2 話が違うよ!
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私はフランデア・フォン・プリビオン(10歳)、男爵家長女。
男爵家とは言ったが、地方の貧乏貴族の一人娘である。
現在、屋敷の廊下で蹲っている。
何故か?ひどくショックを受け、その衝撃の所為か様々な記憶が一気に頭の中に流れ込みパニックになっている。
うう…頭がいたい。
だが、思い出した。
前世の記憶…神から告げられた言葉。
いや、そんな事よりも…さっき聴こえた話の内容が酷すぎる!
『借金を帳消しにする代わりに婿として』
これを提示してきたのは商人。
一瞬、息子でもいるのかと思ったけれど、違った…当の商人自身を私の婿に迎えろと言ったのだ。
太ったおっさん商人…歳いくつだよ!しかも悪人っぽい人相だったし。嫌悪感が治らない。
私は今10歳。この世界の成人は15歳。
年端もゆかない平民の少女が、借金のカタに年配の金持ちの所へ売られるのは良くある事らしい。
だけど、ウチは貧乏ではあるがれっきとした男爵家なのだ。
…まさか、小さい女の子が好みとか?
そう思ったのだけど…廊下ですれ違ったあの男の視線が、恐ろしいなんてもんじゃなかった!
まるで自分が追い詰められた小動物のように感じた。
殺される。そう思った。刃物で脅された訳でもないのに身体がすくんで動けなくなった。
…やはりこの男爵家に入り込んで、乗っ取るつもりなのかもしれない。
前世の記憶を思い出す前だったし、10歳の世間知らずのお子様にあの視線はきつかっただろう。
すれ違った後、私はこうして崩れ落ち、蹲っていたのだ。
だけど、私も確かに怖い。
何とかしないと、私は借金のカタに、あんな得体の知れない父親より年上の商人と結婚しなくてはならなくなる。
…それで父様や私の身に何かあれば、男爵家はあの商人のものになる。
やだどうしたらいい?
もう!『身分の良い健康な器はサービスで』なんて言ってたけど、まず身分、男爵微妙!健康だけど、お嬢様として大切に育ててくれたのは良かったんだけど、ひ弱!全然話が違う!
だから、不躾な視線を浴びただけでこんな風に倒れちゃうのよ。
こうして前世の記憶も取り戻したんだから、何か出来る事はないか。
そう、その借金を返せばいいの。
働く?
子供には無理だ。
何とかして借金を返済する手段を考えないと。
だけど、先ずは借金した経緯とあの胡散臭い商人を調べてみよう。
何故、我が男爵家が借金する羽目になったのか。
まあ、調べるって言っても父親に聞くしかないよね?
介抱されていた私は使用人に支えられ、まだガクガクする自分の脚に情けなくなりながら、立ち上がる。
あー…ちょっとこれ、身体鍛えないとヤバいわ。