第84話 迷子?
あとがきを書いているので、ぜひお読みください。
その後、朝食をアリシアと一緒に食べて、シエルは僕を抱き枕に寝る。
いつもなら一時間ほどで起きるのだが、今日の訓練は余程疲れたのか三時間ほど眠っていた。
「ごめん、アリシア! 寝坊しちゃった!」
「大丈夫っすよ。むしろあれだけヘレナちゃんにシゴかれて、午前中に起きられた方がすごいっすよ」
シエルは依頼を受けに行く約束をしていたアリシアに頭を下げたが、彼女は笑って許した。
「本当にごめん……キョースケごめんね、そんな長い間ずっと抱き枕にしちゃって」
「キョースケがシエルちゃんを起こせばよかったんじゃないすか?」
「キョー」
「なんて言ってるんすか?」
「私が疲れてるみたいだからゆっくり寝かしてあげたかった、って」
「ああ、それならしょうがないっすね」
動けないくらい疲れてたから、しっかりと身体を癒して欲しかった。
……というのも、理由にはある。
だけど一番の理由は、僕が考えごとをしていたからだ。
もちろんそれは、僕が生まれた島について。
頑張って思い出そうとしてもやっぱり無理だった。
なぜ思い出せないのか、を考えてもわからない。
三時間考え抜いた上で出た答えは……考えないようにしよう、ということだ。
わからないものは、わからない。
思い出せないものは、思い出せない。
これは多分僕が悪いんじゃなくて、僕の「種」、つまりこの身体が思い出させないようにしているんだと思う。
前々から思ってたけど、この身体は普通じゃない。
魔物だから普通じゃないのは当たり前かもしれないけど、それを踏まえてもおかしい。
他の魔物と比べて、強すぎる。
身体が炎になるし、半年鍛えただけでドラゴンを倒せた。
この小さな身体に、とても強い力が宿っている。
それはドラゴンすら倒し、S級のアイリさんが苦戦するタキシムを一緒に倒せるほどの力だ。
半年間鍛えた、というのもあるが、これは僕の身体がもともと持っていた潜在的な力だろう。
似ている魔物はいるけど、誰も僕の種族を知らないようだし、この身体は謎が多い。
だから島のことを思い出せないのは、この身体のせいだと思う。
もしかしたらこの魔物の習性で、生まれた場所を忘れるというのがあるかもしれない。
だから思い出せなくも、過剰に気にする必要はない……と思う。
そう考えないと、本当に思い出せないことが気になってしまってどうにもならない。
これがシエルが寝ている三時間の間に、僕が考えた結果だ。
ということで、僕たちはまた依頼を受けにギルドへと向かう。
アイリさんとマリーさんがエルフの国に依頼に行っている間は、ずっとこうした日を過ごすことになるだろう。
シエルがA級になるまでは、最速でも二ヶ月ぐらいはかかるようだ。
B級になるときはアイリさんが推薦してくれて一瞬でなったけど、今回はそうはいかないみたい。
A級になるにはしっかりとギルドの難しい依頼をいっぱい受けて、そして最後に試験を受けるようだ。
早くA級に行くために、アリシアと一緒にA級の難しい依頼を受ける。
「今日もよろしくね、アリシア」
「もちろんっす。シエルちゃん強いっすから、あたしも楽できて嬉しいっすよ」
「あはは……それはよかったよ」
ニヤッと笑って正直に言うアリシアに、苦笑いをするシエル。
今日も難しい依頼を受けて、しっかりとこなしていく……はずだった。
ギルドへ向かっている途中、シエルが何かを見て声を上げる。
「あっ! あの子、昨日の……?」
シエルが見ている方向を向くと、帽子を被った小さな男の子がいた。
昨日は暗くて顔とかがあまり見えなかったが、確かにあんな子だった気がする。
「……あれ、もしかして迷子っすか?」
アリシアがその子の様子を見てそう言った。
今にも泣きそうな顔をしながら、商店街を行き交う人々の顔を見てウロウロしている。
「さすがに、ほうっておけないよね」
「まあそうっすね」
二人はそう言うと、ギルドへの道から外れてその子に近づいた。
「ねえ、君、大丈夫?」
シエルがその子に声をかける。
その子は最初はビックリして警戒するようにシエルを見たが、「あっ!」と言って少し笑顔になる。
「昨日のお姉さん!」
「覚えててくれたんだね、こんにちは」
「こんにちは!」
元気よく挨拶をしてくれたが、すぐに自分が迷子だったのを思い出したのか、また不安そうに街中を見渡し始めた。
「お父さんとお母さんは?」
「……一緒にいたのに、いなくなっちゃった」
「そうなんだ。一緒に探してあげよっか?」
「ほんと!?」
男の子はパァッと顔に花を咲かせて、シエルを見上げてくる。
「うん、これも何かの縁だしね」
「ありがとうお姉さん!」
「私はシエル、こっちのお姉さんはアリシア」
「よろしくっす」
「シエルお姉さんに、アリシアお姉さん! 僕はエリオです!」
「エリオ君ね、よろしく」
シエルはエリオ君と手を繋ぐ。
「シエルお姉さん、肩に乗ってる鳥は?」
「私の相棒のキョースケだよ」
「キョー」
「うわっ、鳴いた! あはは、おもしろーい!」
……久しぶりの反応だ、なんか懐かしい気分になる。
そして僕たちは、エリオ君の両親を探すために街中を歩き始めた。
昨日、9/19から自分の他作品、
「死に戻り、全てを救うために最強へと至る」
がマンガワンにて、コミカライズが開始します!(本作のことじゃなくてすいません)
とても綺麗でカッコよく仕上がっているので、ぜひお読みください!
活動報告の方に絵があるので、よかったらご覧ください!
よろしくお願いします!