3 借金の理由
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「…お父様。私はあの者と結婚せねばならないのですか…?」
私は先程まで商人が居た応接間に入り、未だ呆然と座っている父親にそう問いかけた。
「…すまない。私の見通しが甘かったのだ。」
そう言って、項垂れる父親。
「返済の期限はまだなのでしょう?我が男爵領の収穫もこれから…」
「心配させたくなくて、お前には伝えていなかった事がある。今年の我が領の収穫は殆ど見込めない。何故か、去年から作物が育たず、半分にも満たない量しか収穫出来なかった。その原因もわからんのだ。備蓄はもう無い。領民を飢えさせない為に借金をした。だが、その借金をして植えた作物も全滅しかけている。」
そうか…農作物が不良なのね。
半減してしまうって、栄養不足?干ばつ?
作物を枯れさせる何か?を撒かれた可能性もある。
やっぱり、あの商人に謀られたのかもね。
返済期限は私が成人する15歳。あと5年。
もしかしたら、もっと期限が短くなるかもしれないし。
急がなければ…。
「我が家にある金目の物を全て売り払いましょう。お母様の形見の品も…売りましょう。」
「それでも、足りないかもしれん。古い物は安く買い叩かれる。」
「悩んでいても解決しません。今は少しでも売れそうな物を探して来ます。」
そうよ。形振り構っていられない。亡くなった母様のアクセサリーやドレス、屋敷内の売れる物探して少しでも借金返さなきゃ。
「イリーナも手伝って。金目の物探すわよ!」
イリーナは私の侍女。
そして私はイリーナを伴い、生前母様が使っていた部屋に入った。
もう3年程簡単なお掃除しかされていないからか、少しカビ臭い。
お母様のアクセサリーボックスを探す。
鍵付きのチェストの中にあるのは知っていたが、お母様が亡くなってから一度も開けていない筈だ。
譲り受けた鍵で開けてみると、アンティークと呼ぶよりは薄汚れて染みになっていたり、錆びが浮いた感じになってしまっている。
手入れせずに3年間放置したせいかもしれない。
このままじゃ高くは売れないわね。
どうする?洗う?水洗いしても良いのかな?
「とにかく綺麗な状態を取り戻さないと…」
思案しながら指で擦ってみた。
え?
なんで?
ピッカピカ?!
指でひと撫でした所から綺麗になっていく。
「これ、いけんじゃね?新品同様の輝き、戻ったよね?!」
あっと、貴族令嬢にあるまじき言葉を発してしまった。
侍女のイリーナがびっくりしている。
どっちに驚いたんだろう。宝石が綺麗になった事か私の言葉遣いか…。
まぁ、それどころじゃないんだ。
私、なんかスキルとか持ってたっけ?
神様と思しき方から貰ったのは『時空魔法』だったよね。
いざとなったら運び屋でも出来るように選んだんだ。
『瞬間移動』『時空間収納』とかが目当てでね。
あと、攻撃系は重力を操れるんなら儲けものだ。
時と空間の魔法…空間の方を重視してたけど、時の方も検証した方がいいだろう。
だって、このアクセサリーの汚れは、落ちたわけじゃない。
使用時に付いたであろう傷や歪みさえ無くなっていたのだから。
そう『元に戻った』『新品』に見えるんだもの。
私の考えが正しければこの力で、壊れた物を元に戻す、或いは朽ちさせるとか出来るかもしれない。
うふふ。
お母様のクローゼットのボロボロのドレスだって、多分直せる!
ほらね。新品のドレスに戻った!
これなら売れる!