第78話 王都の朝
数十分もお風呂に浸かってて、自分はのぼせてしまった……。
「キョー……」
「キョースケ、大丈夫?」
椅子の上でダラけている僕に、シエルが団扇で風を送ってくれる。
やっぱり攻撃をしてくるものじゃなくても、水には弱いみたいだ。
僕以外の女性陣は、誰一人のぼせてない。
女性はお風呂が好きって聞いたことあるけど、みんなそうだったのかな?
シエルとアイリさんはよく僕と一緒に入ってたから、そんな気はするけど。
数分ほどシエルに団扇を扇いでもらって、ようやく体調は良くなってきた。
「ふん、魔獣のくせにそのくらいでへばるなんて、なんて弱いのかしら」
僕のことを見下ろしながら、マリーさんがそう言ってくる。
いや、返す言葉もないんだけど……これは仕方ない。
唯一の弱点である水にずっと浸かってたら、こうなるってことを学んだ。
「というかこの魔獣って本当に強いの? どう見ても強そうじゃないけど」
「マリーちゃんより強いっすよ」
「はぁ!? そんなわけないじゃない! こんな魔獣に私が……!」
「だって姉貴より強いんすから」
「くっ……じゃあ私よりも強いわね」
あっ、そんな納得方法でいいんだ。
「だけど本当にアイリよりも強いの? 証拠がないじゃない」
「姉貴が言ってたんすよ」
「じゃあ間違いないわね」
それが証拠なのか?
本当にマリーさんはアイリさんのことが好きなんだなぁ。
そしてその後は特に何もせずに、みんなそれぞれの部屋に別れて寝た。
僕はアイリさんの部屋で。
これからアイリさんは二週間ぐらい僕と会えなくなるようなので、シエルが仕方なく許したのだ。
いつも通り誰かに抱きしめられて、今日はアイリさんに抱きしめられながら、僕は眠りについた。
――翌朝。
僕とアイリさんは、大きな爆発音のようなもので起きた。
「キョ!?」
「……なに?」
アイリさんは僕を抱きしめたまま、ベッドから上体を起こして立ち上がる。
どうやらこの屋敷も少し揺れているようだ。
「……ああ、そういえば、シエルが朝から訓練してるんだっけ?」
目を擦りながら、アイリさんは言った。
そうだ、昨日話してた。
メイドのヘレナさんに朝から訓練をつけてもらうって。
えっ、だけどさっきの爆発音と揺れは、訓練の影響だったの?
結構激しめ、というか厳しい訓練をしているのか?
シエルは大丈夫かな……?
僕が心配していると、それを察してくれたのかアイリさんが言う。
「大丈夫、安心して。ヘレナも鬼じゃない。殺しはしないと思う」
「キョ!?」
いや、全然安心できないんですけど!?
殺さないって本当に最低限すぎるよ!
それに「と思う」って言ったよね!? 断言できないの!?
そうしていると、また大きな爆発音が響き屋敷が揺れた。
ほ、本当に大丈夫なの?
シエル死んでないよね?
心配だから、見に行こう。
僕はアイリさんの腕から抜け出す。
「あっ……もう、二度寝しようとしたのに」
ごめんなさい、今日も一緒に寝てあげるから。
そうお詫びすることを決めて、僕はアイリさんの部屋の窓から外に出る。
その際に窓は少ししか空いてなかったが、炎になってその隙間を抜けた。
全く隙間がないところは入れないが、少しでも隙間があったら炎になって通り抜けられるのだ。
外に出て音がした方向に飛んで行くと、ヘレナさんとシエルの姿が見えた。
二人の周りには先程の爆発で出来たであろう、大きな穴が二つあった。
その穴は二人が並んで立っている目の前にある。
だからどちらかの魔法、それとも一緒にやった魔法で出来た穴なのかな?
安心したのは、シエルが無傷だってことだ。
ヘレナさんの横に普通に立っている。
僕はいつも通り、シエルの肩に乗ろうとして降りていく。
そして肩に乗ろうとした瞬間……その肩が、無くなった。
「キョ!?」
いきなり着地地点を失ってビックリしたが、よく見るとシエルが地面に座り込んでいた。
「はぁ、はぁ……」
肩で息をしているシエル。
疲れているようなので肩に乗るのはやめて、シエルの目の前に降り立つ。
正面から顔を見ると、シエルは汗だくだった。
「あっ、キョースケ……来て、たんだ」
「キョー?」
シエル、大丈夫?
身体能力を上げる魔法も使えるシエルは、もともと体力も普通の人よりはある。
そんなシエルが、どれくらい訓練をしていたのかわからないけど、こんなにキツそうにしてるなんて。
「うん、大丈夫だよ……別に、怪我したわけじゃないから」
「そうですね。魔力操作を行っていただけです」
魔力操作を?
魔法を放ったわけでもないのに、それだけでこんなに汗だくになるの?
「集中して本気でやれば、これほど疲れるということです。ほとんどの魔法使いが疎かにしがちな基礎練習ですが、これを一番鍛えるべきなのです」
そ、そうなんだ……。
ヘレナさんの異次元なぐらいの魔法の繊細さを知っていると、とても説得力がある。
「シエル様、今日の訓練はこれで終わりです。歩けるようになったら食堂までお越しください、朝食を用意しておきますので」
「は、はい、ありがとうございます……」
ヘレナさんは僕たちに一礼してから、屋敷に歩いていった。
「ヘレナさんはやっぱりすごいなぁ……私の見本で同じことをしてたのに、全く疲れてない」
座り込んで汗を拭きながらシエルは苦笑いしながら言った。
確かにそれはすごいかもしれない。
「キョー」
だけどシエルも鍛えれば、あれくらいできるよ。
頑張って。
「うん、もちろん! 私たちの目標のためだもんね」
汗だくのままそう言って笑うシエルの顔は、やはりとても綺麗で可愛かった。
そろそろ書籍化の情報を言えると思うので、もうしばらくお待ちください!
よろしくお願いします!