飲みで自慢はうるせーし、帰ればピンポンうるせーし
こんばんは
「だからァ、聞いてくださいよ先輩。そんなこんなで内定が4社っスからぁ」
ビールをグビグビっとしてプハーする竜二。「あ、肉が焼けてる」なんて言いながらひょいひょいと肉を摘まんでパクパク食べる。
因みにその肉、ずっと俺が育ててた奴だから。
今、俺たちは某焼き肉店の某々苑に来ていた。
「先輩ッ!やっぱこうゆうときは肉ッスよ肉!」
そう言うと俺の意見も聞かずに某々苑に入って行ったからね。俺の意見はどこに?
まあ奢りだし、俺も肉は好きだから文句は言わないけどさ。
そこで、やはりと言うか流石と言うか、竜二は席に着くなり内定自慢を始めやがった。頼んだビールより先に「俺来年から就職じゃないっスか〜?んで面接結構行ってるんですけど今んとこ内定4社〜」とやいのやいのと喋り始めた。
う、羨ましい。だが決して顔には出せない。コイツが喜ぶから。
だから、俺には適当に相づちを打つしか出来ることは……ないのだ。
「だから、適当に顔作って「社会人としての自覚と責任を御社で〜」とか言ってたら何か貰えたって訳なんっスわ〜。いやー、就職ちょれ〜」
腹を抱えて足踏みをして1人で大笑いをしている。ム、ムカつく。もう相づちもしてないのに延々話し続けてくる。
取り敢えず高い肉頼んで少しでもコイツにダメージを与えなければ……
「すいません注文お願いします。上カルビと上ロース。後、ずわい蟹下さい」
ふん、どうだ思い知ったか。俺を怒らせた罰だ。くらえ上物アタック。
「え?そんなのあるんスか?へー……良いっスね。店員さん同じものもう一人前ね」
な、何だと……無傷だと…
上物アタックをスルーするなんてどんな神経してやがんだ。ズワイのコラボと言う一捻り迄加えた大技だぞ…
俺がそんなことを考えてる間も話は進む。
「って事でどこの会社にしようか迷ってるんですよ〜、ねー何処が良いと思いますぅ?無職のセンパァイ」
「ッッ!」
ニヤニヤした顔でそう言ってくる竜二を見て分かった。コイツ、就職自慢をして俺の反応を見るためだけに誘いやがった。何て性格の悪い奴だ。
「…お前、そんな俺の不幸が面白いか」
「そんな事聞いちゃうんすか? 言うまでもなくサイコーっスよ。今日のご飯は今年最高にメチャウマでお酒も進む進む! あ、店員さ〜ん。こっちビール追加ね〜」
運ばれて来たビールを飲む竜二を見ながら自己嫌悪に苛まれる。俺はバカだ。こんな性格が悪い奴が誘うメシにひょこひょこ付いて来て。
財布にダメージを与えるとか言って俺の方が傷付いてるじゃねーか。こんな事なら来なきゃ良かった。
「…帰る」
「え?帰っちゃうんでっスか?待っ、せめてさっき頼んだの食べてからにしましょうよ〜」
そう言う竜二を置き去りにして、逃げるように帰った。
「クソ、美味いもん食いに行って、あんなに美味しくないと思ったのは初めてだ」
ボヤきながら帰宅途中、風景を流れるように見る。これだけ沢山の人が居て、世界に1人だけの様な浮いた気持ち。もうイヤになる。いろんな事があって、情けなくて惨めで、きっと俺は此処から何処かへ行くことは…出来ないんだ。
ゴミ捨て場が目に入る。それを見て思う
多分俺が今いるこの場所が、人間のゴミ捨て場なんだ。
皆が必死に生きているのを、手の届かない所から眺める事しか出来ない。手を伸ばしても、声を上げても、誰にも見向きもされない。ゴミ捨て場から誰も俺を拾わない。
クソッ
涙が溢れてくるが、それを拭ったら最後の自尊心まで折れてしまいそうで、流れる涙をそのままに駆け足で家に帰った。
自宅に着いて、シャワーを浴びて濡れた髪も乾かさぬままベットに大の字になる。
今はこの六畳一間のアパートだけが俺の安息の地のような気がして、安心感の中で天井を見つめていた。とりあえず今は何も考えたくない。
竜二と居た時間を忘れたい。てかもうアイツに会いたくない。あ、でもせめて1発殴りたい。殴った後にもう会いたくない。
ピンポーン
うるさいな、今日は誰にも会いたくないんだ。シカトしよ。
ピンポーンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポピンポンピンポーン
ガバッと起き上がる。
一発殴りたいと思ってたら神さまが竜二を連れて来てくれた! 多分これで1発殴ったらそのままもう二度と会うこともないんだ。ありがとう神様! 最高のプレゼントです!
パンツ一丁だけど、取り敢えず殴ってから服を着よう
玄関に駆け寄りガチャリ、扉を開けてそのまま殴りかかる
「此処であったが100年目ぇ………え?どちら様…?」
拳を振り上げたまま固まってしまう。
そこには竜二では無く、白いスーツに身を包んだ、ミッ◯ーマウスの着ぐるみを頭に被った男が立って居たのだから。
「探したぞコラ」
なんか目が腫れました。これ何ですかね?なんなんだ?視界が霞む〜