7 胸騒ぎ
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畑に向かう道…イリーナが心配そうに私を支えてくれている。
馬車なんて使わない。と言うか、使えない。
領外に行く時くらいしか、使わないので何年も倉庫から出してないらしい。
馬は1頭いるが、屋敷の使用人が仕事の合間に普通にお世話している。
専門の馬丁なんて雇う余裕はない。
馬は毎日適度に運動させないとキレちゃうから、それはお父様が村の中を走らせている。
まあ、ウチの馬は8歳くらいだし、暴馬じゃないからお父様でも大丈夫みたい。
私もその内、馬に乗れるように練習しようかしら。
前世では馬に乗った事があるけど、このひ弱な身体では確実に体力が足りない。
それはそうと、お父様は屋敷にはいなかった。
私が昨日、ぶっ倒れるまで作り続けた種を持って、村の畑に行ったらしい。
はあ…歩くのしんどい。
だけど、今までロクに屋敷外に出てなかったツケが回ってきてるんだろうな。
お母様が病弱だった所為か、お父様は私を屋敷から出さなかった。
お母様が亡くなってからは特に。
…瞬間移動とか使いたい。
はは…こんな状態でそんなの発動したら、完全に魔力欠乏で発動しないか、またぶっ倒れるよ。
完全に宝の持ち腐れね。
やっとの思いで畑にたどり着くと既にお父様から配られた種を蒔いているところだった。
私が来たのを知ると、村人たちが集まってきて、口々にお礼を言われて、少しこそばゆいけど嬉しい。
皆の為にも張り切って、今夜こっそりと成長促進の為に、魔法をかけに来なきゃね。
明日の朝、皆がびっくりして混乱しないように、ちょっとした事をしておこう。
ちょっとした事…それは「なーんちゃって祈願」。
時空魔法はかなりのレアだと思うから、ちょっとだけ神様にお祈りをして、奇跡が起きたのは、神様が願いを叶えてくれたんだと、神様のおかげにしてしまいたい。
…だめ?神様の所為に出来ない?あはは。無理かもねー。
だけど祈る。
『ちゃんと芽が出ますように。』
…すぐに芽が出た…こわっ…。
自分でもびっくりするよ。
まあ、昨日さんざんやっちゃった後だけどね。
こんな、呪文もなしに発動する…ってか、そもそも呪文知らないんだよ。
神様のくれた時空魔法はどんだけチートやねん!って感じ。
もしかして、神様のお詫び補正の力とか付けてくれてあるのかもしれないね。
それから村の全ての畑に芽を出して歩いた。
つ…疲れた。
こりゃ本気で馬とか必要だよ。
それにしても、どこにもお父様がいない。
村人に聞いてみた。
なんと、種を村人達に配った後、共を連れて倒れた私の為に薬草を取りに自ら森に入ったらしい。
自ら薬草採りに行くって領主らしくないんだけど、お父様の領地はこの村とその周辺だけだからね。
しかも、王国の端も端、ど田舎ね。
辺境と言っても過言じゃないけど、隣は他国じゃないし、森の向こうは海が広がっているので、武力は必要なし。
それにしても遅いんじゃない?…心配だ。
目的の疲労回復の薬草は森の浅い場所にあるらしいけれど…やっぱり心配。
まさかとは思うけれど、無理して危ない奥深くまで入って行ってしまってないか。
皆が、代わりに採りに行くからと、お父様を止めたけれど、皆は畑仕事の方を優先する様にと告げて馬で森へ向かってしまったらしい。
戦えない私や侍女のイリーナが行っても助けにもならないかもしれないけれど…なんだろう…胸騒ぎがする。
畑仕事もひと段落ついたので、村人達が護衛代りに案内してくれることになり、私達もお父様を探しに森に向かった。
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