第83話 島?
A級の仕事を無事に成し遂げた、翌日。
いつも通り、シエルは朝からヘレナさんと訓練。
しかし今日は魔力操作だけじゃないみたいだ。
上空から見ているが、シエルの周りに「火」と「風」、それに「水」と「地」の魔法が行使されている。
「次、水を強く」
ヘレナさんが魔法の様子を見ながら指示を出す。
シエルは言われた魔法の属性を一瞬だけ、強くする。
「弱いです、それに他の魔法が乱れました。次、火を弱く」
「くっ……!」
これは四つの属性をずっと出しておきながら、ヘレナさんに言われた属性だけを強弱させるという訓練だ。
異常なほどの集中力が必要みたいで、シエルは滝のような汗を流している。
一時間の訓練の内、最後の10分ぐらいしかやっていなかったが、終わったときのシエルは……。
「……」
「キョー……?」
死んでる……?
いや、ギリギリ息をしている音が聞こえる。
一歩も動けない、というよりもう指一本も動かせないぐらい疲れてるみたいだ。
「お疲れ様です、シエル様。たった数日でこの訓練を十分も耐えるとは、貴女様は筋が良いみたいです。では、私は朝食の準備をしてきます」
ヘレナさんは倒れ伏しているシエルに一礼して、屋敷に戻っていった。
「キョー?」
シエル、大丈夫?
動ける?
そう問いかけると、隣にいる僕に顔だけ頑張って向けて、ぎこちなく笑う。
「だ、だい……じょうぶ……」
「キョ!?」
全然大丈夫そうじゃないけど!?
その後、僕は屋敷に戻って綺麗なタオルと、冷たい水が入った水筒を持ってきた。
なんとかシエルは立ち上がって歩けるぐらいまで回復した。
「ありがとう、キョースケ。お陰で助かったよ」
「キョー」
シエルが無事でよかったよ。
本当にあのまま放置していたら、死んでいたかもしれないぐらいだったしね。
ヘレナさんも心配だったのか、僕が屋敷に戻ったときには水筒を用意してくれていた。
「今日の訓練は辛かったなぁ……だけど私、ヘレナさんに褒められたよね?」
「キョー」
確かに、シエルは筋が良いって言ってたね。
「初めて褒められたから、嬉しいなぁ。それに昨日の依頼でちゃんと強くなってることもわかったし、もっと頑張らないと!」
シエルはとても良い笑顔でそう言った。
あんなキツイ訓練の後、そんな言葉を本気で言えるなんて、本当にすごいと思う。
僕も訓練をしたけど、そこまでキツイものでもなかったし、むしろ楽しかった。
初めての経験ばかりで、炎を放つとかカッコよくて、前世でも憧れていた。
それに飛ぶのなんて、前世でずっと夢に想っていたことだ。
だからあの島での訓練を思い出す。
思い出す……あれ?
えっ、ちょっと待って……。
――思い、出せない……?
いや、待って、なんでだ?
あの島で訓練したということは覚えている、僕が生まれた島だ。
だけど……その島がどういったものだったのかが、全く思い出せない。
確か洞窟のようなところで生まれたはずなんだけど……それ以外はからっきしだ。
どんな洞窟だったのか、その中に何があったのか、どうやってそこから出たのか、わからない。
なんで?
忘れたという感じじゃない。
なんか思い出そうとするとそこだけ霧がかかって、思い出せない感じ……モヤモヤして気持ち悪い。
だけどどう頑張っても思い出せそうにない。
あの島の場所も思い出せないから、帰り方もわからない。
しかし本当に、なんで思い出せないのか……。
「――スケ……キョースケ?」
「っ!」
「大丈夫? いきなりボーッとして動かなくなっちゃったけど」
疲れているシエルの肩には乗らずに、魔力を使って宙に浮かびながら移動していた僕だが、考えごとをしている間は全く動いていなかったようだ。
シエルが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「キョー……」
うん、大丈夫だよ。
「そう? 何かあったら言ってね、キョースケの相棒なんだから」
「……キョー」
うん、ありがとう。
だけどこのことはシエルに言っても意味がないだろう。
シエルも僕が生まれた島のことなんて、わかるわけないのだから。
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