第86話 見覚え?
昨日とは違うA級の依頼を受けて、僕たちは無事に達成した。
オルウルフの依頼に比べれば今日は簡単な方だった。
昨日は暗いところを襲いかかって来られて、ビックリしたし神経使ったからね。
明るいところだったら、シエルはA級の魔物相手でも余裕を持って戦えている。
やっぱりヘレナさんとの訓練の成果はしっかり出ているようだ。
しかし今日は少し遅くなってしまったので、ギルドに報告をし終わったときには、エリオ君の両親と待ち合わせの約束をした時間が少し過ぎてしまっていた。
急いで待ち合わせ場所に行くと、エリオ君とそのお父さんの二人が待っていた。
二人はこちらに気づくと、お父さんは会釈を、エリオ君は大きく手を振ってきた。
「すいません、お待たせしちゃって!」
「いえいえ、無理を言ったのはこちらなのですから」
「シエルお姉さん、アリシアお姉さん、こんばんは!」
「こんばんはっすね、エリオちゃん」
アリシアはエリオ君の頭を撫でながらそう言った。
というか男の子なのに、エリオ「ちゃん」なんだ。
まあアリシアらしいけどさ。
「妻が夕飯を作って待っています」
お父さんがそう言うので、僕たちはそのままエリオ君の家に向かった。
家は普通な感じで、お世辞にも大きいわけではない。
スイセンの街で仲良くなった、オルヴォさんの家に似ている。
リアナちゃんは元気かな……まだあまり時間は経ってないけど、いつかまた会いたいな。
そんなことを思い出しながら、僕たちは家に上がった。
エリオ君のお母さんは奥で料理を作ってくれていたようで、家に入ると玄関まで出迎えてくれた。
そしてその後、お礼として豪華な食事をご馳走になった。
いろんな種類の料理を出されて、シエルとアリシアは食べるのが楽しそうだった。
僕もいろんなのを食べたけど、やっぱり肉料理が好きかな。
エリオ君はずっと僕のことが気になっていたらしく、ご飯が食べ終わると一緒に遊んだ。
遊ぶと言っても家の中じゃできることは限られるから、エリオ君に僕の足を掴んでもらって家の中を飛んであげた。
とても無邪気に楽しんでくれて、「もっともっと!」と言っていたので何度もやった。
お父さんとお母さんは申し訳なさそうにしていたけど、エリオ君は軽いし全く苦にならない。
むしろこれくらいのことで喜んでくれて嬉しいくらいだ。
それにエリオ君は……!
「炎の鳥って、カッコいいね!」
と言ってくれたんだ!
やっぱり男の子だから可愛いじゃなくて、カッコいいに食いつくよね。
そしてそのエリオ君が、僕のカッコよさに食いついてくれた!
今まで「鳴き声が変」やら「可愛い」などはいっぱい言われてきた。
だけど、「カッコいい」なんてほとんど言われた記憶がない!
しかもこんな純粋無垢な男の子に言われたのは、もうなんか本当に嬉しい!
「キョースケがカッコいいか……ふわふわで可愛いと思うけどね」
「カッコいいよりは可愛いっすよね」
シエルとアリシアがなんか言ってるけど、聞こえない!
男の子だからわかる、カッコよさというのがあるんだよ!
そんなこんなで、僕とエリオ君は彼の部屋で遊んでいた。
シエルやアリシアは両親とお話ししているみたいだ。
今は床に座って、エリオ君が好きな本を読み聞かせてくれている。
文字はあまりなく、いろんな絵が描いてある感じの本だ。
一枚一枚めくって、この絵はどういうのか、ここがすごい、とか教えてもらっている。
主に森とか山、海の景色が描かれている絵で、非常に綺麗で写真と見間違えるぐらいだ。
楽しそうに話すエリオ君、僕もこういう景色とかが好きだから共感できる。
そうして海の話とかをしているときに、急に元気がなくなってしまったエリオ君。
「キョー?」
どうしたの、と聞いてみる。
意味は通じないと思うけど首を傾げて聞いたので、エリオ君は答えてくれた。
「前にね、お父さんとお母さんと海に行く約束してたんだけど、それがなくなっちゃったんだ……」
あっ、そうなんだ……それは落ち込むよね。
楽しみにしてたんだよね。
「旅行をするのにも、あの黒い雲がなかったらもっと簡単に行けるらしいんだけど」
黒雲か。
あれがあるから魔物が凶暴化して、どこかに出かけるのも難しくなっているのだろう。
「一番は、僕が病気になっちゃったから、安静にしないといけないらしくて……」
……やっぱり、エリオ君は黒雲病なんだ。
ときどき服が捲れてお腹とか見えたけど、少し肌が黒くなっていた。
「だけどね、お父さんとお母さん、治ったら行こうって約束してくれたんだ!」
そう、なんだ……。
『……黒雲病は、まだ治る手立てがないんだよ』
シエルの言葉を思い出す。
エリオ君の両親もお医者さんから絶対聞いてるはずだ。
「苦い薬を飲んでれば治るみたいだから!」
エリオ君はそう言うが、
『薬を飲んで進行を遅らせるぐらいだから、入院しててもあんまり意味ない』
シエルはこう言っていた。
だからエリオ君が知らないだけなのだろう。
「治ったら行きたいところいっぱいあるんだ! 山とか森、それに海が一番見たいなぁ!」
エリオ君は輝いた目で、そう言っている。
その姿は……見覚えがある。
いや、見覚えというより、身に覚えがある。
僕もその言葉、言っていたから。
「……あれ? キョースケ、泣いてるの?」
「……キョ?」
僕は知らぬ間に、涙を流していた。