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第98話 本題



 マリーさんに憎悪の目で睨まれて、気まづくて目を背けていると、前から咳払いが聞こえる。


「んっん! 君たち、本題に入っていいかな?」


 そうだ、キールさんがいたのを忘れていた。

 今にも魔法を撃ってきそうなマリーさんだが、一度舌打ちをしてから僕から目線を外す。


 良かった、キールさんありがとうございます……。


「そうね、私たちも暇じゃないし単刀直入に言うわ。黒雲病の完治薬の数十個、そしてそのレシピを要求するわ」


 マリーさんはソファの背もたれに寄りかかり、足を組んでそう言い放つ。

 誰がどう見ても物を頼む態度ではない。


「もちろん、お断りするよ」


 キールさんは前のめりで笑顔だが、膝に肘をついて手に顎を乗せている。


 外交ってもっとなんか、丁寧な口調でするものじゃないの?

 お互いに相手を舐め腐っている感じが凄いけど。


 マリーさんは完全に態度が物語っているけど、キールさんは心の中で凄い見下してそうだ。

 笑顔なんだけど目が笑っておらず、マリーさんのことを見てるようで見ていない気がする。


「お二人はノウゼン王国の数少ないS級冒険者、ということで実力は相当なものだろう。だがこのような外交をわかっていない様子だ」

「へー、どういうことかしら?」


 少し嘲笑気味に笑みを浮かべ、顔を横に振るキールさん。

 マリーさんが怒るように問いかけても、特に臆することなく話を続ける。


「君たちがどれだけ我々より強くても、完治薬やレシピをタダで渡すわけにはいかない。ここで屈してしまったら、外交の意味はないだろう。それでも武力で奪おうとするのであれば……戦争をするしかない」


 最後の一言は笑顔もなく、真剣で怖い表情でそう言ったキールさん。


 戦争……まさか黒雲病の完治薬の話が、そこまで飛躍するとは思ってもいなかった。

 国と国が戦いあう戦争、それがどれだけの被害が及ぶのか想像も出来ない。


 さすがに戦争をしてまで、完治薬を求めていない。

 というか黒雲病で苦しんでいる人々を救うために完治薬が欲しいのに、戦争なんてしてしまったら本末転倒だ。


「お互い、戦争はしたくないだろう」

「ええ、そうね。それには同意するわ。それにもちろん、私たちもタダで貰おうとはしてないわよ」


 そ、そうだよね。

 さすがに黒雲病の完治薬を貰うんだから、それ相応のお返しはあるよね。


 やっぱりこういう時はお金なのかな?

 いったいどれだけのお金があれば、完治薬のレシピを貰えるのか……。


「残念だが、お金だったらどれだけ積まれても渡すなと言われている。あれは金で買えるほど価値が安くないらしいからね」


 お、お金じゃ買えない?

 じゃあどうすればいいの?


 というかフォセカ王国的には本当に渡す気が全くない、って感じなのかもしれない。


「じゃあ何が欲しいのかしら?」

「さあ、私たちが利益になるものだね。それはそちらで考えてもらわないと」


 そう言ってキールさんも背もたれに寄りかかり、足を組んだ。

 やはり黒雲病の完治薬やレシピを渡す気は最初からないよう見える。


 そしてこちらが莫大な金以上に価値があるものを、出せないと考えているようだ。


 どうするんだろう……。

 マリーさんが交渉は全てやると言っていたから、アイリさんも僕も何も言えないけど……。


 チラッとマリーさんを見ると――口角が上がり、ニヤリと笑っていた。


「そうね、金が無理だったら私たちとしては、やっぱり武力に頼るしかないわね」

「っ! ……本気かな?」


 マリーさんの言葉を受けて、キールさんの顔から笑みが消えた。

 今のはつまり――戦争をする、ということなのだろうか?


「あら、勘違いしないでくれる? 私が言ったのは、武力を差し出す。つまり私とアイリ……ついでにこの鳥が、あんた達が必要としたら武力を貸し出す、って言ってんの」


 ついで、って言われた。

 いやまあ、勝手について来たのは僕だから、反論は出来ないけど。


 武力ってそういう意味か。

 戦争をするのかと思って、ビックリした。


「君たちの武力は、確かに魅力的だろう。だがそれはつまり、必要になる時が来るまでいらないということ。それだったら今、君たちに完治薬を渡すというわけにはいかないだろうね」


 フォセカ王国にとってもS級冒険者の力は相当なもの、と考えているようだ。

 だけど今その武力を必要としていない、ということだったら、今完治薬を渡してしまったらタダと同然だ。


「ふふっ、そうね。やっぱり私たちの力は使い所が困るわよね。たとえば……クラーケンが出没した時、とかね」

「――っ! なぜそれを知っている!?」


 キールさんは目を見開いて、大声でそう聞き返してきた。

 今までの余裕は消え去っている。


「ここから西の方へ行くと、海があるわよね。そこに伝説の怪物――クラーケンが現れたと聞いたわ。噂程度の話だったんだけど、あんたの反応を見る限り本当のようね」


 マリーさんはしてやったりというような顔で話を続けた。


「自給自足をしているフォセカ王国としては、海の幸が取れないのは辛いわよね。軍を動かすのも一苦労。……どう? 私とアイリ……ついでに鳥で、それを倒してくるわ」

「っ! ……ちょっと待ってくれ。そこまでの話になると、私だけじゃ判断出来ない。王に、話さないといけない」

「いいわよ、待ってあげるわ。どれくらいかかる?」

「二時間以内には」

「わかった、早めにね」

「もちろん、早急にするよ」


 キールさんは少し慌てながら、応接室を出て行った。


 まさか最後の最後で有利になるような情報を持っていたなんて。

 マリーさんは意外と交渉が上手いようだ。


「はぁ、疲れたわ。これでなんとか首の皮一枚繋がったわね」

「お疲れ、マリー」

「え、ええ、ありがとう……!」


 アイリさんの言葉で顔を少し赤くして嬉しそうにする。


「クラーケン、っていうのと戦うの?」

「ええ、そうね。上手くいけばそういうことになるわ」

「強い?」

「多分ね。怪物と言われてるぐらいだから。まあドラゴンとか、竜種ほどじゃないとは思うけど」


 クラーケンか……あまり知らないけど、前世では海に住んでいる怪物というのは聞いたことがある。


 僕が戦ったドラゴンよりかは弱いらしいけど。


 海、つまり水か……。

 唯一の弱点なんだよなぁ……。



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