第95話 入国?
先程の攻撃を受けてからは何もされずに、城壁の前まで来れた。
城壁の上で慌てたように色んな人が話しているのが見えるので、また攻撃してくると思ってたけど、さっきの魔法の攻防で負けたことにより萎縮したようだ。
アイリさんが言うには、エルフがしてきた攻撃は合体魔法ではなかったみたい。
だからこちらの合体魔法が簡単に突破したということだ。
合体魔法はとても強く、二つの魔法というのは同じだったのに、合体魔法というだけでその威力は違った。
「ヘレナの言う通り、あっちは魔法の威力は高いみたいだけど、魔法操作は下手みたい」
「そうね。ま、まあ、私とアイリの合体魔法が強すぎたってのもあると思うけどね!」
というか二人は初めて合体魔法をやったはずなのに、何も打ち合わせもなく出来るって凄いなぁ。
前に僕もアイリさんとやったけど、あれはアイリさんが合わせてくれたから出来たので、僕はただ炎を放っただけだ。
そう思うと、今回はアイリさんが「合わせて」って言ってたから、マリーさんが合わせたのかな?
お互いにS級冒険者なので、そこは流石って感じだね。
「で、ここまで来たけど、やっぱり扉は見当たらないわね。だけどあそこね」
「うん、魔法で隠してるみたい」
二人はもう見破っているのか、城壁の同じところを見ている。
道なりに進んだところにあるわけではなく、少し道が外れたところに扉があるようだ。
僕には全くわからない。視力が良いからといっても、そういうのを見抜けるわけではない。
なんか悔しいなぁ……僕もそのうち出来るようになりたいな。
「ここまで来ても門番の誰もいない、ってのは予想できたけど……あと数分待って誰も来なかったら、あそこの扉ぶち破るわよ」
「うん、それがいいと思う」
「キョ!?」
まさかの強行突破に驚いてしまう。
そんなことしていいの!?
一応こちらは黒雲病の完治薬を貰いに来ている立場だから、そんなことをしても大丈夫なのか……。
僕の驚いた声に反応したマリーさんが、なぜ驚いたのか理解したようで説明してくれる。
「ギルドの役人に聞いたけど、もうすでにこの国には『完治薬を取りに行く』って伝えてあるのよ。まあ返事はなかったらしいけど。だから来ることがわかってるのに攻撃をしてきて、扉も開けないというのならばぶち破るしかないわ」
そ、そうなんだ……。
確かにそれはあちらも悪い気がするけど、了承もされてないのにここまで来る僕たちもどうかとは思うけど……。
まあ、どっこいどっこいってことで、うん。
「ちょっと待ってくれ、君たち」
そんな物騒なことを話していたら、突如上から声が響いてきた。
見ると城壁の上に人がいて、その人が話しているようだ。
上から大声で話しているわけではないみたいで、魔法でこちらまで届くようにしているのか。
その誰か、おそらく声的に男性は、そのまま話し続ける。
「君たちに魔法を放ったのは詫びよう。放った者なのだが、君たちが来ることを知らなかったのだ。私たちの情報伝達不足だ、すまない」
意外と紳士的な対応に僕だけじゃなく、二人も驚いてる様子だ。
「こっちの声も……届いてるわよね、さっきの会話を聞いてたみたいだし」
「ああ、届いている」
扉をぶち破られたくないから話しかけてきたのだから、こちらも大きな声で話さなくても聞こえているみたい。
マリーさんは僕たちに話すぐらいの声量で続ける。
「じゃあ扉を開けなさいよ。私もアイリも、そこまで気が長い方じゃないわ」
「それもすまないが、できない」
「はぁ? なんでよ」
「王の許可が降りないと、この扉は開けてはいけないことになっている」
「なんで許可が降りてないのよ」
イラついたようにマリーさんは上を見ながら言う。
「まず君たちが来ること自体、王には伝わっていない。王は多忙なのだ」
「じゃあどうするのよ。このままだったら扉を吹き飛ばすしかないわよ」
「さすがにそれをされるのは困るから、そうしようとした瞬間に私たちもそれ相応の対応に入る」
「はっ、本当に舐めてくれるわね」
つまり扉を壊そうとしたら、それを守るために攻撃しに来るということだ。
さっきまでは城壁の上には二人しかいなかったが、喋っている男性も含めておそらく五十人以上はいる。
全員と戦うとなると、いくらS級冒険者二人だとしても不利になるかもしれない。
「私たちも君たちと戦うのは不本意だ。それになにも、君たちを中に入れないとは言っていない」
「はぁ? どういうことよ?」
「この城壁を、登ってきてくれ。そうすれば中に入れることを約束しよう」
「登ってこいって、あんたたちが何か魔法とかで私たちを引っ張り上げなさいよ」
「これは我が国の洗礼みたいなもの。この壁を登ってこれない者に、入る資格などないということだ」
「めんどうくさいわね……扉をぶち破った方が早い気がするわ」
いやいや、それはやめておこうよ。
しかしこの城壁……ノウゼン王国よりも低いと言ったが、それでも二十メートル以上ある。
僕なら簡単に飛べるが、二人は飛べないから出来ない。
それに僕たちが登ったとしても、馬車はどうすればいいんだろうか。
ここに放置しては、魔物に襲われてしまう。
そうなるとアイリさんとマリーさんが帰るとき、歩きで帰ることになる。
どうしたものか……と悩んでいると、僕を抱えているアイリさんが魔法を発動したのか、髪の毛がふわっと浮かび上がる。
「ようするに上に行けばいいなら、話が早い。私が浮かび上がらせれば、済むこと」
そう言って、僕たちを浮かび上がらせた……馬車ごと。
荷車にそれを引っ張ってる馬も風魔法で浮いている。
「ア、アイリ! 無茶しないで!」
「別に難しくない。ちょっと魔力を使うけど、今までずっとマリーに任せてたから、有り余ってる」
「そ、そう……くっ、私も風魔法を使えれば、また共同作業が出来たのに!」
またよくわからない理由で悔しがっているマリーさんだが、僕たちはそのまま浮かび上がっていった。
そして城壁の上まで浮かび、馬と荷車を静かに城壁の上に着地させる。
先程まで話していた男性が、一つ頷いて言う。
「合格だ。ようこそ、フォセカ王国へ」