第79話 薄暗い会議
「それは本当か?」
薄暗い部屋での会議。
蝋燭を一つだけ灯しているテーブルを囲む、三人の男たち。
その中の一人が報告した事柄に、統率者である男が目を見開いた。
「ああ、間違いない。俺がこの目で確認した」
報告した男が、強く頷いた。
先日のスイセンの街で起きたアンデッド出没事件。
それを引き起こしたのが、報告した男である。
本当に気紛れで、自分の力を使ってアンデッドを発生させた。
街を襲わせるつもりもない、久しぶりの肩慣らし程度で。
そこに有名なS級冒険者のアイリと、一介の冒険者、そして――今回の会議で最も重要で対策しないといけない、奴が来た。
アンデッドであるグールの群れをS級冒険者のアイリは軽く倒した。
しかしその後、グールが合体して生まれたタキシムには敵わなかった……一人では。
そこに協力して倒した、奴がいた。
「タキシムの強さはどのくらいだったのだ?」
「ブラックドラゴンほどではないが、とても強かった。あの女でも手こずるぐらいだろう」
あの女とは、いつもこの会議にいる一人の女だ。
しかし今回は呼んでいない、呼んではいけない議題だからだ。
あの女は強い。
ここにいる三人が本気で戦っても、確実に負ける程度には。
三人は気づいている、あいつが裏切り者だということに。
だから本当に大事な議題のときは、呼ばないのだ。
「そいつが、ブラックドラゴンを殺した者なのか」
「わからないが、おそらくそうだろう」
そいつ以外に、ブラックドラゴンを殺せる可能性があるものはいない。
S級冒険者でも絶対に無理だろう。
「でかしたぞ、こんなに早く見つかるとは思っていなかった。しかも、俺たちにとって重要な存在だ」
男たちの野望を、邪魔する存在。
それが今回見つけた奴――不死鳥だ。
そしてあの女も、男たちの野望を邪魔しようとしている。
不死鳥はその手助けをしてしまうので、女には確実に隠しておきたい事柄だ。
「しかし、どうするか……不死鳥を、どう倒せばいいのか、どう殺せばいいのかわからない」
伝説上の生き物で、文献でしかその生態を確認できない。
だがどの文献でも記されているのは――『死んでも、復活する。故に不死鳥』ということだ。
男たちは邪魔になる存在は、ことごとく殺してきた。
しかし今回の相手は、死なないのだ。
対応をどうすればいいか迷うのは、当たり前だ。
また、復活する方法も謎だ。
殺した瞬間にすぐにまた生き返るのか、時間が経ってから生き返るのか。
そこがわかれば、対応の仕方もわかってくるかもしれない。
「不死鳥の戦い方はどうだったのだ?」
「炎を主に使っていた。というより、身体が炎になるといった生態だったな。強化したタキシムの腕を、簡単に燃やし尽くすほど強力だったぞ」
「ふむ、正面から当たれば返り討ちになるか……」
この世界でも強い男たちだが、それ以上に強い者はやはりいる。
ブラックドラゴンやあの女がその最たる例だろう。
そしてブラックドラゴンを倒した不死鳥には、三人がかりで戦っても勝てるとは思えない。
「とりあえずその不死鳥を、一度殺す。それから復活の早さなどを見て考えるぞ」
「そうだな。殺す方法はどうするのだ?」
「炎の鳥ということは、ほぼ確実に水に弱いだろう」
「じゃあ……」
「ああ、お前、さっきから黙っているが聞いているだろう」
二人はずっと黙っている男に目を向ける。
「もちろん、聞いてるよ。今日も良い天気だ」
「ああ、俺たちにとってはな。お前に仕事だ、不死鳥を殺して、その生態を確認しろ」
「僕一人でやるの? 難しそうだなぁ」
「方法はなんでも良い。たとえば――街一つを壊滅させてでも、な」
統率者の言葉を聞いて、男はとても嬉しそうに笑った。
「ほんとう? あはっ、それなら良いね、楽しそうだ」
「では任せるぞ。俺たちは手伝わんからな」
「もちろん、逆に邪魔したら殺すから」
獰猛な笑顔で、席を立ちその男は出て行った。
「……本当にあいつに任せていいのか?」
「ああ、構わん。あいつが失敗しても、他の作戦を考えるだけだ」
「それならいい、お前の指示に従おう」
そうして男たちの会議は、終わったのだった。