13 馬トカゲ
一面、緑の草原の様だった麦畑は月明かりの下で黄金色に変わりたわわな実をつけている。
これでいい。
きっと、村の皆驚くだろうな。
明日総出で刈り取りしてもらおう。
そして、再び種を蒔いてもらう。
これをあと、2回繰り返して、大量にストックしとかないと。
でも、これくらいしないとこの領は潰れる。
あの商人に取って代わられるか、お父様が貴族爵位を取り上げられて、隣領に併合されてしまう可能性もある。
この村はひいお祖父様が開拓したと聞いている。
それから少しずつ農地を増やし、村を広げ、今は維持するのが精一杯なのだ。
しかし、お父様の代で何か結果や功績を出さないと、せっかくここまで苦労して開拓した村が取り上げられ、誰か知らない他の人に下賜される褒賞になってしまう可能性がある。
まあ、こんな辺鄙で田舎の小さな農村なんて要らないとか言われちゃいそうだけど…それはそれで悲しいが。
とにかく、新たに村を大きく広げたーとか、なにか名産を作って献上するとかなんかしないと、ヤバいのだ。
現在、お父様が絶賛借金中でそんな余裕もないようだから、私が何とかするのだ!
まず、王都に納める税は麦でいい。
そして、多分だが、儲かるのはお酒じゃないかと考えた。
けど、ビールを作るには、ホップが要る。
果たしてこの世界にホップはあるのか?
そう考えると、ぶどうとか果物の果実酒も良いかなと思うんだ。
果樹園…いいね。
そのまま食べれるし、デザートも作れる。
発酵や熟成は、私の秘密兵器の時空魔法で一瞬だからね…多分。
まあ、この世界にも独自のお酒の造り方があると思うから、明日、早速皆に聞いてみよう。
はぁ…疲れた。
もうそろそろ帰って寝なおさないと明日活動できないね。
『おいっ!娘!何故森に来んのだ!其方が来んから我が来てやったぞ!』
げ…。
は、白竜さん…何もわざわざ村に入って来なくても…。
しかも、また、中途半端な馬トカゲで…。
『馬トカゲ?!な、何故だ!どこから見ても馬だろう?!』
あー…心読めるんでしたね。
いいです。
まず、その角!普通のお馬さんには角ありません。
そして、その尻尾!トカゲまんまじゃないですか!
『わ…我は竜だ…。』
あっ、開き直りましたね。
でも、そんな奇怪な馬もどきで村に堂々と入って来たら、討伐騒ぎになりますけど。
やめてくださいね。
えっと、まさか、完璧な普通の馬には…ナレナインデスカ?
『むう…なれるぞ!見ておれ!』
すると、角をなんとか引っ込めて、尻尾はサラサラでフサフサの白馬の姿になった。すごい!
…すごいけど…なんか、でかくない?
『…魔力を収める関係上この大きさになるのだ。少しくらいでかい馬もこの世界にはおるだろうて。』
ふぅ…まあ、お父様のスリムな馬よりふた回りくらい大きいけど、立派な白馬だと言うことで許してあげよう。
これなら、白竜だなんてバレないと思うし。
…で、なんでわざわざ来たの?
私、とっても忙しいんだ。
もう寝ないとまた倒れちゃうし。
『いや…其方があれから森に来ないから、迎えに来たのだが。』
ごめん。無理。
私、何とかしてお金稼がないと…極端な話、借金返さないと身体で払わなくちゃいけないの。
身体と言うか、生命かもしれないけど。
体力なくて休まないと倒れちゃうし、森に行ってる暇が無いのよ。
『金?…娘、詳しく話してみよ。話によっては知恵を授けてやらんこともないぞ。』
上から目線だけど…まあいいか。
割と良い竜だよね。
年長者は敬おう。




