第93話 エルフの国への道中
無事にアイリさんとマリーさんと合流できた。
ヘレナさんの計算通り、まだ二人はフォセカ王国に着く前だったので良かった。
今はアイリさんに抱きしめられているけど、やはりというかアイリさんはとてもご機嫌だ。
「ふふっ、もふもふ……」
馬車の後ろに乗っていて、アイリさんは座って僕を抱きしめている。
三日ぶりに僕を抱きしめているからか、とても堪能している様子だ。
それに反して、マリーさんは……。
「くっ……! 私とアイリの二人だけの旅だったのに……!」
御者席でイライラしながら馬を引いてくれていた。
アイリさんとは真逆に、僕が来てからあからさまに機嫌が悪くなってしまっている。
アイリさん大好きなマリーさんなら、そうなってしまうのは当然か。
多分僕に文句を言いたいんだろうけど、アイリさんが側に居るからそれもできない。
ちょっと申し訳ないけど、どうしようもない……ごめんなさい。
完治薬を一個手に入れたら、すぐ帰りますから。
「あの鳥、どこかに埋めてやろうかしら……」
「マリー、何か言った?」
「えっ!? い、いや、何も言ってないわよ!」
アイリさんは本当に聞こえてなかったみたいだけど、僕は聞こえたぞ。
なんて怖いことを言うんだあの人は。
いや、埋められても炎になってすぐに抜け出せるけどさ。
「そういえばマリーは、キョースケをもふもふしたことある?」
「えっ? その鳥をもふもふ?」
「鳥じゃない、キョースケ」
いや、鳥ではあると思います。
「気持ちいいよ。柔らかくてふわふわで、もふもふで」
「そうらしいわね。だけど私は興味な――」
「はっ?」
「――くもないわ! ええ、興味ありまくりよ!」
アイリさんから一瞬の怒気、殺気みたいなものが出て、マリーさんは発言を変えることになった。
前にもこういうことあったな、あれだ、ヘレナさんが僕のことを「可愛いとは思えない」と言ったときだ。
あのときはどっちも引かずに戦いになったけど、今回はすぐにマリーさんが引いてくれた。
というか怒ったアイリさんに立ち向かえるヘレナさんが常識外れなんだ。
「だよね、可愛いは正義」
「そうね、正義だわ。つまりアイリが……」
「つまりもふもふは正義」
「……えっ? そ、そうね、正義だわ」
アイリさんの言い分に反論せずに受け入れるマリーさん。
マリーさん的にはアイリさんが正義で、そのアイリさんが言うことは正義なのだろう。
ちょっと無理やり自分に言い聞かせてる感じがすごいけど。
「マリー、キョースケをもふもふしてもいいよ。私が代わりにやるから」
「えっ? いいわよ、私がやるから」
「……キョースケを、もふもふしたくないの?」
「し、したいわ! 悪いけど代わってもらえる!?」
「もちろん」
ということでアイリさんが御者をやることになった。
マリーさんが後ろに来て、ため息をつきながら座る。
「アイリには負担をかけたくなかったから、私がずっとやりたかったのに……あんたのせいよ」
「キョ……!?」
マリーさんは隣に立っていた僕を睨みながらそう言ってきた。
立つと言っても、座ってるマリーさんよりも頭の位置は低い。
だから見下ろされる感じで言われたので、ちょっとビクッとした。
「私がギルドの役員の同行を断ったから御者がいない。だから私がずっと御者をやるのは当然なのよ。それなのにあんたが来たせいで、アイリが御者をやることになっちゃったじゃない」
こ、断ったんだ。
マリーさんと二人で旅したいから断ったのかな?
だけどそれが自分の我儘だとわかってるから、アイリさんに御者をやらせたくなかったというのはすごいな。
偉いというとなんか上から目線みたいだけど、筋を通しているというのか。
「ほら、あんた、キョースケだっけ? 私の膝元に来なさいよ。アイリに言われたから、仕方なくもふもふしてやるわ。アイリがあんなに言うからするだけで、別に私がしたいからじゃないわ。勘違いしないでね」
なんか前世で聞いたことあるような言葉を聞いたけど、なんて傲慢な態度だ……。
さっき感心した気持ちを返してくれ。
僕も仕方なく、マリーさんの膝に乗る。
「良かった、獣臭くはないわね。そうだったらさすがに我慢できそうになかったわ」
「キョー!」
毎日身体洗ってるよ!
主にシエルやアイリさんにだけど!
さすがに僕もそう言って反論してみたが、当然通じるわけもない。
「まあいいわ。確かアイリはいつもあんたを抱きしめていたわね」
マリーさんは僕を両腕で覆うように抱きしめた。
「……そうね、悪くないわね。意外と柔らかくて、羽毛がふわふわしてるわ」
そう言ってアイリさんと同じように抱きしめながら翼を撫でてくる。
粗暴な態度とは違い、意外にも優しい手つきだ。
「時々アイリがあんたを抱き枕にして、寝ているって聞いたけど……納得のふわふわ、もふもふね……」
マリーさんの言葉が徐々に弱くなっていく。
「だけど私は……認めないわよ……私だって、アイリと抱き合って……」
その後も何か言おうとしていたのがわかったが、その言葉は続かず。
マリーさんは目を閉じて、眠ってしまった。
この旅で疲れていたのだろうか?
さっきもずっと御者をやっていると言っていた。
「キョースケ、マリーは寝た?」
アイリさんは後ろを振り向いて、こちらを見ながらそう言った。
僕は「キョー」と返事をしてみる。
「そう、良かった。マリーはなぜかこの旅で気合いが入ってたみたいで、魔物が出てきたらすぐに倒してた、私が出る前に。だから疲れてたみたい」
あ、そうなんだ。
さっきのギルドの役員の人を来なくさせて二人の旅だから、気合いが入っていたのかな。
「あと一時間ちょっとでフォセカ王国に着くから、そのまま寝させてあげて」
「キョー」
「ふふっ、ありがとう」
アイリさんはそのまま前を向いて御者をやり続ける。
僕はマリーさんが起きないように体重移動をして、寝転がせる。
座った体勢のままじゃしっかり寝れないと思うしね。
そしてそのまま一時間ほど、僕はマリーさんに抱かれたままゆったりと時間は流れた。