第85話 両親探し
「お父さんとお母さんの特徴とかある? どんな色の服を着てるか、とか」
シエルはエリオ君と手を繋いで話をしながら、街中を歩いて彼の両親を探す。
「うーんと、お父さんは黒っぽい服で、お母さんは水色っぽかった気がする」
「黒と水色ね。何分前にはぐれちゃったの?」
「わかんない、だけどそんなに時間経ってないと思う……」
「そっか、教えてくれてありがとうね」
シエルはそう言うと、僕に目線を向けて来た。
その意味を僕は理解し、頷いてからシエルの肩から飛び立ち、上空へ行く。
飛び立ったときに、「わぁ……!」というエリオ君の声が聞こえてきて、なんか嬉しかった。
両親の特徴と、いつ離れたのかを聞いたので、僕が上からそれっぽい人を探す。
僕は鳥で視力が良いので、人探しには向いているだろう。
お父さんが黒い服で、お母さんが水色……それで、時間はあまり経ってないから、ここら辺にいると思うんだけど。
空にいる僕をときどき見てくる人がいる。
僕は魔物なので騒がれたら大変だけど、ほとんど騒がれることはない。
それは前に、アイリさんが僕を抱きしめながら街中を移動したからだ。
あれのお陰で、僕がアイリさんのペットで、安全な魔物だと街中の人々に知れ渡った。
安全な魔物ではあるんだけど、アイリさんのペットではないんだよなぁ……。
そんなことを少し思いながら、彼の両親を探すこと数分。
ようやくそれらしき人を見つけることができた。
男性が黒の服で、女性が水色の服。
その男女が何かを探しているかのように、慌てた様子で周りを見渡している。
「キョー」
シエルに知らせるために、上空から呼びかける。
他の人もつられて僕の方を見るが、すぐに視線を逸らす。
普通の人だったら鳴き声にしか聞こえないだろうが、シエルには通じている。
「あっちにいるみたいだよ」
シエルは僕が教えた方向に、エリオ君を連れて歩いていく。
僕は彼の両親らしき二人を見失わないために、まだ上空にいる。
そしてその二人がシエルが連れてるエリオ君を見つけて、安心したように笑顔を浮かべて走って近づいていく。
僕はそれを見てから、下へ降りてシエルの肩に着地した。
「エリオ!」
「お父さん! お母さん!」
エリオ君も泣きながら、シエルの手を離して両親の方へ走っていった。
「エリオ! 離れるなって言っただろ……!」
「うん……ごめんなさい……!」
「よかったわ、エリオ……!」
お父さんは怒りながらも、エリオ君の頭を撫でて安堵していた。
お母さんも少し泣きながら、エリオ君を抱きしめていた。
「お姉さんたちが、一緒に探してくれたんだ!」
エリオ君は僕たちの方に振り向いて、涙を拭いてからお礼を言う。
「ありがとう! シエルお姉さん! アリシアお姉さん!」
「本当にありがとうございます……!」
彼の両親も頭を深々と下げた。
「いえ、無事に再会できてよかったです」
「何かお礼をさせてください……!」
「当然のことをしたまでっすよ。まああたしは特に何もしてないっすけど」
シエルとアリシアはお礼の言葉だけを受け取って去ろうとするが、両親は「そんなこと言わず、何か……!」と恩を返したいと言ってくる。
両親の熱い想いに押し切られて、僕たちは夜に家に招待されて夕飯をご馳走になることになった。
「ではまた夕方に! 腕を振るって作らさせていただきます!」
「すいません、ありがとうございます」
「いえいえ、そんな! これくらいはさせてください!」
そういうことで、またここら辺で会うことを約束して別れることに。
エリオ君は「またあとでねー!」と言って手を振ってきて、両親は姿が見えなくなるまで頭を下げていた。
「いやー、なんか夕飯を振る舞われることになっちゃったすね」
「うん、そんなつもりじゃなかったんだけど……」
「あんなに言われたら、断るのがちょっと引けちゃうっすよね」
僕のことを見て最初は驚いた両親だったが、僕が両親を見つけて案内したと言ったら「ぜひお鳥さんも!」ということで、招待されることになった。
「キョースケのお陰ですぐに見つかったよ、ありがとうね」
「キョー」
軽く返事をして、僕たちは依頼を受けるためにギルドへと向かう。
「しかし、まさかっすね……」
「……うん」
ん? どうしたの?
なんか二人が暗い雰囲気だから、そう問いかける。
「キョースケが上で探しているときにエリオ君に聞いたんだけど……エリオ君、病気なんだって」
えっ、そうだったんだ。
だけど結構元気そうだったけど……。
何の病気なの?
「……黒雲病」
っ! 黒雲病って……前に聞いた、あれ?
「うん、そうだよ」
あの黒雲のせいでかかる病気で、皮膚がどんどん黒くなっていっちゃう病気。
その部分が壊死していって、全身に広がりすぎたら死んじゃうって……。
「昨日まで入院していたらしいっすけど、退院したらしいっす」
あ、そうなんだ。
そういえば昨日会ったとき、「久しぶりに外に出た」って言ってた気がする。
だけど退院したってことは、もう大丈夫ってことじゃないの?
「……黒雲病は、まだ治る手立てがないんだよ。薬を飲んで進行を遅らせるぐらいだから、入院しててもあんまり意味ない。だから多分入院してた理由は、ちょっとした検査をしただけだと思う」
……そうなんだ。
つまりエリオ君は、不治の病ということか……。
――僕は少し、前世のことを思い出した。
僕も彼と、同じような立場だったことを。