始まりは袋小路のゴミ捨て場
昨日飲んだ格好のまま、寝癖のついた髪を整えて顔を洗う。
顔を拭きながらメモ用紙を開くとなんとまぁデカい事か。なんでここまで大きなメモ用紙を……
開くと地図が書かれていた。いかにもヤンチャな子どもが書きなぐったんじゃないかと言う汚い字。なるほど、字をちっちゃく書けないからメモが大きくなるんだなと納得した。
冒頭には
『バカでも辿り着ける地図』
と、書き殴られている。そんなバカだと思われているかと悲しくなるね。
とりあえずこれを外で出すのは恥ずかしい、出来るだけ暗記していこう。
〜〜〜〜〜〜〜
___まず、来たことがあるかどうかは知らねぇが、近所だ
地図の下にいくつかアニキからの言葉があった。
「地図を見る限り確かに近所だ。徒歩五分もかかんないわ。こんなとこに会社なんか無いよなあ、騙されてんのか?」
近くにあるベーカリーは良く行くパン屋で、おっきいのに安いサンドイッチをいつも買う。これがまた美味いんですよ。
じゅる。思い出したらお腹すいてきたな。そいやなんも食べてないし、行くついでにサンドイッチを買って行こう。
と言うことでとりあえずの目的地をパン屋に決定して歩く。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「いらっしゃいませ〜」
「お久しぶりです」
「あら、お久しぶりね。今日もサンド?」
「はい、久しぶりにこっちの方に来る予定があったのでついでに」
「ふふっ、いつもありがとう」
いつものように、年上のお姉さんが声をかけてくる。無駄に妖艶。凄い色気です。なんでパン屋なんか…この人も良く考えれば謎だよな。
噂によるとこの店を任されてはいるがパンを作ってる所を見たこと無いし、工房らしき物が入る隙間もないじゃないか。んー、何処からか仕入れてるのかな?
あ、俺も近所だけどもう眼の前のこの人ならもっと詳しく知ってるかも。聞いてみよう。
「あの」
「ん?なーに?ナンパかしら?うふふ」
「ハハッ。僕にそんな度胸ありませんよ。えっとこの辺で会社を探してるんですけど…」
そう言って地図を見せると、パン屋のお姉さんは一瞬目を大きくした。ん?てことはやっぱあるんだ。全然知らなかった。
「その場所を何処で知ったのかしら?」
「えっと、昨日知り合った。信じてもらえないかもしれませんがミッ○ーマウスの着ぐるみを被った人です」
「そう…」
ん?少し動揺してる?でも俺の返答を聞くと何かを考えるように目線を伏せた
「私は知らないわ。ごめんね、力になれなくて」
「あ、いえいいんです。後、これください」
絶対なんか知ってるだろ!と、そこまで聞くほど仲良くもないのでその話を切り上げ、いつも買う二分の一にカットされたフランスパンにタマゴやチーズ、トマトにレタスを挟んだサンドを買う。これで180円て!お財布に優しすぎるぜッ。
新たな情報も得られなかったし、ならさっさと探すかと店を出ようと扉を開けたところでお姉さんから声がかかる。
「ねえ、坊や」
「はい?」
「その地図の先にある物は、貴方の目を疑うかも知れない。でもそれは間違い無くそこにあるものよ。疑うなら、貴方の常識を疑いなさい」
「え?それって」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
ニッコリと微笑むお姉さんは、話は終わりと切り上げるように笑う。
クソ!絶対知ってるじゃねーか!声には出せなかったが、心の中でそう叫び「行ってきます」と言い店を出た。
〜〜〜〜〜〜
___真っ直ぐに進み、目印は黄色い屋根の家と緑の屋根の家。その家の間にある道へ行け。曲がるとそこは袋小路だ。
うんあったあった。ここまではどうやらほんとの様だ。ある程度覚えてきたけど、まさかって疑う様な情報ばっかでいまいち信憑性が薄いんだよな〜。イヤ信じてはいるんだけど、汚い字のせいで子どもと宝探しをさせられている気分。
そんな事を考えながら、お目当てのの黄色と緑の屋根の間にある細い路地に入る。
___袋小路の1番奥へ行け。ゴミ捨て場がある。
袋小路の奥には確かにゴミ捨て場らしき場所がある。
「あそこか」
___全てゴミをどけると、地面と壁の間にスイッチがあるはずだ。探せ。
「うえ、ゴミ触るのか。まあ軍手も持ってきてたしやるか」
両隣の塀に囲まれ、その家から生える木のせいで昼間でも薄暗く、そんな場所でゴミを漁るなんて変質者だろ。とは思うがとりあえずやる。
「あった」
スイッチがあった。オンオフに上下にカチっとするタイプのやつだ。普通ならば『ON』『OFF』と書かれている場所に『閉じる』と書いてある。これをあげると多分『開く』になるのだろう。
___そのスイッチを上げろ
本当にこれをあげるだけ?だけど地図にはここまでしか書いていなかった。上げると、どこから迎えに来るのか?
考えていても答えは分からない。アニキを信じて、とりあえずスイッチをあげてみよう。
恐る恐るスイッチをあげる。
『閉じる』と書かれていたスイッチが『オープン』に変わった。そこは英語なのかよ。
どうでもいい事を考えていたらスイッチ以外の全てが黒く染まっている。塀も、ゴミも、全てがない。
全てが黒で染まっている。
「え?どうゆうことだ」
後ろを振り返っても、そこに目印の黄色と黒も見えない。は?どうなってんのコレ。
___ゴミ捨て場は終わりじゃねェ、そこから始まるんだ。
「これどうなってんのアニキ!ちょっと早く電気点けて…いや昼間なのは知ってるけど!」
___そこから、そのスイッチから逆転してやろう。お前の人生はそこから始まる。
目の前が明るくなる。今度は光量が多すぎて目が開けられないほど。眩しすぎて、目を瞑る
周りがざわめき出した。沢山の気配を感じる。
「おい、工場長に連絡しろ。生産が追いついてねーぞ」
「俺だって手が離せねーよお前が行けや。手そんなあるなら一本くらいどうってことねーだろ」
「全部使うんだよ! 二本しかねーくせに生意気に俺に意見してんじゃねー!」
「なんだとコラー!」
「おい喧嘩すんなアホども。お客さんだ」
アニキの声が聞こえる。うっすらと視界が戻ってきた。目が慣れてきたのか、はたまた光が治まってきたのか。
「…アニキ?」
「おう、よく来たな。夢」
「ここがアニキの…?」
あたりを見回す。巨大な、円柱の様なホール。見上げても天井が見えない。ホールに階層ごとに丸く廊下が備えられていて、等間隔で扉が並ぶ。そこから色々な部屋に行くのだろう。てか何階建てだ…いやそれより……
「あの…アニキ。えっとここで働いているのって…」
「ああ?そんなん見りゃ分かんだろ」
様々なおもちゃがそこかしこでうろちょろと働いている。ブリキの人形やぬいぐるみ、ミニカーらしきものに乗って疾走するグリーンアーミーまで…
「お、おもちゃ」
「あぁ、そうだ。ここが俺の会社だ…」
マジか。え?どうなってんのこれ…は?
「…そして今日からお前が働く会社だ。ようこそ、夢」
「ええええええええええ!」
俺の叫び声が、ホールに木霊した。