4 種籾が怪しい
お読みいただきありがとうございます
と思ったけど、お母様の形見の品々…なんか売っちゃうのもったいない。
このドレス達も私が大きくなったら着たいんだけど。
期限はまだ5年ある。
今これらを売っても、そんなにお金になると思えない。きっと焼け石に水よね。
我が男爵領は小さいし、農作物が主流。
その農作物が不作で王都に納める税金を借金してる。
もう、備蓄も無くなったと言ってたし、民が飢えてしまう。いや、もう既に飢え始めているだろう。
不作の原因が分からなければ、これから植え直したとしても、駄目だろう。
私は物を売り払うのは一旦保留にして、不作の原因を聞くために父の所へ急いだ。
ふう…息がきれる。
「お父様、原因は分かっているのでしょうか?」
父の話によると、以前から大豊作という様な土地ではなかったが、ここ2、3年程作物があまり育たなくなったらしい。
何故?
「お父様、領内の見回りに行きましょう。何か原因が分かるかもしれませんから。」
うん。実際に畑を見てみない事には、どんな状況か分かんないもの。
***
うーん…。
今は初夏なのに畑に植物らしい植物は無かった。
麦畑にはヒョロっとした芽らしきものが、所々疎らに生えてはいるが。
ぱっと見雑草と間違えそう。
土は…普通の畑ね?特別痩せてるって訳でもない様に見える。
水も近くの川から引けてる。
「お父様、農家の皆から話は聞いたのですか?」
父は金策に掛り切りで、話は聞いていなかったそうな。駄目でしょ。
で、改めて聞いてみると、毎年同じ様に春に植え、秋に収穫していたが、2年前に植えた種が半分程しか芽を出さず、収穫が半減。そして去年は更に半減。今年も植えたがこんな状態なのだそうだ。
…種が怪しいな。種が病気だったとか、腐ってたとか。
前世で家庭菜園くらいはやった事あるけど、農業に詳しかったわけじゃないので、わからないわ。
そして、原因と思われる事が判明した。
種は例のあの商人から仕入れたと。
その前までは、各農家の皆さんがその年に収穫したものの中から種を確保して、次の年に植えるという様に普通にやってきた。
でも、ある年まとめて保管しておいた種籾だけが全て盗まれるという事件が起きた。
犯人は判らなかった。
それまで、そんな事件とは無縁だった長閑な農村だったし、保管小屋の警備もしていなかったので、油断していたのは確かなのだけれど。
それで、仕方なくその商人から種を購入したらしい。
他にまともな商人がいなかったのか。
…何故か、売ってくれなかったらしい。
怪しい。怪しすぎる。お父様、迂闊だよ。
その商人に種の品質が悪いと抗議をしたら、育て方が悪いのだと、相手にしてもらえなかったらしい。
それならば、もう売らないと脅された。
そして、もうこれ以上は金も貸せないと言ってきたという話ね。
こんな寂れた貧乏領を乗っ取って何がしたいんだか全く理解できないけど、阻止しなきゃならない。