33 商業ギルドマスター
お読みいただきありがとうございます。
本日2回目の投稿です。
その二人の新人商人は親子と思われた。
受付の方からの報告によれば、辺境の男爵家の様だ。
プロビオン男爵……全く聞き覚えの無い貴族だ。
私は三男だが、公爵家の一員。貴族情報を網羅しているのは当然だ。
貴族ならば、必ず毎年王都に顔を出している筈なのに、全く聞き覚えが無い。まさか、貴族だと偽っているのか。
…ああ、わかった。納得だ。
何に納得したか?この男爵、なんとも影がうすい。隠蔽スキルでも持っているのか、存在感が無い。顔はまあまあ良いが、印象に残りにくい。
だから、顔を合わせていたとは思うが、覚えていないのだろう。
対象的に、隣にいる彼の娘はまだ子供なのに、とても美しくいきいきとした存在感に溢れている。
挨拶を交わし、素早く人物鑑定を掛けてみる。(私は素材鑑定、物品鑑定、人物鑑定ができる)
この人物鑑定というのは、鑑定の中でもかなりレアなスキルだ。
名前、年齢、職業、過去の職業しか視えないが、この商業ギルドでは必須のスキルだ。
信用の不可欠な職業であるから、商人の肩書きはとても有用である。闇ルートを作り出し、盗品を売り捌き、人身売買に手を染める。そんな犯罪の隠れ蓑にされれば大変な事になる。
そうならない様に、鑑定スキルを持った職員がこのギルドで働いている。
だから、初登録の商人は必ず私が面談、商談の名目で鑑定をする事になっているのだ。
代理を立てたり、傀儡で登録されたりすると、暴くのは難しいのだが…。
っとやはり父親ではなく、この少女、フランデアという10歳の娘が話し始めたな。
…とても子供とは思えない話し方だ。
だが、やはりというか、駆け引きなどは出来ず、素直な少女の様だ。
少し危なっかしくて、庇護欲を掻き立てられる。
商人は利益を求める。
商人は嘘も言わず、本当も言わず。
そして、商人は信用第一。
この少女は誤魔化したかったのだろうが、アイテムポーチ、アイテムバッグと言うものは、あんなに物を入れられないのだよ。
それなのに、出るわ出るわ…塩の壺100個、回復ポーション1000本以上!
私の予測ではあの中、まだまだ色々入っていそうでとても恐ろしい。
そのスキルと思われる類稀な収納能力は、商人にとってはかなりの強みとなる。
悪人に知られれば、間違いなく狙われそうだ。
だが、常に娘を守るよう待機していたあの父親はかなりの強者だろう。
隠蔽スキルを使用しているのか、存在感は薄れているが、魔力を隠しきれていない。
剣の使い手でありながら、魔力の気配が濃く、娘共々魔法の使い手だと感じた。
こんなに質の良い回復ポーションが簡単に生産出来るなどと広まれば、更に狙われてしまう。だが、これは魔物と戦うための騎士や冒険者達の必需品。溢れさせてもいけないが、欠品させてもいけない。
取り敢えず毎月の納品の契約を交わしたが、それは塩と回復ポーションのみで魔力ポーションなどという稀少なポーションは今はまだ買い取れないとした。
いや、需要はある。あるのだが、こんな迷宮から稀に見つかるような国宝級のポーションをあんな簡単に出してしまえば、さらにあの少女の身が危険だと判断した。
今は駆け出しだが、プロビオン商会が力をつけ、王国に貢献していけば爵位も上がる。身を守る術も持てるだろう。
私は直感に従い、この親子を見守りつつ、力を貸していこう。
それが、商業ギルド延いてはこのエルバーン王国に利益をもたらすだろうから。
次はまた来週となります。




