12 田舎
夜、こっそり屋敷を抜け出し、村の畑へと向かう。
星空が綺麗。
月は一つで前世と同じね。
月明かりと星の光に照らされ、真の暗闇ではないから、ちゃんと歩ける。
空気が澄んでいて、気持ちいい。
何故、こんなにあっさりと抜け出せるのか…。
この屋敷に衛兵や門番なんて居ないんだもの。
居なくても大丈夫な程ど田舎。
魔物なんて全く襲って来ないし、盗賊も襲って来た事は無いらしい。
ウチが貧乏村だって、わかってるから?
魔物が襲って来ないのは、あの森から魔物は一切出て来ないから。
きっと、あの白竜さんが制御してくれてるのね。有り難い。
あ、そうか、盗賊って森とかにアジト作って居つくんだっけ。
流石にあの森には盗賊も入れないよね。
だから、村の門番とかも居ないんだけど…不用心だよね。
だってこの先、他の領地の盗賊とかが襲って来ないとは限らないんだもの。
ちょっと心配だ。
田舎で貧乏で低爵位で…人員不足。
現在使用人が4人いるだけでも凄いよ。
お給料ちゃんと払えているのかしら?
お父様の執事っぽい護衛が1人、屋敷の雑用で1人、屋敷内の維持で侍女頭1人、私の専属侍女が1人。
領地はこの村周辺だけ。
あ、あと、あの隣の森ね。
まあ、迂闊に入ると入り口で乗り移られて、殺し合いに発展し、更なる奥には魔物がいっぱいいて、手付かずで放置されている恐ろしい森なんだけどね。
でも、薬草が割と良質なものが採取できるらしくて、この前みたいな冒険者が来る。
この森に入るなら、ベテラン冒険者じゃないと駄目らしいのだが、薬草採取なんて新人の仕事だと甘く見て、見事に乗り移られた。
私が時を止めていた間の事は誰も覚えて無くて、お父様達は錯乱した冒険者に襲われた事だけは憶えていた。
お父様は刺される辺りから、私に襲いかかって正気に戻るまでの記憶が曖昧というか、無いらしい。亡者怖い。
冒険者達に記憶が無くて助かった。
私のやった事が村外に広がるのは極力避けたいもの。
そうこうしてるうちに、目的の畑が見えてきた。
なだらかな丘の上に私の屋敷はあり、そこから一本道を降って、村の畑や家屋があるのだ。
誰もいない畑に一人で入り、次々と『祈り』と銘打った時を進ませる魔法を使っていく。
この間芽を出していた麦はほんの数センチほど成長していたけれど、借金を返すにはまだ、あと2回は収穫しないと、追いつかない。
まず、小麦はこの国の主食で、粉にしてパンを作ったりするのに使う。
そして、大麦は私がよく食べさせられている、麦がゆにする。
いつもは種類が違う麦2種を育てているのだが、今回育てているのは大麦の方。
小麦は他の領地でも沢山収穫でき、私が大量に作って値崩れを起こしても良くない。
価値が下がれば、借金返済どころではなくなるし。
大麦なら主食はもちろんのこと、確か、ビールとかの原料、そして麦茶にもなる筈。
だから、ウチの領はこれを売りにするの。
ほんとは、お米が作りたいのだけれどね。
ご飯食べたいなぁ…。
この世界にうるち米やもち米はあるのかしら。
麦は畑に直播きできるけど、お米は水田が必要になるから大変だし、まずお米を探すとこから始めないといけない。
だから、今は無理ね。
麦を美味しく食べる方法も考えないと。
美味しいお酒も名物にしたいわ。
麦茶も美味しいし、お水を沸騰させて作るから、安全な飲み物になるってか、私が飲みたい。
ウチって、本当に貴族家なんだろうか…。
飲み物、白湯なんだけど…どういう事?




