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出会い

音には色がついている。


これを言って信じてもらえるだろうか。


最初の頃は、みんな見えるものだと思っていた。

この、灰色の音の雲で覆われた世界で、みんな生きているんだと思っていた。


ある時気がついた。みんなは色が見えないらしい。

そしてそう、気がつくのが遅すぎたんだ。


「気持ち悪い。」

「なに言ってるの?」

「嘘ついて女子の気をひきたいんだ?」


ただでさえ、学校は音が多くて辛い場所。

そんな中で、イジメられ、すぐに僕は学校へ行けなくなった。


『音に色が見える』

両親は、これが音楽の才能だと勘違いしたらしい。

ピアノを買い与えてくれた。


だけど、ピアノのレッスンは、ひと月も続かなかった。

優しげな先生の弾くピアノから飛び出した、硬く鋭い音たちは、僕の目に痛く突き刺さる。

「痛い!!やめて!!」

先生は顔を真っ赤にして怒っていた。

もうレッスンには来ないでくれと伝えられた。


それ以来、暗い部屋に引きこもっていた。

やることは、たまに、ピアノの鍵盤をそっと押してみることだけ。

薄暗い部屋に、赤や緑、オレンジ、青、色とりどりの淡く弱い光を散らして遊ぶ。

それに飽きたらベッドに潜り込んで眠るだけ。


薄暗い部屋で、ただ1つか2つの鍵盤をひたすら押す姿はよっぽど異様だったのだろう。

両親は、部屋に来ることも、話しかけることもなくなった。




ある日、僕の人生が大きく変わった日、

ピアノの椅子に座り、鍵盤を押して遊んでいると、不意に部屋の扉が開いた。


「初めまして、ゆかりって言います。君がゆうとくんだよね?」

少し硬いが明るい色をチカチカさせながら、女の人が扉の外から話しかけてきた。


「入ってもいい?」

と言いながら、勝手に部屋に入ってきた。


僕はすぐ、ベッドの上に逃げて、布団を被る。


「おーい、出てきなよー」

さっきの硬さは取れて、やけに楽しげだ。


「まぁ、いいか」

そう言いながら、ゆかりさんはピアノの椅子に座る。


「あ、待っ…」


止める間もなく、ピアノを弾きだす。


部屋が、色とりどりの光で、虹で満ちていた。

優しい赤、深い青、薄い緑に、温かい黄色。混じり合って紫にもなれば、時々白がハッとするような輝きを放つ。

ベッドとピアノでいっぱいになる小さな部屋が、色と光で満ちている。

光の海に、色の雲に、僕はただ漂うようにして呆然と座っていた。


いつも間にか演奏は終わっていて、ゆかりさんは笑顔でこっちを向いていた。

ピアノを弾いていたのは、3分か5分か、とにかく長い時間ではなかったんだと思う。

だけど、この数分間で、僕の人生は確かに変わった。


「もう一回。」

「いいよ?」


僕はその日を生涯忘れない。

それは、美しい音楽というものに、初めて出会った日だったんだ。

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