先生と話す。
「あなた、ゆうくんの目が真っ赤じゃない!泣くほど嫌がったのに連れてきたの!?」
「違う違う!いろいろあったんだって!道路と電車が辛いとか、ナンパされたりとか!私のせいじゃない!」
「安心した…、美少年を無理やり連れ去って、いかがわしいことをしているのかと冷や冷やしたわよ。」
「いかがわしいことは…たぶん、大丈夫…」
ちょっと目を逸らしながら言う。
電車でずっと抱きしめてたのはセーフだよね…?ベンチで抱きついてたのもゆうくんからだもんね…セーフだよね…?
「え、ちょっと。気をつけてよ?流石に小学生との恋愛は応援できないからね?」
「わかってるよ。そんなんじゃないって。」
そうなんだよね。
いや、恋愛感情とかじゃないけども!
「て、ゆうくんいなくなってる!」
「あ、ホントだ!教室の外には出てないと思う!探そう!」
私と先生がバカな話をしている間に、
ゆうくんは、今後の人生を大きく変える出会いを果たしていた。
“世界を塗り替える音”と称されるまでに成長するゆう、その生涯にわたる友であり、良き理解者であり、音楽を愛する仲間であり、そして何より終生のライバルとなる少女との、出会いである。